2012年11月19日

風知草:選択の意味=山田孝男

風知草:選択の意味=山田孝男
毎日新聞 2012年11月19日 東京朝刊

 多過ぎる選択肢は必ずしも幸福をもたらさない。
米コロンビア大の女性人気教授、シーナ・アイエンガー(42)の研究結果である。
政党乱立の歳末選挙でそれを思い出した。


 教授は人間の選択行動を実験で確かめた。食料品店の試食コーナーに24種類のジャムを並べた時と、6種類のジャムを並べた時とで比較すると、6種類の時の方がよく売れた。


 なぜか。人間は、情報処理能力を超える過剰な選択肢を示されると当惑し、判断を保留する。
結果として間違った選択へ追い込まれ、より良い結論にたどりつけないことがある。


 選挙にも似た面がある。
せいぜい6党か7党の、従来のテレビ討論でさえ散漫なのに、今回は14党だ。
言い分を一通り聞くだけでも忍耐がいる。
耐えかねて判断を誤らぬよう、選挙後を左右する三つの勢力に絞って選択の意味を考えてみる。


 今回の総選挙は、自民党に言わせれば「未熟、無能の民主党から政権を奪い返す戦い」である。
民主党は「元のモクアミに戻させない戦い」だと反発している。
「何がなんでも石原慎太郎首相」をめざす「日本維新の会」は「中央官僚支配打破」が重要だと言っている。


 これらのスローガンの根底に見え隠れしている主題は「政治主導」である。
それは民主党の金看板だったが、もはや看板倒れがハッキリした。
民主党に木枯らしが吹きつのり、追い風に乗る自民党の周りで「維新」の竜巻がうなっている。


 民主党は「官僚操縦」と「官僚排除」を履き違えた。
会社の社長が、のべつまくなしに部課長と争えば会社は傾く。
不適格な部課長が幅を利かせる会社も傾く。トップダウンのツボは人事だ。
人事は経験と洞察力を要するが、民主党の首相、閣僚にはそれが欠けていた。


 自民党は官僚排除の愚は犯すまいが、逆に官僚に甘過ぎる傾向がある。
官僚は本来、邪悪な存在でないどころか、国を支えるエリート集団だ。
ただ、伝統と自負に根差す尊大さ、巨大組織にありがちな無責任体質がしばしば暴走を生む。
暴走に任せる自民党なのか、的確に手綱をさばく自民党なのか。


 官僚の暴走を、カリスマ人気のトップ2人がチェックするというのが「維新」である。
強い指導力が魅力だが、国政の全領域で問題を把握し、改革を進める準備があるか。
説得に必要な知識、経験、人脈をそなえた同志を結集できるのか。


 脱原発とTPP(環太平洋パートナーシップ協定)は政党間の争点とは言えない。
3勢力はすべて内部に正反対の意見を抱えている。
憲法や国境紛争ではある程度、各勢力の特色が出たが、スローガンだけで決めるには複雑過ぎる問題だ。

 アイエンガーは、インド移民のシーク教徒の両親のもとに生まれた全盲の社会心理学者である。
厳格な宗教的伝統を背負い、自由を尊ぶアメリカで学び、選択の研究を始めた。
「選択の科学」(邦訳・文芸春秋)は一昨年のベストセラーだ。


 教授の結論はこうだ。より良い選択にたどり着くカギは過去の選択の検証であり、情報に基づく直感である−−。

アイエンガー語録から、もう一節。
人生は選択と偶然と運命で決まるが、最も強力に作用するものは選択だ−−。


投票の基準も、過去の選択を踏まえた直感でしかない。明日の国会の構成を決めるものは偶然でも運命でもない。国民の選択である。(敬称略)

posted by 小だぬき at 10:05| Comment(2) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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