2012年05月28日

過労社会 防げなかった死<中> 外食大手「うちだけじゃない」

過労社会 防げなかった死<中> 外食大手「うちだけじゃない
2012年5月27日 東京新聞朝刊

 「『過労死ライン』を超える時間外労働を認めているのは、うちだけではない」


 二〇一〇年八月の大阪高裁。大手居酒屋チェーン「大庄」(東京)が提出した資料には、他の外食大手十三社十八店で会社側が労働者と合意したとされる残業時間が列挙されていた。

月百三十五時間、百二十時間、百時間…。厚生労働省が過労死と関連が強いとする八十時間を上回る数字が並ぶ。


 吹上元康さん=当時(24)=は〇七年四月に同社に入った四カ月後、心機能不全のため死亡した。

労働基準監督署の労災認定は下りたが、両親は会社と取締役個人を相手取り裁判に持ち込んだ。
過剰な長時間労働を認めていた経営者の姿勢を正したかった。


 吹上さんは大津市の「日本海庄や石山駅店」に配属され、午前九時に出勤し午後十一時すぎまで働くのが常だった。
高裁は吹上さんの残業時間を、月七十八〜百二十九時間と認定した。


 自分より経験のあるアルバイトにも気を使い仕込み作業を率先してこなしていたと、同僚は法廷で証言した。

「八歳の時の作文で、『食堂屋になりたい』と書いた。

自分の店を持つ夢を抱いて入社したが、調理師免許を取る前に倒れてしまった」と、父了(さとる)さん(63)は悔やむ。


 吹上さんの店では当時、時間外労働の上限は百時間とされていた。

長時間労働を認めてきた責任を問われた大庄側の反論は率直だった。


 「外食産業界では、上限百時間の時間外労働を労使間で合意するのは一般的だ。他の業界でも、日本を代表する企業でも同様だ」


 過当競争の業界で、自社だけが「健康第一」でやっていては生き残れない。経営側の論理が透けて見えた。


 昨年五月の判決で、坂本倫城(みちき)裁判長は「長時間労働を認識できたのに放置し、改善策を何ら取らなかった」と、社長以下取締役四人に計約一億円の賠償を命じた一審判決を支持。経営者個人の責任をあらためて認めた。


 大庄の主張は日本の働き方を象徴している。

総務省の昨年の「労働力調査」によると、二十〜五十九歳の男女の一割強に当たる約五百三万人が「過労死ライン」を超えて働いている。

坂本裁判長は判決で「労働者の健康は何よりも守らなければならない」と繰り返し、警鐘を鳴らした。


 厳しい就職戦線をくぐり抜け、やっと内定をつかんだ若者が毎年、過労で倒れていく。
「判決は画期的だが、経営者が労働者の命と健康を守る自覚を持たなければ、事態は良くならない」。

三十七年にわたり過労死遺族からの相談を受けている水野幹男弁護士は、こう話す。


 吹上さんの裁判で大庄側は、判決を不服として上告した。

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過労社会 防げなかった死<上> 急成長ワタミ「労使一体」

過労社会 防げなかった死<上> 急成長ワタミ「労使一体」
  2012年5月26日 東京新聞朝刊

 ワタミフードサービス(東京)に入社して二カ月で自殺した森美菜さん=当時(26)=の同僚だった元男性社員(26)は、入社時の本社研修を忘れない。


 同期の一人が会場で「労働組合はあるんですか」と尋ねると、人材開発部の社員が即座に答えた。

「うちにそんなものはないし、必要ありません。問題が起これば迷わず相談してください」。会場がざわめいた。


 四年たった今も、ワタミグループに労働組合はない。「創業者の渡辺美樹氏は社員を家族と言ってはばからない。その思想が背景にある」と元幹部は説明する。

だが、“娘”だった森さんの葬儀に渡辺氏の姿はなかった。


 ワタミの法令順守担当の塚田武グループ長は「わが社は労使対等というより労使一体。
問題があれば内部通報制度もあり、従業員の意見を集約する機能を十分果たしている」と話す。


 親会社のワタミは創業十四年で東証一部に上場。〇五年にはチェーン店が五百を超えた。

社長だった渡辺氏の「二〇〇八年千店舗達成」の大号令に加え、介護分野など事業の多角化にも乗り出す。


 ある店長経験者は「むちゃな拡大路線で現場にひずみが生まれていた」という。

元取締役も「会社の急成長の裏でコンプライアンスが追いついていなかった」と語る。

 森さんが自殺した〇八年前後は、ワタミフードサービスで労務管理の問題が噴出した時期だった。

三十分単位で勤務時間の端数を切り捨てていた残業代の未払いが発覚し、アルバイトの解雇をめぐる訴訟も起きた。


 ワタミフードサービスは、この年を境に時間外労働の上限を全店一斉に短縮。店舗のパソコンで一分単位で出退勤時間が記録できるシステムに改めた。


 塚田氏は「いけいけドンドンの創業時と違い、会社が大きくなると法令順守が求められるようになり、企業として成熟していった」と説明した。


 ワタミの中堅幹部によると、今年二月、森さんの労災認定を、会社は驚きを持って受け止めたという。
中堅幹部は「労働基準監督署は不認定だったし、労務管理も改善が進んだ。
森さんの件は社内的には終わった話で、青天の霹靂(へきれき)だった」と明かした。

 森さんの労災認定の際、神奈川労働者災害補償保険審査官が指摘した、森さんの月百四十時間の時間外労働について塚田氏は「当時から異例だった」と言い切る。


 だがワタミフードサービスでは今も、従業員の意思が反映されないやり方で三六協定が結ばれ、労働基準法に抵触する状態が続く。

従業員は、経営側の言うがままの労働条件を受け入れるしかない。


 渡辺氏は森さんの労災認定後、短文投稿サイト「ツイッター」に「労務管理ができていなかったとの認識はない」と書き込み、批判にさらされた。


 今月、渡辺氏に三六協定の手続きが適正かなどについて取材を申し込んだが、回答は「遺族と協議中のためコメントは控えさせていただきます」だけだった。

   ×  ×

 手帳に「誰か助けて」と書き残し、新入社員の森さんは自ら命を絶った。
「過労死」という言葉が生まれて、今年で三十年。
過労死はなくなるどころか、年々増え続けている。
会社の利益を追求するあまり、人命が軽視されていく。
彼女らの悲鳴はなぜ届かなかったのか。過労死を生む背景に迫る。


 「過労社会」へのご意見や過労死問題の情報をお寄せください。
〒231 0007 横浜市中区弁天通4の52 東京新聞横浜支局。
ファクス045(201)1046、
メールyokohama@tokyo−np.co.jpまで。

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余録:北朝鮮が中距離弾道ミサイル「ノドン」を…

余録:北朝鮮が中距離弾道ミサイル「ノドン」を…
毎日新聞 2012年05月28日 00時10分

北朝鮮が中距離弾道ミサイル「ノドン」を日本海に向けて初めて発射実験したのは19年前の93年5月29日だった。

ところが、その事実が報道されたのは6月11日。13日もたった後である

▲この日朝、ある「政府筋」が実名を出さない条件で報道陣に明かしたからだ。
「北朝鮮のミサイルが能登半島沖に着弾しました」「核武装すれば大変なことになります」。突如、大ニュースを切り出された記者たちの方が驚き、あわてたそうだ

▲この「政府筋」が当時の官房副長官、石原信雄氏だったことは、その後本人が認め公表している。
時の宮沢喜一内閣は発射直後に情報をつかんでいたが、米国への配慮などから極秘扱いにしたとされる。
しかし、事務方トップの石原氏がまったく独断でリークしたのだった

▲「黙っていてはいけない。危険な企てをしている国があることを国民に知ってほしかった」と後に石原氏は語っている。
それを「危機感をあおるため世論誘導しようとした」とか、「官僚の出過ぎたまねだ」と非難する人は今、ほとんどいないだろう

▲リークやオフレコというと悪いイメージで語られがちだが、信念と覚悟を持って情報を明かす官僚もいたということでもある。

オフレコの席を放談会と勘違いし、暴言を吐いて辞任する政治家や官僚が後を絶たない今とは大違いである

▲「世襲3代目」になっても北朝鮮をめぐる危機的状況は変わらない。

そして日本は、といえば、「迷答弁」ぶりであきれさせ、時に失笑まで買う人が参院で問責決議を可決されながら、国の危機管理の要である防衛相を続けている。

19年後の現実を改めて見つめたい。
posted by 小だぬき at 07:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする