2025年11月19日

伝説の万引きGメンが不都合な真実を告発!「お店の真の敵は万引きではない」損失1.6億円超をもたらす“本当の犯人”の正体

伝説の万引きGメンが不都合な真実を告発!「お店の真の敵は万引きではない」損失1.6億円超をもたらす“本当の犯人”の正体
11/18(火) 東洋経済オンライン

 みなさんは、「万引きGメン」と聞いて、どんな姿を想像するでしょうか? 
 鋭い眼光で店内を巡回し、不審な動きをする人物を瞬時に見つけ出す──。
そんなドラマのような光景を思い浮かべるかもしれません。

 果たして、実態はどうなのか。
そのリアルな姿を探るべく、万引きGメン界の“レジェンド”とも言える、株式会社エスピーユニオン・ジャパン代表の望月守男さんにお話を伺いました。
御年79歳の望月さんは、19歳でこの世界に飛び込んでから早59年。
全盛期にはたった1カ月で186人もの万引き犯を捕まえたという、まさに「神の目」を持つ人物です。

 しかし、59年という長いキャリアの果てに彼がたどり着いたのは、我々の想像をはるかに超える“不都合な真実”でした。

 「万引きだけを追いかけても、お店は絶対に救えませんよ」

 そう語る望月さんが向き合い続けてきた、店舗にとっての“本当の敵”とは、一体何なのでしょう。

■日本に「万引きGメン」が生まれた日

 今から50年以上前、まだ「万引きGメン」という言葉すら日本に存在しなかった時代。

 当時19歳の望月さんは、千葉県成田市のとあるスーパーマーケットで、偶然にも人生を変える光景を目の当たりにします。店内をそれとなく見渡してみたら、ほんの短い時間に、3人ものお客様がレジを通ることなく商品を持ち去っていったのです。

 「正直、ショックでした。お金を支払わずに品物を持っていく人がいるなんて、と。でも、それと同時にひらめいたんです。『待てよ、これをビジネスにしたらどうだろう?』ってね」(望月さん、以下同)

 当時は奇しくも、日本全国でセルフサービス形式の店舗が急増していた時期。
「万引きなどの不正行為を摘発・防止し、量販店のロスを減らそう」という彼のアイデアは時代の波に乗り、ロス対策の専門会社を立ち上げるや否や、大手スーパーなどから依頼が殺到。
毎日のように現場に立つなかで、その才能が一気に開花していきます。

 望月さんがたった一人で始めた「不正の取り締まりによるロス対策」という概念。
それが、後に日本の小売業界でスタンダードとなる「万引きGメン」というシステムが、産声を上げた瞬間でした。

■1カ月に186人捕捉の「神業」で警察官をも凌駕

 望月さんのGメンとしての実力は、まさに規格外でした。
派遣依頼を受けたスーパーなどで目を光らせるなかで、1日に最高18人、1カ月で186人という驚異的な検挙数を記録。

 その腕前は警視庁の知るところとなり、ある女性警察官から「同じ店で1カ月の間にどちらが多く検挙できるか、競争しないか」と勝負を持ちかけられたことまであると言います。

 結果は121対120で、見事、望月さんが勝利を収めました。

 そもそも現在、万引きGメンは全国にどれくらいいるのか尋ねると、

 「おそらく600〜700人くらいじゃないでしょうか。
でも、見ただけで怪しい人間がわかり、検挙につなげられるような“ベテラン”は、ほんの数十人だと思いますよ」

 その数十人の中でも、望月さんの観察眼は群を抜いています。
一体、その“神の目”は、店内で何を見ているのでしょうか? 

 「まず、お客様の表情や視線と買い物のテンポ。これで大体わかります。
特にスーパーにおいては、そのお店を信頼している方や、やましいことなく買い物を進めている常連さんは、商品をピックアップするスピードがすごく速い。

 逆に、何か下心がある人間は、やけにキョロキョロとしていますし、動きにも迷いが生じるんです。
他にもカゴの中に死角を作ろうとしているとか、要注意行動はいくつかありますね」

 また、その店の将来性まで見えるというのが、生鮮食品コーナー。
ここには「“宝物(ダイヤの原石)”がゴロゴロしている」と望月さんは笑います。
信頼されているお店の生鮮コーナーは、お客様の滞在時間が短く、活気に満ちあふれている。
それが売り上げに直結するので、“これから繁盛する店”だとわかるとのことです。

■万引きをする人のタイプは“両極端”

 さらに、万引きに及ぶ人物の行動には、ある特徴があると言います。

 「タイプが両極端なんですよ。
わざと親しげに店員に話しかけてみたり、これみよがしにつきまとってこちらの気を引いたりする人もいれば、逆に周囲の人間を排除しようと、明らかに冷たい態度をとるとか、睨むような目つきになる人もいます」

 そうして観察を重ね、経験を積んでいくと、相手が何を考え、次にどう行動するかが手に取るようにわかる「無言の対話」の境地に達するそう。

 「究極的には、その人がどんな生活をしているかまで想像がつくようになります。
簡単なところで言えば、だらしないのか、几帳面なのか。それはね、履いている“靴”を見れば一発ですよ」

 しかし、と望月さんは釘を刺します。
こうした特徴はあくまで傾向であり、それだけで判断することは絶対にしない、と。

 「『顔を見ればピンとくる』なんて言うGメンもいますけど、表情や行動だけで判断して早々に接触すると、誤認確保につながる可能性があり、非常に危険です。
一番大切なのは、地道な追跡と観察で、商品を持ったまま店を出るという犯行の瞬間を決して見逃さないこと。これに尽きます」

 その言葉には、人の人生を左右しかねない仕事の重みを知る、プロフェッショナルとしての覚悟が滲んでいました。

■中学2年生と高齢者層に万引き犯が多い理由は? 

 望月さんの武器は、こうした現場での鋭い観察眼だけにとどまりません。
長年蓄積してきた膨大なデータに基づいた、客観的な分析も得意としています。

 「こちらの図を見てみてください。我々が抽出した、万引き犯の年齢分布です。
一番最近の折れ線グラフが示す通り、ひとつ目の山は、中学2年生にあたる14歳。これは、いわゆる“中だるみ”の時期で、興味本位のいたずら的な犯行が多いのが特徴です。
そして、もうひとつの大きな山が高齢者層にあるのがわかると思います」

 なぜ、高齢者の万引きが多いのでしょうか。
望月さんは、その背景に「まだ終わっていない戦後がある」と指摘します。

 「この高齢者の山を作っているのは、戦前・戦中・戦後の混乱期に幼少期を過ごした方々です。
とにかく食べること、生きることに必死で、『人のものを盗ってはいけない』という親のしつけや思いやりの文化を、十分に受けられなかった世代とも言えるかもしれません。
我欲に走らざるを得なかった時代の記憶が、心のどこかに残っているのではないでしょうか」

 鋭い直感と膨大なデータ分析。その両輪を以て、望月氏は59年間、現場に立ち続けてきたのです。

 そもそも、なぜ人は万引きをしてしまうのでしょうか?  その問いに、望月さんは実にシンプルに答えてくれました。

 「答えはひとつ。『誰も見ていないから』です。
見られていたら、人間はやらないもの。
実際、犯行の動機を集計したなかでも、この答えが断トツでした」

 つまり、万引きが起きる店には、必ずと言っていいほど「見られていない死角(ブラインドスポット)」が存在するということになります。
望月さんによれば、1フロアにだいたい3〜5カ所ほど、万引きができてしまうポイントがあるそうです。

 「例えば、照明が暗い場所、通路が極端に狭い場所、そして商品の陳列が雑然としている場所。こういうところが危ないですね。長年の経験から、お店のレイアウトを見ただけで『ああ、ここだな』とわかるようになりました。
社員を現場に派遣する際には、あらかじめ危険スポットを伝えるようにしています」

■「量販店ロスの一番の原因は、万引きじゃない」

 ここまで万引きGメンという仕事の奥深さについて語っていただきました。ですが、ここからが本当の“問題”です。

 望月さんは「実は、万引き対策は、今となっては我々の仕事のほんの一部でしかない」と言い切ります。
そして、長年のキャリアを積むなかでたどり着いた衝撃の事実を明かしてくれました。

 「量販店のロスの原因として本当に深刻なのは、万引きではない。
『内部不正』なんですよ。それも、最後に店を出ることが多い、店長クラスの人間によるものが非常に多いんです」

 業界では、内部不正を「253」、万引きを「235」という隠語で呼ぶそう。
誰も見ていない閉店後の店内などで、信頼されているはずの人間が不正を働く。
そして年に数回の棚卸しのタイミングで、実在庫数が全然合わないとなり、発覚することが多いとのことです。

 「その被害額は万引きの比ではなく、例えば2012年から2022年に起きた『253』のうち13件だけでも、その被害総額は1億6300万円超に及びます。
だから、表面的な万引き対策だけにとどまらず、真の原因を追求し、コンサルティングを行い、問題を根本から解決するシステムを作る。それこそが、我々がやるべきことなのです」

■自社は「警備会社」でなく「ソリューションカンパニー」

 ゆえに望月さんは、現場では客の様子だけでなく、従業員や店舗のシステムも念入りにチェックし、気になる点があれば店側と一緒に対策を考えるそう。

 彼が自社を単なる「警備会社」ではなく、「ロス対策のコンサルタント会社であり、ソリューションカンパニー(問題解決企業)」だと語る理由はここにあります。
彼の視線が向いているのは、もはや1人の万引き犯ではなく、お店全体が抱えるもっと根深い問題なのです。

 伝説の万引きGメンが長年追い続けてきた「本当の敵」。

 その正体は、意外にも組織の内部にも潜んでいました。
私たちがイメージするGメンの仕事は、巨大な氷山の一角に過ぎなかったのです。

 しかし、その「氷山の一角」である万引きの現場でも、日々、壮絶な人間ドラマが繰り広げられています。

 インタビュー後編では、望月氏の記憶に深く刻まれた「忘れられない事件」に関するエピソードを中心に伺いました。自殺を決意した母親を救った日、そして、1人の少年が自ら命を絶ってしまった悲しい事件。人の人生を左右する仕事の重みと、彼の哲学の原点が、そこにはありました。

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「人の命がかかっている」伝説の万引きGメンが忘れられない"限界超えた母"の事件…犯罪の温床になっている"セルフレジ"不正防止の秘策も明かす
高橋 もも子 : ライター
2025/11/18

日本に「万引きGメン」という概念を作り、その道の“レジェンド”として活躍し続けてきた望月守男さん(79)。最も多いときでは1日で18人もの万引き犯を検挙したというスゴ腕です。

インタビュー前編では、万引きGメンを志したきっかけや万引き犯の特徴、そして店舗で商品ロスが起こる、万引き以外の衝撃的な原因について、59年の歳月のなかで培った経験と膨大なデータをもとに語ってもらいました。

しかし、彼が向き合い続けてきたのは、決して数字やデータだけではありません。
そのキャリアの根幹に根づいていたのは、「万引き」という行為の裏に隠された、生身の人間の壮絶なドラマでした。

後編では、望月さんの記憶に深く刻まれた「忘れられない事件」と、人の人生を左右するこの仕事の哲学に、さらに深く迫っていきます。

今でも忘れられない、とある母娘との対峙

59年というキャリアは、一体どれほどの数の人間ドラマと向き合うことを意味するのでしょうか。

望月さんは、とあるスーパーで万引き犯を1日に3人続けて発見したことを機に、19歳でこの世界へ飛び込みました。
全盛期には1カ月で186人という驚異的な数の万引き犯を捕まえてきた彼が、これまで対峙してきた人間の数は、数万人、数十万人ではきかないかもしれません。

その数えきれないほどの事例の中で、今でも鮮明に記憶に残っている光景が2つある、と静かに語り始めました。

1つは、20代半ばの頃に経験した、2歳と3歳の娘を連れた母親の事件です。

「千葉県の柏市にあるスーパーで、みすぼらしい格好をしたお母さんが、何度も子どもたちを試着室に出入りさせていたんです。
おかしいな、と注意深く見ていると、案の定、真新しい服を着せたまま店を出たので声をかけました」(望月さん、以下同)

事務所に連れて行くと、母親は「すみません、間違えました」と泣きじゃくるばかり。子どもたちも「ママをいじめないで!」と叫びます。

1時間ほど泣き続けた母親に、望月さんは「あなたは悪いことをする人に見えない。泣きたかったら、涙が枯れるまで泣いたらいいですよ」と声をかけ、静かに待ったそうです。すると……。

望月さんの手

人の命を救う日、そして、奪ってしまう日

「公務員の夫がお金を家に入れてくれず、もう生活が限界だと。
せめて死ぬときくらいは子どもに綺麗な服を着せてあげたい、と……。
店を出たら、柏駅で飛び込み自殺をするつもりだった、と打ち明けてくれました」

半信半疑で夫の職場に連絡し、困惑した様子の夫に事情を話しました。
望月さんが話す内容を聞くうち、“事実だ”と気づいた夫は、妻が部屋に残してきたと明かした遺書を持って、慌てて駆けつけました。
そこには、彼女が語った通りの悲痛な叫びが綴られていたのです。

「『こんなにお前を追い詰めていて申し訳なかった』と謝るご主人と、限界を迎えていた奥さんの間に入って、なんとかご家族を取り持ちました。
最後はみんな落ち着いた様子だったので、家に帰したんです。

その1週間後くらいですかね。家族4人で文明堂のカステラを持って、お店に挨拶に来てくれました。
事件があった日は私のことを『ママをいじめた人』と見ていたお子さんが、『おじちゃん!』と駆け寄ってきてくれた。
あの時のことは、今でも忘れられません。
『命の恩人です。やり直してみます』というご夫婦の言葉が、この仕事の重みを教えてくれました」

人の命を救うことがある一方で、その逆も起こり得ます。

望月さんにとって、もう1つの忘れられない記憶は、ある中学3年生の男子が命を絶った、後味の悪い事件でした。

「それは私が捕まえた事例ではないのですが……。
万引きをした男子生徒に対し、店の責任者が感情的に『これでお前の人生終わりだな』と言い放ってしまった。
その子は後日、マンションから飛び降りてしまったんです。
遺書があったことで、そのひと言が引き金になったとわかりました」

この1件は、望月さんの心に深く突き刺さりました。

「だから、『万引きGメンは警察のような存在』なんて言われると、私は非常に悲しくなるんです。
お店を見張って、悪いヤツを捕まえて……って、そんなに簡単な話じゃない。我々の仕事には、人の命がかかっているんです」

再犯を止められない犯人、巧妙化する手口

もちろん、同情の余地のない悪質な犯行も数えきれないほど見てきました。

「高価ではないお菓子ばかりを盗み、7回捕まえた小学校の女性教師。
彼女は窃盗症(クレプトマニア)だったのでしょうね。
あるいは、1個3800円するタラバガニの高級缶詰だけを狙い、8回も摘発した女性もいました」

こうした記憶に残る万引き犯がいる一方で、犯行の手口そのものもテクノロジーの進化と共に巧妙化。
最近では、私たちも利用する機会が増えた“あの場所”が新たな温床になっているそうです。

近年、Gメンを悩ませている“あの場所”とは、「セルフレジ」での犯行。

「セルフレジでの万引きは、立件が非常に難しい。
なぜなら、『犯罪の意思があった』という証明が困難だからです。
商品を2つ重ねてスキャンしたり、バーコードをすり替えたりしても、『うっかりミスでした』と言われればそれまで。検事さんでも起訴できないケースが多いんです」

犯罪の成立要件

犯罪(窃盗)が成立するには、状況証拠と物的証拠の2つが必要

万引きを防止し、売上に貢献する“神装置”を開発

防犯カメラの普及などで万引きの件数自体は減少傾向にあるものの、犯行の質は、より厄介なものへと変化しています。
こうした状況に対し、望月さんはGメンによる人的な対策だけでなく、画期的な装置も開発しました。

「そもそも万引きは、『誰も見ていないから』起こる。
だったら、常に見られているという状況を作ればいい。
そのために開発したのが、この『NPS(ニュープロテクトシステム)』です」

そう言って出してくれたのは、大きな“宝箱”でした。スーパーなどの陳列棚に置かれていたら、一見、単なるオモチャにも見えるこの装置。
しかし、人が前を通るとセンサーが反応し、宝箱がオープン。
箱のなかではライトアップされたお札が軽快なミュージックとともに舞い上がり、音と光、そして動きで周囲の注意を引く仕組みになっています。

犯罪防止装置

「装置が作動すると、周りにいる他のお客様が『何だろう?』と、そちらに視線を向けます。
そんな状況では、さすがに万引きはできません。
さらに面白いことに、この装置の下に置いた商品はお客様からの注目度が自然と上がり、売上がアップするという効果も実証されているんですよ」

まさに一石二鳥のアイデア。しかし……と、望月さんは続けます。

どんなに優れた装置ができても、Gメンとしての根幹の哲学は変わりません。それは、「犯人を捕まえて終わり、ではない」ということです。

「捕まえた犯人をただ警察に突き出すだけでは、実はお店にとってマイナスでしかありません。
その人は二度と店に来なくなり、やがて競合店で買い物をするようになる。
お金(Gメンへの委託費)を使って、ライバル店のお客様を作ってどうするんですか。そんな馬鹿馬鹿しい話はありません」

ゆえに、望月さんが起業したエスピーユニオン・ジャパンが目指すのは、「一度過ちを犯した人を、再び『善良なお客様』としてお店に迎え入れること。
そのために必要なのは対話であり、説諭なのだと言います。

伝説の継承者たち。Gメンになるための“素質”とは

取材日、望月さんのオフィスを訪れると、一角で新人研修が行われていました。
エスピーユニオン・ジャパンの未来を担う、新しいGメンの卵です。

指導にあたっていたのは、警察のOBだという教育歴3年の篠原修二さん。
一人前のGメンになるには、どれくらいの時間が必要なのでしょうか。

「個人差はありますが、大体2〜3年はかかりますね。
結局は、とにかく現場の数をこなすしかありません。
怪しい人の態度や目つきといった、言葉では説明しきれない機微を見抜けるようになるまで、先輩についてインターンのように学んでいくんです」(篠原さん)

その指導を真剣な眼差しで受けていたのが、この日の研修生、Kさん(36)です。
飲食業やスーパーでの勤務経験を経て、この世界に飛び込んだと言います。

「前職のスーパーで、何人か万引きが疑わしいお子さんを見つけた経験があって、この仕事に興味を持ちました。
この会社に入ってみて、万引きGメンとしての技術面だけでなく、憲法の一つひとつまでマンツーマンで丁寧に教えていただける環境に、本当に感謝しています。これから一生懸命頑張りたいです」(Kさん)

そう意気込むKさんの隣で、望月さんは「うちの会社は求人を出すと志望者が多いんです」と教えてくれました。

Gメンになるための特別な資格はありません。
しかし、望月さんは採用面接で必ず「球技をやっていましたか?」と尋ねるそうです。その真意を聞いてみると、

「Gメンに必要な素質は、第1に視力がいいこと。そして、第2に反射神経が優れていることです。
犯人が犯行に及ぶ瞬間は、最も神経が昂っている時。そこで素人が下手に近づけば、すぐに気づかれて証拠を隠されてしまう。目線を合わせたら一発でアウトです。
だから遠くからでも犯行に気づけることに加え、犯人の動きに合わせてパッと動ける俊敏性が求められるんです」

“万引き大掃除部隊”ことHI-SATの存在

そして、そうした優れたGメンの中でも、選び抜かれた精鋭たちが集うのが「HI-SAT(ハイサット/高度緊急展開部隊)」、通称「万引き大掃除部隊」です。

難関の入隊試験と6カ月に及ぶ厳しい技術研修をくぐり抜けた、まさにエリート中のエリート集団。
彼らは基本的にチームで行動し、悪質な万引きが多発する大型店舗での一斉摘発など、特に困難な任務にあたります。

彼らが携帯する特殊警棒や無線機、防弾ベストといった装備からも、その任務の過酷さがうかがえます。

しかし、HI-SATの真の目的は、単に犯人を捕まえることではありません。
彼らの任務は、「隠されているロス、隠しているロスを見える化」し、店舗が抱える根本的な問題を解決に導くこと。

まさに、望月さんが掲げる「ソリューションカンパニー(問題解決起業)」の理念を最前線で体現する部隊です。

この59年かけて築き上げてきた唯一無二の組織を、望月さんは今後、どうしていこうと考えているのでしょうか。
「来年で80歳ですからね。もぐらだったら、とっくに死んでる年齢ですよ」と、穏やかに笑います。

彼には、大手航空会社でパイロットを務める息子さんと、ご自身でコーチングの会社を経営する娘さんがいます。
2人ともそれぞれの世界で立派に活躍していますが、会社を継ぐ予定はないそうです。

「だから、後継者については3つの道を考えています。
1つは、今いる職員の中から育てる。
もう1つは、M&Aで我々の理念を理解してくれる会社に託す。
そして最後は、私の代で会社を閉じる、という選択肢です」

人の命を左右することもある、この仕事の重み。
生半可な覚悟では務まらないことを、誰よりも知っているからこその言葉でした。

「思いやり」こそが争いや犯罪をなくす

最後に、望月さんに座右の銘を尋ねると、迷いのない、力強い言葉が返ってきました。

「『思いやりという心の文化』。これの発信基地に、我々はなるべきなんです。
現代はあまりにも生活の利便性を求めすぎた結果、この文化が反比例してしまった。
『自分さえよければいい』『我が社さえよければいい』……その考え方が、あらゆる争いや犯罪を生み出してきたんです。
それに相反するたったひとつのものが、『思いやり』なんですよ」

それは、幼い子どもを道連れに心中しようとした母親を救い、少年が命を絶つ現場の無念さを知った望月さんだからこそたどり着いた、確かな重みを持つ言葉でした。

では、その哲学の礎となった59年間という時間は、彼にとって何だったのでしょうか。

「経験は、“貯金”と一緒です。
銀行の貯金は使えば減るけれど、経験という貯金は、使えば使うほど増えていくんですよ。利息もつくしね」


そう言って、79歳とは思えないほど屈託なく笑う望月さん。


彼が語る「利息」とは、人を深く理解するための「眼」であり、時に厳しく、時に優しく人と向き合うための「知恵」なのかもしれません。


「幸い、私はその貯金をたくさん貯めることができました。この会社が今日まであるのも、こんな私を信じてついてきてくれた職員たちのおかげ。本当に、それだけです」


望月さん

真面目な表情から一転、最後は素敵な笑顔で語ってくれました(撮影/今井康一)

新たにスクール開校!? 伝説はまだまだ終わらない

取材の最後に、望月さんは「近日中に、ウェブでGメンスクールを開校する予定なんですよ」と、まるで少年のように目を輝かせながら、未来の計画を語ってくれました。


経験という膨大な貯金を元手に、彼はまた新しい挑戦を始めようとしています。


伝説は、まだ決して終わらない。


その穏やかな表情の奥には、どこまでも熱く、そして深い「思いやり」の精神が燃え続けていました。
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2025年11月18日

「夢を持ちなさい」と言いながら、諦めさせている大人って意外と多い。植松努さんが伝えたい〈子どもの夢の守り方〉

「夢を持ちなさい」と言いながら、諦めさせている大人って意外と多い。植松努さんが伝えたい〈子どもの夢の守り方〉
2025.11.15  暮らし二スタ
  
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「夢を持ちなさい」と言いながら、諦めさせている大人って意外と多い。
植松努さんが伝えたい〈子どもの夢の守り方〉

北海道赤平市の電機工場 植松電機は、リサイクルに使われるマグネットという機械でシェアナンバーワンを誇る会社です。
しかし、植松電機がユニークなのは、マグネットのシェア率だけではありません。

植松電機のもうひとつの顔は、宇宙開発企業。
敷地内には日本で唯一の無重力実験装置や真空実験装置などを備え、ロケットや人工衛星の開発・打ち上げが進められているのです。

そんな植松電機を率いるのが、代表取締役の植松 努さん。
「どうせ無理」をなくしたい――。
植松さんが語る、夢をあきらめない力とは?


学校では否定された夢。でも説得力、ないよな〜

僕は、飛行機やロケットが大好きな子どもでした。

大好きなじいちゃんと一緒にテレビで見た、アポロの月面着陸。じいちゃんは「お前もいつか月に行ける」と言ってくれました。

僕は、じいちゃんの喜んでくれる顔が見たくて、きっと宇宙が大好きになっちゃったんだろうと思います。

でも、学校の先生は違いました。

僕が一生懸命、宇宙やロケットの勉強をしていると、「そんな夢みたいなことを考えていないで、勉強しなさい」「宇宙なんて東大に行くような頭のいい人じゃないと無理。お前には無理だ」と言うのです。

僕は納得しませんでした。

だって、先生は宇宙開発をしたことがない。
やったこともない人に「できない」と言われても、説得力がないと思ったのです。

救ってくれたのは、ファーブルやライト兄弟やエジソン
僕が信じたのは、伝記に登場する偉人たちでした。

『ファーブル昆虫記』のアンリ・ファーブルや、人類初の動力飛行機を作ったライト兄弟、それから発明王・エジソン。

ライト兄弟は、ふたりとも大学に進学していません。
彼らの時代には、まだ飛行機というものが存在していませんでした。
だから読むべき文献もないし、教えてくれる先生もいない。
それでも、誰もやったことのないことに挑んで、世界を変えたんです。

こうした偉人の存在に、僕は救われました。

誰もやったことがないことをやろう、というのは、今に至るまで変わらない僕の信念です。

「危ないからやめなさい」は本当に守る言葉?

子どもに「夢を持ちなさい」という大人はたくさんいます。
でも、その一方で、無意識のうちに子どもの夢を奪い去ってしまう大人も多いんです。

たとえば、「危ないからやめなさい!」という言葉。

赤ちゃんが何かを口に入れそうになったとき、はいはいをして進んでいくとき、高いところに登ろうとしたときーー。
思わず「危ない!」と止めてしまった経験はありませんか?

これって、一見子どもの安全を守っているように見えて、実は子どもを支配するやり方でもあります。

口に入れてはいけないものは手の届かない場所にしまい、コンセントにはカバーをして、扉は開かないようにする。そして目を離さない。

そうして環境を整えれば、「やめなさい」という言葉を使う必要はなくなるはずです。
でも、大人はその準備を怠って、命令だけで止めようとする。

「危ないからやめなさい」と言われるたび、子どものなかでは「知りたい!」「やってみたい!」という火が少しずつ消えていきます。

知りたい、やってみたい。それが夢の種になる

「知りたい」「やってみたい!」は、夢の土台となるものです。

夢中になるとは、時間を忘れて集中している状態。
夢中になれるものがある子は、自分だけの夢を見つけて、道をひらいていけるのです。

子どもの「知りたい」「やりたい」は、大人からすると「くだらない」「意味がない」と思われるかもしれません。
でも、それは大人の常識であり、思い込みです。

赤ちゃんは誰にもやり方を教わらなくても、つかまり立ちをはじめ、はいはいをして、そして歩き出します。
「知りたい!」「やってみたい!」という思いが、立ってみよう、動いてみよう、歩いてみようという挑戦につながっているんです。

そして、言葉を覚えると、「知りたい!」という気持ちから、どんどん質問するようになります。覚えたことは、得意になって説明したり、発表したりします。

けれど、「なんで?」「どうして?」という子どもからの質問攻めや、「聞いて聞いて!」という声を、“面倒”と感じてしまう大人も多いのではないでしょうか。

「くだらないことを聞かないで」「うるさい!」と突っぱねてしまったり、「そんなこと覚えてどうするの?」「そんなことより宿題やりなさい」と言ってしまったり。

子どもが夢中になって何かを作ったり、描いたりしているのを「もう片づけなさい!」と中断させてしまうこともあります。

支配はとても危険。命令ばかりの環境では、〈夢中の芽〉はしぼんでしまう

赤ちゃんのころから、禁止されたり、受け流されたり、大人の常識で止められ続けていたら、子どもが本来持っていた夢中になる力はだんだん影をひそめてしまいます。

やがて、「やってもいいよ」と許可されたことだけをする子になります。
片づけなくてもいい遊びしかしなくなります。
それが、ゲームや動画視聴です。

夢中になる経験を奪われ、受動的な刺激に慣れてしまえば、主体的に学ぶことはどんどん難しくなります。

命令に従うのは上手でも、自分で考えることは苦手になる。
大人の言う通りに勉強して学校の成績はよかったとしても、そういう人はロボットやAIに簡単に負けてしまいます。

大人こそ「やってみたい」を取り戻そう

子どもが夢中になっていたら、存分にやらせてあげられる環境をつくること。

「危ない!」と禁止するのではなく、なぜ危ないのか、どんなことが起きるのか、そのときどう対応すればいいのかを教えたり、一緒に考えたりすることが大切です。

「なんで?どうして?」と聞かれたとき、親がすべてを教える必要はありません。
一緒に調べたらいいのです。図鑑や本を見たり、詳しい人に聞いたりして、親も一緒に学んでいくのです。

知らないこと、わからないことを恥ずかしく思う必要なんてありません。

「大人はいつでも正しい」「いいから大人の言うことを黙って聞け」

こうしたメッセージで、子どもの思考力を奪わないように、大人こそ「知りたい」「やってみたい」という気持ちを取り戻しましょう。

「知りたい」「やってみたい」と自然体験は好相性

自然体験の最大の価値は「イレギュラー」です。
思うようにならないし、未知にあふれています。
だからこそおもしろいし、「知りたい!」「やってみたい!」を発揮する最高の遊び場になります。

まずは大人が「何これ?」「こうやってみようかな?」と、思いっきり自然を楽しむ姿を見せましょう。
子どもはすぐに真似をして、どんどん探求を始めます。

親子で真剣に遊ぶ時間を重ねること。
それこそが、子どもの“夢中の芽”を育てるいちばんの近道です。

植松 努(うえまつ・つとむ)
●植松電機代表取締役社長
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2025年11月15日

世界が認めた『はだしのゲン』が日本で消される? 戦争の本質描く名作に「教育上良くない」との批判も

世界が認めた『はだしのゲン』が日本で消される? 戦争の本質描く名作に「教育上良くない」との批判も
11/14(金) マグミクス

広島市の平和教材から消えた『はだしのゲン』

 小学校や中学校の図書室に置かれているマンガに、歴史マンガや手塚治虫作品などがありましたが、中沢啓治氏の『はだしのゲン』を思い出す人も多いかと思います。

太平洋戦争末期、広島市に落とされた原爆による悲惨な被爆状況と、被災した街を生き抜くゲン少年のたくましさが脳裏に焼き付く作品です。

 6歳で被爆し、家族を失った中沢氏の実体験をもとにした『はだしのゲン』は、1973年に「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載が始まり、すでに50年以上も読み継がれてきた、大ベストセラー作品です。
多くの公共図書館で『はだしのゲン』全10巻を読むことが可能です。

 しかし、2023年には地元・広島市の平和教育の教材から『はだしのゲン』が姿を消すなど、近年は逆風が吹いているようです。
『はだしのゲン』のどこが問題になっているのでしょうか。

『はだしのゲン』は「教育上よくない」?

 広島市の教育委員会は、『はだしのゲン』を教材から外した理由を「被爆の実相に迫りにくい」と答えています。
小学生のゲンと弟の進次が、病気の母親に滋養をつけさせようと立派な屋敷の庭に忍び込み、池にいる鯉を盗み出そうとする逸話が教材に使われていたのですが、そうした犯罪を想起させる行為が教育的に好ましくないと思われたようです。

 ゲンと進次が街角で浪曲を披露し、通行人から投げ銭をもらうシーンの掲載もなくなっています。
「今の子供たちは浪曲を知らない」という理由だそうです。

 原作マンガを読まれた方はご存知でしょうが、これらのエピソードは原爆が投下される前の、いわばプロローグ的な出来事です。
原爆の恐ろしさを伝える『はだしのゲン』の本質ではない部分が問題視されたわけです。

 あいまいな理由から『はだしのゲン』に逆風が吹いている状況は、2025年11月14日(金)から公開のドキュメンタリー映画『はだしのゲンはまだ怒っている』で、取り上げられています。

 戦後、被爆からかろうじて生き残った母と生まれて間もない妹のために、ゲンが闇米を懸命に持ち帰ろうとするシーンが『はだしのゲン』にはあります。
ゲンは、米軍基地に潜入し、物資を無断で持ち出そうともします。

 どれも違法行為ですが、食料や物資が欠乏していた戦時中や終戦直後は、そうしなければ一家そろって飢え死にするしかないという切迫した状況でした。
『はだしのゲンはまだ怒っている』では、戦争体験者たちがインタビューに答え、「生き残った人はみんな法律を破っている」と答えています。

 子供の教育上『はだしのゲン』はよくないという人たちは、戦争の恐ろしさを知らず、平和で豊かな社会で生まれ育った人たちでもあるようです。

「歴史認識」の違いが浮き彫りに

 掲載誌を変えながら、1987年に全10巻として完結した『はだしのゲン』には、戦後復興を遂げつつある広島で、被爆者たちが原爆病に苦しみ、差別にも悩まされていることにゲンが怒り続けている様子が描かれています。
また、高畑勲監督の劇場アニメ『火垂るの墓』(1988年)では描かれなかった、アジアの人たちへの日本の加害責任についても触れています。
そうした箇所に対する、批判の声も少なくありません。

 先述した『はだしのゲンはまだ怒っている』では、『はだしのゲン』に批判的な立場の人物にもインタビューし、『はだしのゲン』を描いた中沢氏とは「歴史認識」の違いがあることを浮かび上がらせています。

 朝鮮戦争についての記述などは現代では注釈が必要かもしれませんが、被災直後の広島の「生き地獄」のような状況を『はだしのゲン』が克明に描いていることは誰もが認めるところでしょう。
『はだしのゲン』に限らず、史実を題材にした作品を楽しむには、一定のリテラシー能力が必要なことは言うまでもありません。

意図的だった『はだしのゲン』の野暮ったさ

 絵柄が古臭い、描写がグロい……といった声も若い世代からは聞こえてきます。

 中沢氏は、中学卒業後は看板屋で働き、漫画家を目指して22歳で上京。
野球マンガ『黒い秘密兵器』などで知られる一峰大二氏、さらにTVアニメ化もされた『タイガーマスク』などの売れっ子・辻なおき氏のアシスタントを務めながら、読み切りマンガを発表し、24歳で漫画家デビューを果たしています。

 評論家の呉智英氏は『「はだしのゲン」を読む』(河出書房新書)に寄稿した記事のなかで、中沢氏は『はだしのゲン』を描くにあたり、劇画タッチの辻なおき系ではなく、野暮ったい一峰大二系の画風を意図的に選んでいる、と推論しています。
『はだしのゲン』には悲惨な被爆体験だけでなく、ゲンが悪童ぶりを発揮するギャグシーンも数多く盛り込まれています。
野暮ったいけれど元気な絵柄のほうが、『はだしのゲン』には適していたのでしょう。

「グロい」という指摘は、「週刊少年ジャンプ」連載時からありました。
しかし、中沢氏は幅広く読まれる少年誌という掲載媒体であることを配慮し、被爆の実態を伝えつつも、グロくなり過ぎないよう最大限の注意を払っていたことが知られています。

 ドキュメンタリー映画『はだしのゲンはまだ怒っている』を撮った込山正徳監督は、子供のころは『はだしのゲン』を読む機会がなく、最近になって読んだそうです。
中沢氏が『はだしのゲン』に込めた熱いメッセージに感銘を受け、今回のドキュメンタリー作品の企画を立ち上げています。

「ユダヤ人差別を描いた『アンネの日記』に匹敵する戦争文学ではないでしょうか。
子供の視点から、戦争の恐ろしさを描いている点でも共通しています。
日本だけでなく、世界中の人たちに『はだしのゲン』を知って欲しい」と込山監督は語っています。

 2012年に亡くなった中沢氏ですが、2024年に米国アイズナー賞で殿堂入りを果たし、『はだしのゲン』は世界25か国で翻訳出版され、米国をはじめ世界各国で読まれるようになっています。

これまで『はだしのゲン』を敬遠していた人も、ぜひ手にされることをおすすめします。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする