2013年5月25日 東京新聞「社説」
命を守る制度のはずだ。
政府の生活保護法改正案が閣議決定され国会に審議が移った。
保護費抑制や不正受給対策に力点を置いた改正だが、保護を必要としている人を制度から締め出さないか。
北九州市で二〇〇六年、生活に困窮した男性が生活保護の申請を拒まれ餓死した。
当時、保護費を抑制するため、行政の窓口で相談に訪れた人に申請をさせず追い返す「水際作戦」が、各地で問題となっていた。
会計検査院の調査によると、行政が受け付けた相談件数に対する申請件数の割合は、〇四年度の全国平均で30・6%だ。約七割の相談が申請に至っていない。
北九州市は15・8%と最低だった。
まず窓口での申請を厳格化することである。
申請の際、資産や収入の状況を示す書類の提出が義務付けられる。
保護費は税金だから困窮の状況を示すのは当然だ。
だが、提出を義務付けるとその不備を理由に申請を受け付けない事態が増えかねない。
現行は、口頭での申請でも可能とされている。
日弁連は「違法な『水際作戦』を合法化する」と批判している。
書類提出で申請者自身が保護の必要性を申請時に証明することを求められる。
路上生活者や家庭内暴力から逃げてきた人にとっては、証明書類の準備は難しい。
次に、保護を受けようとする人の親族に、場合によっては扶養できない理由や収入などの報告を求めることだ。
親族の資産を調べられ、職場に照会が行くかもしれないとなると、迷惑がかかると申請をあきらめる人が出る。
親族の支援は必要だが、関係が良好とは限らない。
子育て家庭など家計に余裕がないだろう。
少子化で親族も減る。
親族に厳しく扶養を求めることは国の福祉政策の責任転嫁ではないか。
生活保護は、集めた税金を困窮者に再分配する支え合いの制度だ。
私たちがいつこの制度に助けられるかもしれないことを忘れたくない。
改正案では、受給中に働いて得た賃金の一部を積み立て、保護から脱却した際にもらえる給付金制度を創設する。
自立への後押しになるが、保護への入り口を絞っては、効果は限定的になる。
不正受給は許されないが、その対策や保護費抑制を進めるあまり、困窮者が制度からはじき出され餓死するとしたら本末転倒だ。