安全対策、患者も参加を=岡本左和子
毎日新聞 2012年2月22日 東京朝刊
1999年から2000年代初めごろ、手術する臓器や薬剤の取り違えなど、深刻な医療事故が続きました。
それらをきっかけに、医療安全への取り組みが強化されています。
「うっかり」は誰にとっても日常茶飯事で、「医療現場で起きない」と考える方が不自然です。
医療にも間違いはあるという認識を持ち、対策を考えて確実に実行しなければなりません。
一方、私たち患者自身も、「それは医師や看護師の責任」と考えているならば、自分を守る努力の半分を放棄していることになります。
私が米国の病院で働いていたとき、左の腎臓を手術する患者がいました。
手術当日、看護師や麻酔科医、執刀医ら8人ほどの医療者がかかわります。担当者がそれぞれ、「今日はどこの手術ですか」「左ですか、右ですか」「執刀医は誰ですか」などの質問を患者にしていました。
手術で緊張する患者に同じ質問を繰り返す様子に、私は「患者さんがさらに不安になるのではないか。なんと気が利かないことだろう」と思いました。
しかし、これらの質問によって、患者が治療を理解しているか、患者の取り違えがないか、医師や看護師の持つ情報に間違いがないかなどを、患者を含めて確認していたのです。
実際、このときカルテには、手術するのは「右側」と書かれていました。手術室に入る前、患者を含めて手術にかかわる全員がそろったところで、執刀医が「今日の手術は左側」と大きな声で確認し、大事には至りませんでした。
「カルテだけを確認し、間違いなく手術をしていたら」と考えるとぞっとします。
「誰がカルテを書き間違えたのか」など「犯人捜し」は、手術の当日、その場ではまったく意味がありません。
それよりも間違ったまま手術が実施されないことが重要です。
患者と医療者がいて、初めて医療は成り立ちます。双方からの視点が生かされ、医療で起きていることの全体像を把握できます。
治療を受けるとき、患者の立場から見て、「あれ?」「ヒヤッとした」ということはなかったでしょうか。そのことを担当者に伝えたでしょうか。
患者が声を出し、参加することで医療安全対策はさらに確実になります。
(おかもと・さわこ=医療コミュニケーション研究者)