2019年10月16日

超高齢化で医療を受けられなくなる日は来るか

超高齢化で医療を受けられなくなる日は来るか
2019年10月15日 PRESIDENT Online

『救急車が来なくなる日』の著者でジャーナリストの笹井恵里子さんは、救急車の現場到着時間と病院収容時間が年々延びていることを明らかにした。
そして救急車だけでなく、その先の医療現場でも混乱が起きている――。
※本稿は笹井恵里子『救急車が来なくなる日』(NHK出版新書)の一部を再編集したものです。

■救急医療の現場への負担
あらためて強調するまでもなく、日本は高齢化の一途を辿っている。
それに伴って、高齢者の救急患者が増えているのは言うまでもない。
さらには、家族の「介護疲れ」が背景にある高齢者の問題も、救急医療の現場に負担がのしかかっているのが日本の現状だ。

こうした状況のなか、高齢者はどうすれば救急の現場を混乱させず、適切なタイミングで必要な医療を受けられるだろうか。

高齢者の立場からすると、体調が悪い時に自分一人で病院に向かうことは難しい。
かといって、ほかに手伝ってくれる人もいない。
そんな時に、救急車を呼ぶ以外の方法で、どうやって病院に向かったらいいのかわからないだろう。

米国では、救急救命士の資格を持つ者が現場に行き、傷病者の状態を見たうえで、救急車が必要か、介護タクシーを使うかの判別を行っている。
しかし、日本国内ではやはり患者任せになったままである。

■高齢者に「救急車に乗るな」と言えるか
救急車以外の手段としては、民間救急車や介護タクシーなどが考えられるだろう。
通常のタクシーとの違いは、民間救急車の場合、患者が寝たままの状態で、点滴や酸素吸入を受けたまま乗車できる点だ。
つまり、救急車でストレッチャーによって運ばれるのと同様の形での移動が可能で、救急車を呼ぶほど緊急ではないケース、自分が希望の病院へ転院したい時に使える。

介護タクシーは乗用車タイプだが、車椅子のまま乗ることができるメリットがある。
緊急性がない病院への受診なら、救急車を占拠しないという点で、これらの方法を使うのが望ましいだろう。
しかし、どちらも有料で、通常のタクシーよりは割高だ。
仮にあなたの両親が遠方に住んでいるとして、電話で「具合が悪いので病院にかかりたい」と言われたらどうだろう。
無料の救急車ではなく、有料の民間救急車や介護タクシーを勧めることができるだろうか。
あるいは、一人暮らしの高齢者のもとをケアマネージャーが訪ね、具合が悪そうだったらどうするだろうか。
ケアマネージャーとしては、救急車を呼ぶしかないだろう。

■救急車有料化の罠
「もちろん『救急車は重症な時に使ってください』と言いますが、同じ青森県内でも田子町の人に『よく考えてください』なんて言えません。
うちの病院までタクシーで来たら一万円はかかるんですよ」 八戸市立市民病院の今医師が早口でまくしたてる。

「一方、八戸市内ならタクシーで八百円程度ですから。
でもね、地方で『救急車の適正利用』なんて言うなら、救急車の台数を増やすとか、救急車に準ずるような搬送車を作ってほしい。
私は、患者さん自身が必要だと思ったなら、救急車を使っていいと思っていますよ」

救急車の適正利用をめぐっては、有料化案もたびたび議論される。
しかし、筆者はこれには反対だ。
海外では一回の搬送につき数万円が徴収されるが、無料であることが日本の優れている点だと思う。
仮に救急車が一回数千円から一万円の有料になったとしたら、あなたは119番にコールするか迷うに違いない。
救急車の有料化は、突き詰めれば「受診抑制」につながる。
そこで切り落とされる命が、必ず出てくるだろう。

それならば、むしろ介護タクシーに国が補助金などを出し、少しでも国民の支払いを抑える方向に誘導したほうがよい。
どんな患者なら救急車を利用できて、どういう場合には利用できないのか。
そして「利用できない患者」を作る場合は、代替手段やそれにまつわる補助をどう整備するか。
国はこれらを考える必要があるだろう。

これは繰り返しになるが、制度が整っていないままに「適正利用」ばかりを叫ぶのは違和感がある。
ちなみに、お金をかけたくないし、救急車は申し訳ないという気持ちから、自家用車を運転するのは事故の面から避けたほうがいい。
近年、運転中に大動脈解離を発症して死亡したケースなど、運転手が意識不明となって他者を巻き込むような自動車事故が後を絶たない。
大事故を防ぐためにも、少しでも体調不良を感じたら運転を控えたい。

■ベッドが高齢者で埋まっている
高齢者が救急医療を受診する際の「手段」とともに、救急医療から入院した場合、退院するまでの「出口」問題も整備されていない。
身内で一人暮らしの高齢者がいて、何らかの原因で入院する状態になり、病院から「そろそろ退院してほしい」と言われて困った、というケースを聞かないだろうか。

これから大きな問題となりうるのは、高齢者がベッドを占拠してしまうために、病院側に重症の救急患者を受け入れる余地がなくなってしまうことだ。

人口の多い地域、とくに関東圏内では、ベッド数問題に悩まされている。
関東では人口十万人あたりの病床数が全国平均の千二百二十九床よりも少なく、神奈川で八百八床、東京で九百四十二床、千葉で九百四十四床、埼玉で八百五十二床となっている(厚生労働省「医療施設調査」二〇一六年)。

全国で最もベッドが少ない神奈川県の保健医療計画によると、二〇二五年には急激な高齢化によって、必要病床数が約一万一千床不足すると推計され、「必要病床数」と「既存病床数」の乖離が大きい横浜や川崎北部、横須賀などから病床の見直し、つまりは増床を含めて検討している。

「ベッドが満床の時は、救急患者を受け入れられません」
熊本赤十字病院救命救急センター長の奥本医師が言う。
病院が位置する熊本市の人口はおよそ七十万人、市内に救命救急センターは同院を含めて三つある。
「時には熊本市外からも患者が搬送されますから、三病院ともにべらぼうに患者さんが多いです。
当院でも救急搬送の要請には一〇〇%応えたいけれども、重症患者の場合、ベッドに空きがなくて応じられないということが少なくありません」
この地域では、三つの救命救急センターのいずれかが患者を受け、それ以上はたらいまわしをさせないという暗黙のルールがあるという。

■転院を拒む、“大病院志向”の患者
「救急隊から「あそこ(三つのうちの一つ)に依頼しましたがダメでした」と言われたら、こちらがとるしかないという気持ちでやっています。
逆のパターンもあるでしょう。
当院で断られたと聞いたら、残り二つで受けてくれます。
ただ、インフルエンザが流行する冬場は苦労するんです。
三つの救命救急センターがどこもベッドがいっぱいで……」

しかも大病院志向の患者は、二次病院へ転院の話を出されると「格下げ」と感じるようで、なかには「退院までここにいたい」とごねる患者が少なくない。

「一病院で完結するということよりも、「地域のベッド」だから、次に移るという理解を患者さんにしてもらえたら……」
病院によっては、救急専用のベッドを備えていないところもある。
たとえば、広島市立市民病院では七百四十三のベッドはすべて各科に振り分けられている。
やはり高齢者が多く、院内のベッドは常に満床状態だ。
救急科は初療に特化しているため、入院が必要な場合は各科に問い合わせることになるが、調整が難しいことが多いという。

■病院はホテルではない
その一方で、ベッドが比較的余る地域もある。
簡単にいってしまえば、人口あたりの入院ベッド数が多いのだ。
たとえば、高知は人口十万人あたり二千五百三十床、鹿児島は二千八十三床と、全国平均の二倍も備える。
ある救急医がため息をつく。

「入院の適応でない患者が、日本ではたくさん入院していると思います。
救急医療のベッドは急性期の治療のためのものですが、それ以外の、たとえば家族が『高齢者の一人暮らしが心配だから』という理由で入院を申し出るケースもあるんです。
『ホテルじゃありませんから』と言うのですが」
筆者も取材中にそのような事態を目にした。

高齢者の親を連れた娘が、夜間に救急外来を訪れた。
食欲がなく、しっかり歩けないので、脳梗塞ではないか詳しく検査してほしいと訴える。
熱はあったものの、ひととおりの検査で「異常なし」。
帰宅させようとする医師に患者の娘が「先生、入院は……」という言葉が出たのだった。

「地方で人口あたりのベッド病床数が多いところは、一人あたりの年間の医療費も高い傾向にあります。
入院していれば、当然お金がかかりますからね。
かといって民間の病院がベッドを削減すれば、赤字になってしまいます。
ですから、公の病院がベッドを削り、病院の規模を小さくするべきだと思います」

厚生労働省は、二〇二五年を目処に「地域包括ケアシステム」の構築を打ち出している。
重度な要介護状態になっても、住み慣れた地域で最後まで暮らすことができるよう、「住まい・医療・介護・予防・生活支援」を一体的に提供しようという主旨だ。

しかし、具体的な方策については、各自治体が「地域の特性に応じて作り上げることが必要」と述べるにとどまり、実現への過程が見えてこない。
言い換えると、病院から早く患者を出せということになるが、病院側、そして家族としては、出すに出せない状況である。

■次の行き先を探すのは病院の仕事なのか
東京女子医科大学の矢口医師が指摘する。
「独居が増えていますから、正直厳しいと感じています。
また、救急での治療を終えて地域に直接戻せたとして、そこでもし具合が悪くなったら、また急性期の治療に戻すしかないですよね。
その繰り返しが起きる可能性がある。
しかも、大抵は救急車によって救急医療に運びこまれてくるでしょう」

このように「救急(医療)」と「介護」はひと続きになっているのだ。
どこまでが医療で、どこからが介護になるのだろうか。
一般的に、高齢者は一度倒れると、そのあと元の一人暮らしの生活に戻れる可能性は少ないという。

「高齢者は重症化しやすいですし、回復にも時間がかかるので、病院に長期滞在になりがちです。
また、その患者さんたちは、なかなかすっと退院とはなりません。
それは仕方ないことなんです。
高齢者なんですから」

たとえば、ある病院が人工呼吸器や常時モニターの管理が必要という重症な救急患者の治療を終えたとしよう。
だが、食事も自分一人ではできないし、リハビリもしていく必要がある。
そんな時に、患者にあった療養型の病院確保をどうするか。
実は、これも各救急に任されている。

「大学病院は急性期の治療が終わった患者を抱えてはいけない、と国は言います。
それはわかりますし、私たちも急性期の治療を終えた患者さんを出さなければ、次の救急患者を受け入れられません。
でも「救急患者さんを受け入れること」と「次の行き先を探すこと」の両方を救急医や救急医療機関がやらないといけないんですか、と思います」

救急医が転院先の病院を探す事務作業に時間をとられれば、本来の業務である「救急患者を診る」時間が少なくなっていく。 二〇二五年以降は、これまで以上に医療や介護の需要が増加すると見込まれている。
必要な整備を進めておかないと、気づいた時にはもう手遅れだった、という状態になりかねない。

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笹井 恵里子(ささい・えりこ)
ジャーナリスト 1978年生まれ。
「サンデー毎日」記者を経てフリーランスに。
著書に『不可能とは、可能性だ パラリンピック金メダリスト新田佳浩の挑戦』(金の星社)、『週刊文春 老けない最強食』『週刊文春 温かい家は寿命を延ばす』(ともに文藝春秋)『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)がある。
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2019年10月15日

台風豪雨で広域被害 救助と実態把握に全力を

台風豪雨で広域被害 救助と実態把握に全力を
毎日新聞「社説」2019年10月14日 

 台風19号は東日本を中心に記録的な豪雨をもたらした。
洪水や土砂災害などの被害が極めて広範囲に及び、深刻な事態だ。

 住宅が土砂にのみ込まれるなどして、多数の死傷者や行方不明者が出ている。
長野県の千曲川など河川の氾濫で住宅地が浸水し、大勢の人が建物内に取り残された。

 各地で自衛隊や警察、消防がヘリコプターやボートで捜索や救出活動に当たっている。
一刻も早い住民の救助が何よりも優先される。

 台風19号は、強い勢力を保ったまま日本列島を襲った。
大雨特別警報が出された地域は一時、過去最多の13都県に上った。
昨年7月の西日本豪雨の11府県をも上回る規模だ。

 今回の被害の特徴は、東海から東北までの非常に広い範囲で次々に河川が氾濫したことだ。
国土交通省によると、きのうの午後4時現在で、国や都県が管理する河川のうち、21河川で堤防が決壊した。
全体では142河川で水が堤防を越えてあふれるなどした。

 長野市では千曲川の氾濫で長野新幹線車両センターが水没し、北陸新幹線の多数の車両が水につかった。
東京電力など各電力会社の管内では最大計約52万軒で停電も起きた。
 被害は広域にわたるだけに、実態の把握が急務だ。

9月に関東を直撃した台風15号では、千葉県で停電の影響や住宅被害などの把握が遅れ、対応が後手に回った。
 政府や自治体は、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の情報や空撮も活用し、ライフラインや住まいなどの被害状況を早急に確認すべきだ。
物資などの支援を必要としている地域をまず特定することが大切だ。

 また、まだ被害が発生していない地域でも、雨で地盤が緩み、土砂災害などのおそれがある場所があるとみられる。
増水した河川の流域にはまだ洪水の危険もある。
こうした地域では引き続き警戒が必要だ。

 政府は非常災害対策本部を設置した。
広域災害では、国と自治体による支援態勢の構築が欠かせない。
大規模な浸水被害を受けた地域では今後、災害ごみの撤去などに多くの人手も要する。

政府は自治体間の調整に努め、住民の救助と生活の再建へ全力を挙げなければならない。
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2019年10月14日

自然災害大国ニッポン、災害で壊れたインフラ「そのまま放置」のワケ

自然災害大国ニッポン、災害で壊れたインフラ「そのまま放置」のワケ
10/13(日) 現代ビジネス

 9月11日に発足した第4次安倍晋三第2次改造内閣の基本方針に、「国土強靭化」という文言が躍った。
 「まず何よりも、『閣僚全員が復興大臣である』との意識を共有し、熊本地震、東日本大震災からの復興、そして福島の再生を、更に加速する。
全国各地で相次ぐ自然災害に対して、被災地の復旧・復興に全力を尽くす」という。

 千葉県を襲った台風15号など、自然災害による被害は枚挙に暇がない。
 '18年には「防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策」が閣議決定され、国土交通省の'20年度概算要求は7兆円を超えた。
だが、どうも国交省には財務省に対して及び腰なところがある。

 まず、財務省は引き続き緊縮財政一本槍で、'25年度の国・地方を合わせたPB(基礎的財政収支)の黒字化目標を譲らない。

「国土強靭化」の軸はインフラ整備になるが、PB黒字化の前でこうした事業は悪者扱いになる。
 インフラ整備は建設国債を財源とすることが一般的だ。
赤字国債とは異なり、ただ使われるものではなく、長期的視点では社会に有用な資産を残すものだ。
ところが、バランスシートの上では、建設国債もただの「借金」のような扱いになる。
あくまで財務省の理屈では、インフラ整備のための建設国債発行はできるだけ避けたいのだ。

 とはいえ、これだけの災害が頻繁に起こっているのだから、国交省もより強気で臨むべきなのだが、どこか財務省に遠慮がちだ。
その一例が、国債マイナス金利という絶好の環境をうまく生かしていないことだ。

 マイナス金利下では、国は国債を発行すればするだけ儲かる理屈だ。
国債調達資金を塩漬けしてもいいが、インフラ投資にまわすのが現状では最上ではないだろうか。

 国交省内には、公共投資の採択基準がある。
公共投資による社会便益が費用を上回っていることが条件だ。
これは先進国ではどこでも採用されている基準で、社会便益をB、費用をCとすれば、B/Cが1を超えるものが採用という数式だ。
 ただし、これを計算するうえで、現在の価値と将来予測される価値を調整するために、「社会的割引率」が用いられる。
詳しい説明は省くが、この割引率(4%が一般的)を適用すると、よほど計画性のない公共事業でないかぎり、B/Cは1を超える。
計算上はだいたいのインフラ整備が採用されるのだ。

 向こう4〜5年は超低金利が続くと予想されている。
それにもかかわらず、国交省は割引率を見直すことなく、一方で公共投資を「自主規制」し、財務省の緊縮財政に協力する格好になっている。
国土強靭化に熱心な政治家や関係団体も、国交省役人が財務省の走狗となり、社会的に必要な投資を制限していることに気づかない。

 防災のためのインフラ整備は待った無しだ。
南海トラフ地震や首都直下型地震が、今後30年間で起こる確率は7割以上だという。
これらに備えるうえで、マイナス金利環境は絶好のタイミングだ。

 人命のかかった防災対策で財務省が緊縮を突き通す道理はなく、国交省も財務省に気を遣っている場合ではない。
秋の臨時国会では両省がどのような態度を取るのか、注視する必要がある。  

『週刊現代』2019年10月5日号より
posted by 小だぬき at 00:00| 神奈川 ☀| Comment(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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