2012年12月26日

香山リカのココロの万華鏡:簡単ではない“人間支援”

香山リカのココロの万華鏡:簡単ではない“人間支援” 
毎日新聞 2012年12月25日 東京地方版

とてもおもしろい本を読んだ。
文章表現インストラクターというユニークな活動を続ける山田ズーニーさんの「おかんの昼ごはん」。
親の老いに直面したときの戸惑いを記した本、といった新聞広告を見たので、その問題に切実に関心のある私はすぐに買った。


老いた親とどう向き合うかというパートもとてもリアルだったのだが、それよりもこの本は「仕事をどう選び、どう決めるか」という問題に多くが割かれていた。
当初の期待とは違ったのだが、それがおもしろかったのだ。

 読んでいて、自分の名前が出てきてギョッとした。
教育分野で仕事をしてきたズーニーさんは、大震災のときにこう思ったというのだ。「『生きてるだけでいいんです!』という精神科医の香山リカさんの言葉が、どんなにかっこよく感じたか」。

つまり、「医療」の現場にいる私は、「病気を治し、命を救う」ということをゴールとしているから「生きていればオッケー!」と力強く言えるが、
教育の場にいるズーニーさんは、「命はある」という前提で、そこから「より良く」「さらに先に」と導かなければならない、だから大震災のときには自分の無力さを感じた、というのだ。

実は、「生きてるだけでいいんです」は、この連載をまとめた本のタイトルだ。
それがたまたま大震災の直後に出版されたのだ。
たしかに私は震災とは関係なく、日ごろから診察室で「生きていて今日も診察日にここに来れた。それだけでもすばらしいじゃない」などと言っていた。
それは私が個人的に本当にそう思っているからだと信じていたのだが、ズーニーさんの指摘を読みながら「やっぱりこれは“医者ならでは”の発想なのか」と考え直した。

 とはいえ、人はなかなか「生きてるだけでオッケー」などとは思えない存在、ということもよくわかる。

診察室でも、本当にその人を救うのは「誰かの役に立った」「以前、できなかったことができるようになった」といった「より良く」「さらに先に」だからだ。

悟りを開いた修行者でもなければ、「何もしなくても自分に満点」などとは思えないだろう。


 まず「あなたはそのままでいい」とその人の存在そのものを認め、それから「でも、もう一歩、先に行けるよね」と背中を押し、自分の中にある力を花開かせる手伝いをする。
医療、福祉、教育が一体となった“人間支援”ができるようになるのがいちばんだが、それはもちろん言うほど簡単ではない。

posted by 小だぬき at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | うつ病について | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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