2012年01月01日

香山リカ 震災復興の威勢良い掛け声が日本人を追い詰めた

香山リカ
震災復興の威勢良い掛け声が
                    日本人を追い詰めた
2012.01.01 16:00   NEWS ポストセブン

最近、自分を追い詰めている人が多い。
「もっと頑張らないといけない」「もっと成長しなくては」、と。

だが、精神科医で立教大学教授の香山リカさんは、頑張り過ぎずにほどほどに生きる「ほどほど論」を提唱する。(インタビューアー=ノンフィクションライター・神田憲行)


* * *

――香山さんが「ほどほど論」を考えるに至った経緯をお聞かせください。


香山:精神科医としてビジネスマンの診察をしていて、「もっと頑張らないといけない」「もっと成長しなくては」と成長幻想に取り憑かれて、鬱病を発症させる人がここ10年ぐらいの間に増えてきたと感じたからです。


それは行き過ぎた成果主義で会社から「成長」を強制されるパターンもあれば、外部から強制されていないのに「もっと頑張らないと」と、自分で自分を追い詰める人もいます。

なんで今の自分を簡単に否定して成長しなくてはいけないのか、とても疑問に感じたんですね。


――そうなった社会的背景はなんでしょうか。


香山:やっぱり経済だと思う。昔はほっといても右肩上がりの成長神話を素朴に信じることが出来て、普通に働いていれば企業も日本経済も成長出来た。

ところが経済が停滞するとそれを受け止められずに、「社会が成長しないなら個人が成長しなくては」という個人の生産性を上昇させることが求められてきます。


これに「世界中が競争相手」というグローバル化が煽る。1990年代後半には終身雇用、年功序列というそれまでの日本企業モデルが単純に自己否定される。

その自己否定が個人にまで及んできた、ということです。


――昨年、我々日本人は震災という大きな体験をしました。これはそういう流れに影響を与えましたか。


香山:最初は、経済成長より命とか隣人との目に見えるつながりが大事だと気づく契機になるかなと思ったんです。

原子力発電についても「電力=経済成長」なので、原発じゃなくて自分たちがリスクコントロール出来る範囲内で電力を確保しよう、という強烈な反省につながるんじゃないか、と。

もちろんそういう雰囲気も出てきました。

しかし、「これは第二の敗戦だ。再び輝くチャンスだ」みたいな威勢の良い掛け声が産業界から出てきた。成長のスピードを緩めるのでなく、「もっと頑張らねば」と拍車をかける方向に働いているように見えます。


――自己啓発本も相変わらず売れています。


香山:曖昧で混沌とした社会を生き抜くには、収入を増やすことが幸せにつながると価値観を単純にしたい人が多いからでしょう。

自分はもっと出来る人間のはずだ、もっと向上できる。でもそれは一時的な自己暗示に過ぎません。

自己啓発本を読んだ瞬間には元気になれるかもしれませんが、短時間しか効かない精神安定剤みたいなもので、根本的な解決になりません。


私は自己啓発本を読んだり何人かの著者の方と対談したりして感じたんですが、あそこで提示されている「理想的な人間」モデルは、合理的で生産性を追求するタイプなんです。

人はインセンティブを与えれば頑張れるはずであり、向上したくない人などいないという人間に対する素朴な信頼感みたいなのがある。


でも人間てそうでしょうか? 

私、人間ってもっとろくでもない存在だと思うんですよ(笑)。

立派な人が突拍子もない行動に出たり、「なんであんな人を」と周囲が思うような人を好きになっちゃったりとか(笑)。自分の心を完全にコントロールすることなんて出来ない。

でもそれが人間たるゆえんであり、そこから芸術が生まれたり、人との出会いで気づかされることも出てくる。


人間の矛盾を認めることが、この社会に本当の豊かさをもたらすのだと思います。

posted by 小だぬき at 20:42| Comment(2) | TrackBack(0) | うつ病について | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

年のはじめに考える 民の力を今、活かそう

年のはじめに考える 
民の力を今、活かそう
2012年1月1日    東京新聞社説

 今年は世界各地で政権を問う選挙が行われます。政権交代への失望から政治に無関心になっている暇はありません。今こそ、民の力を活(い)かす時です


 一月十四日の台湾を皮切りに、ロシア(三月)、フランス(四月)、米国(十一月)、韓国(十二月)など大統領選が続きます。今秋の中国共産党大会ではトップの総書記が交代。北朝鮮は昨年末に金正日総書記が死去し、息子の正恩氏が最高権力を継承します。

 
最近の特徴は民の力が投票以外に影響を広げてきたことです。

◆民衆運動が選挙も左右

 二月にイエメン、六月末までにエジプトで大統領選があるのは「アラブの春」と呼ばれる民衆決起が独裁体制を倒したためです。

民主、共和の二大政党が政権を担ってきた米国でも、小さな政府を目指す「ティーパーティー(茶会)」や失業に抗議するウォール街占拠など民衆運動に各陣営の選挙戦術は左右されそうです。


 プーチン首相の大統領復権が確実といわれたロシアでさえ、ソ連解体以降で最大の反政府デモが起きています。一党独裁が続く中国、北朝鮮でも実は為政者が民衆の不満を恐れ、薄氷を踏む思いの政権運営を続けているようです。


 日本の現状はどうか。三年前、官僚、中央主導の転換を掲げ政権交代を実現した民主党は期待を裏切り続けていると言わざるを得ません。

無駄を削り予算を組み替えれば増税は必要ないという政権公約はうち捨てられました。


 昨年末、編成した過去最大規模の新年度予算案は歳入の半分以上を国債に頼り、増税後に財源を手当てする「交付国債」という奇手まで使いました。

歳出では「コンクリートから人へ」の象徴として中止した八ッ場(やんば)ダム(群馬県)の建設を再開し、整備新幹線や東京外郭環状道路など大型公共事業を復活させる一方、議員定数や国家公務員総人件費の削減は見送る放漫ぶりです。

◆政治意志感じぬ予算案

 これでは「無駄を切り詰めたから増税を」という政治の意志も財務省の意図さえうかがえません。

各種世論調査では消費増税について賛否両論が同率になっていましたが、こうした姿勢では反対論に勢いがつくことになります。


 野田佳彦首相は消費増税法案が国会を通過してから実施までに国民に信を問うと言ってきましたが、年末の若手議員の離党騒動もあり実現は不透明です。

そもそも増税の必要はないと公約し政権を取った政党が一転、増税に走るのは信義にもとります。

こうした手法を認めるのは選挙をすれば増税ができないと考える官僚と、発想が同じ学者やメディアでしょうが国民は愚かではありません。


 財政再建に増税が避けられないなら無駄を徹底的に削る、信頼に足る政権に託したいというのが皆の共通した気持ちだと思います。

野田政権は消費増税法案の提出前に、国民に信を問うべきです。自民党も増税案を掲げているのですから、どちらの党が信を得るか競えばいい。

もちろん、増税反対を主張する勢力が、真っ向から論争を挑むのは当然です。


 国民の納得を得て初めて困難な政策も実現できるに違いありません。日本の民衆は今、政治に失望したかに見えます。しかし、昨年三月の東日本大震災と福島第一原発による放射能汚染の拡大に対し人々は立ち上がりました。


 東北地方や首都圏にまで広がった、放射性物質による汚染を心配する市民は行政頼みでなく自ら汚染を測定し除染に取り組み始めました。


 昨年九月、東京で行われた「さようなら原発デモ」には初参加も含め約六万人が加わり、原発稼働再開の是非を問う住民投票実現を求める署名運動も始まりました。

野田政権の原発への姿勢は、はっきりしませんが、世論のうねりは稼働再開や新規立地を阻む圧力を形成することに成功しました。


 既成政党に失望した人々は大阪府知事・市長ダブル選挙では「大阪都構想」を掲げた橋下徹市長率いる「維新の会」に大量の票を集中しブームを起こしました。

河村たかし名古屋市長らの「減税日本」の運動とともに今後の国政選挙でも台風の目になりそうです。

◆デマに迷わない判断を

 しかし、維新の会はわかりやすい敵を定めて民衆を動員し「独裁」(橋下市長)の手法で戦後、築かれてきた教育の中立や労働基本権に挑戦する危険な側面も伴っています。


 民の力が真価を発揮するには、デマに迷わず判断を形成するため偏りない情報や多様な見方に触れることが欠かせません。


 そのためにも、新聞をはじめメディアの責任がますます重要になっていることを、ひしひしと感じ、自らに戒める新年です。

posted by 小だぬき at 11:03| Comment(2) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする