2013年05月22日

「頑張り」実る社会に

香山リカのココロの万華鏡:「頑張り」実る社会に
毎日新聞 2013年05月21日 東京地方版


 私が子どもの頃、中学の先生がよく言っていた。
「私立大学は授業料が高いけれど、国公立大なら家庭の事情に関係なく、実力主義で誰でも行ける。
だからみんな頑張って勉強するんだよ」


 もちろん、実際には国公立大への進学に一切、家庭の事情は関係がないというわけではない。
ただ、先生はそうやって生徒たちを励まし、勉強の意欲を持たせようとしたのだろう。


 しかし最近、東京大などの研究者の調査によって、国公立大への進学率にも保護者の年収が大きくかかわっている、という結果が明らかになった。
この傾向は、7年前の調査でははっきりしなかったという。


 家庭に経済力があるほうが、塾などの教育費を子どもにかけられる。
また、年収の高い保護者自身が国公立大や有名私立大を卒業しており、「わが子にも自分と同じ学歴を」と望むケースもあるはずだ。
国公立大が「自分の頑張りだけで行けるところ」ではなくなっているという現実は、いろいろな事情を抱える家庭の子どもにとっては、とても残酷だ。


 とはいえ、私立大も決して「裕福な家庭の子どもが集まるところ」ではなくなっている。
私は現在、私立大で教えているが、仕送りがまったくなくアルバイトだけで生活している学生。
実家住まいだが授業料を自分で払っている学生や、親に生活費を渡している学生。中にはどうしても学費が払えなくなり退学していく学生もいる。

何の心配もなく親がかりで学生生活をエンジョイする若者がいる一方で、なんて気の毒な、とも思うが、彼ら自身は「仕方ないですよ」と割り切って淡々としている場合が多い。


 この「割り切り」は心のバランスを保つ上では大切だが、同時に注意しなければならないものでもある。
本来、少なくとも「勉強したい」と望む子どもや若者には、その機会が平等に与えられなければならないはずだ。


 「大学でゆっくり勉強できるのは、恵まれた家の子弟だけ」ということになると、最初から諦める子どもも出てきて、社会の動きはそこで止まってしまうだろう。


 頑張っても大学に行けない。家庭などの環境が悪すぎて、頑張りたくても頑張れない。
「夢を大切に」というメッセージがあふれているいま、そんな子どもや若者も増えている。


 その昔、先生が語ったような「大学受験は実力主義。
頑張れば誰でも行けるんだ」というシンプルな社会は、もうやって来ないのだろうか。

posted by 小だぬき at 09:45 | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする