2012年01月10日

民の力を活かそう「思いやる」から始める

民の力を活かそう
「思いやる」から始める

2012年1月10日   東京新聞社説

 年金は老後の安心を得る制度です。しかし制度を支える現役世代は疲弊し、年金で暮らす高齢者も生活は楽ではありません。どう支え合えるでしょうか。


 「月一万五千円の保険料なんて無理、とても払えない」


 東京都内の建設現場で日雇いとして働く加藤匡通さん(43)は、ため息交じりにこう断言しました。


 日当一万二千円。業界では高収入ですが、毎月の国民年金保険料は払えません。


 バブル経済崩壊後、正社員の働き口が減りました。低賃金で雇用も安定しない非正規で働く若者が増え、リーマン・ショックで多くが職を失いました。


 非正規の人たちを支援しようと加藤さんは三年前、地元に茨城不安定労働組合を結成しました。「相談に来たとき所持金が二千円の人もいた」と言います。


 今の皆年金制度が始まって半世紀がたちます。しかし、国民年金保険料の納付率は昨年度は六割を切りました。


 所得に余裕がなくなった人が増えているからです。制度への不信感もあります。


 長期間払わず強制徴収をせざるを得ない人もいます。日本年金機構の田中章夫・強制徴収企画指導グループ長は「以前は探せば定期預金があったりしたが、今の若い人はクレジットカードの決済日に口座にやっと入金があるのが現状」と明かします。

現役世代は制度を支える力を失いつつあります。

 今の皆年金制度が始まった一九六一年は高度成長期でした。

◆生活支えられない制度

 前年には所得倍増計画が打ち出され、東海道新幹線の開通や東京五輪も控えていました。六一年の会社員の平均年収三十四万円は五一年の二・三倍、会社員数も二倍です。高齢者が少なく、現役世代が増え所得も増える時代でした。


 年金制度は、その時の現役世代の保険料をその時の高齢者に年金として払うルールです。


 これだと高齢者が増え、現役世代が減れば制度の維持が難しくなります。今がまさにそうです。


 一方で、年金で暮らす高齢者の生活も楽ではありません。国民年金は満額で月六万六千円ほどです。実際は受給者約二千五百万人の半数以上が月六万円未満です。


 厚生労働省は、年金は持ち家や面倒を見てくれる子どもと同居していることが制度の前提で補助的な収入といいます。


 現状はそんな人ばかりではありません。年末に、司法書士や労働者支援の市民団体などが開いた「なんでも総合相談会」に訪れた男性(45)は、リーマン・ショックで事業が行き詰まっていました。

 「長野で母は一人暮らし。僕の立場なら援助しなければならないのに今はお荷物になっている」と肩を落とします。現役世代の疲弊と少子化で、高齢者にも夫婦二人や一人暮らしが増えています。


 政府は社会保障と税の一体改革を進めています。持続可能な社会保障制度にし、合わせて消費税を増税してその財源に充てようという考えです。

しかし、社会保障改革では国民から反発を受けそうな給付のカットなどの制度改革は見送り逃げ腰です。


 民主党は、すべての人が加入する年金の一元化と、最低額を保障する年金の創設をマニフェストの目玉に掲げていますが、具体案を示していません。将来像が分からないのでは不安は募るばかりです。


 一方で、政府は消費増税にはひた走っています。その前に公務員の人件費削減などと並び社会保障の明確な将来像を示すべきです。


 やみくもに政府に高齢者の年金を減らせとか、現役世代の負担を増やせと主張すると世代間で対立を生み問題を解決できません。


 できることはあります。お互いの苦境を理解すること。そうすれば支えようと思うはずです。


 加藤さんは労組の活動で、若い人たちの親世代に非正規労働の実態を話す講演会を開きました。

◆お互いを知る努力から

 「なんでうちの子がずっとアルバイトなのかようやく分かったと六十代の男性が言ってくれた。

知ってもらうことは大事、世代間の対立は話を悪化させるだけ」と加藤さんは実感します。


 前出の相談会には若い男性(32)も訪れました。失業した昨年八月から公園でホームレス生活を続けています。


 疲れ切った表情ですが、「自力で再起したい」と語る姿に希望を感じます。周囲には市民団体など彼を思いやる人たちがいます。

苦境を知ればこその支え合いです。

posted by 小だぬき at 10:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

励ましの言葉:困難抱える人に接するとき、「がんばれ」押しつけないで

励ましの言葉:困難抱える人に接するとき、
「がんばれ」押しつけないで
毎日新聞 2012年1月10日 東京朝刊

 東日本大震災に見舞われた昨年は、人と人との絆が見直された年でもあった。

温かい励ましの声があふれる一方、「がんばれ」「元気を出して」などの言葉が相手には負担になることもある。

身の回りで困難を抱える人と接する際、何を心掛けたらいいのか。【丹野恒一】

◇「前向き」強調は重荷に/立ち上がれない人支えて

 仙台市若林区の和地(わち)理恵さん(55)は震災で一人息子の克倫(かつのり)さん(当時31歳)を亡くした。消防団員として住民の避難誘導にあたり、津波に襲われた。

地域のお年寄りから「あなたの息子のおかげで助かった」と言われても、素直に喜べなかった。いまも「時間は止まったまま」。街中で同じ背格好の若者を見ると、心をかき乱される。


 「周りには『いつまでもくよくよしていてはいけない』と動き出した人もいるが、私はその流れについていけない」。久しぶりに会った友人に「元気になったね」と言われると、「そうじゃない」とも言えず、作り笑いを浮かべてしまう。


 身内を亡くしても気丈に振る舞う被災者をテレビや新聞で見ると、違和感がある。「美化し過ぎてゆがめている気がする。みな、夜になれば泣くこともあるはず。がんばる被災地というイメージが固定化されると、一部の被災者には重荷になる」と懸念する。


 月に2回、震災で子どもや夫を亡くした女性同士が集まる会に参加している。本当の自分をさらけ出せるのはそこだけ。「すべての人に理解してもらおうとは思いません」


 上智大グリーフケア研究所長でシスターでもある高木慶子さんは、震災2カ月目から被災各地で遺族らの悲しみを和らげる傾聴活動をしている。「元の元気を取り戻せればいいが、現実にそうなれるとは限らない。震災から時間がたち、個人差がはっきりしてきた」と感じるという。


 「周りの人は、立ち直ってほしいというある種の願望から、過剰に励ましの言葉を押しつけてしまいがち。

大きな災害があった時だからこそ、自覚しなくてはならない」と相手をせかさないよう呼びかける。

     *


 「障害があってもがんばって」−−ダウン症の長女(15)を育てる東京都内の母親(55)は、こんな言葉に引っ掛かりを感じてきた。障害のマイナスイメージを前提にしているからだ。

インターネット上で「キラキラ差別」と命名されているのを知り、昨夏に自身のブログで「名前が付けられただけでも気持ちがおさまる」と記した。


 「キラキラ差別」は、「負けないで」や「希望を持って」など輝くような明るい激励が、逆に相手を傷つけてしまうという意味で使われている。

母親は「娘は歩くのにも会話をするのにも、他人の何倍も疲れ、びくびく恐れながら努力している。

 私は軽々しく娘にがんばれとは言えない」。日ごろ面倒を見てくれる学校教諭からの励ましは、娘   の力になっているとも感じるが、「同じ言葉でも高い目線から言われると傷つくことがある」という。


 先天性多発性関節拘縮症で生まれつき手足が使えない漫談家のホーキング青山さんは「災害でも障害でも、克服できた人や苦境に立ち向かっている人にばかり光が当たる。

 本当に手を差し伸べるべきは、立ち上がるすべを持たず、生きる張り合いをなくし、投げやりになっているような人たち」と指摘する。


 青山さんは著書「差別をしよう!」(河出書房新社)で、他人と自分の違いを認めることから社会を変えていこうと訴えている。

「障害や悲しみを『乗り越える』という言葉が世の中で安易に使われすぎている。

それができるのなら、私は今ごろ自分の足で歩いているはず」とし、被災地の人たちには「立ち上がりたくても立ち上がれない人を責める権利など誰にもない。

立ち上がらない自由があっていい。すくなくとも『まだいいよ』と言いたい」と力を込めて語る。

◇悲しみ突き詰めることが癒やしに

 心理学者で臨床心理士の植木理恵・慶応大講師は著書「ネガティブな自分をゆるす本」(大和出版)で、ポジティブシンキングにとらわれない生き方を勧めている。

心理学の「皮肉過程理論」では「意識的に何かを忘れようとすると、逆になぜそうしようとしているのかを強く意識してしまう」とされる。

「むしろ悲しみの原因をとことん考え続けることが、徐々にでも癒やしにつながっていくと思う。焦りは自己嫌悪やストレスのもと。

初七日、四十九日、一周忌なども、遺族に弔いの機会を与え、気持ちを徐々に整理させる意味合いがあるのだろう」と指摘した。


 一方、「がんばれ」などの激励はカウンセリングでは禁句ともされるが、植木さんは「私の臨床経験では、どこかのタイミングで少しずつ声をかけ、背中を押してあげることも大切だと感じる」と話した。

posted by 小だぬき at 07:52| Comment(0) | TrackBack(0) | うつ病について | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする