毎日新聞 2013年05月28日 東京地方版
会社勤めをしていたが、うつ病で長期にわたり休職しなければならなくなった。
これは今、珍しいことではない。
職場を対象にした調査で、6割前後が「メンタルヘルスに問題を抱えている社員がいる」と回答している。
その人たちはその後どうするのか。
まず精神科や心療内科などを受診し、必要なら休職の診断書をもらい心身を休めながら適切な治療を受けるだろう。
回復の兆しが見えてきて、本人にも「また働きたい」という意欲が出てきたら、主治医はこう言うに違いない。
「いきなり復職するのは危険だから、少しずつ『慣らし出勤』したほうがいいですね」
なぜ「治ったから復職」は危険か。
症状が治まったとはいえ、家で休んでいる状態と通勤して仕事をしている状態とでは大きな差がある。
特にうつ病では、回復後もしばらくは「心身のエネルギーの使いすぎ」を避けなければならないので、急にフルタイムで働き出すことでの緊張感で大きなエネルギーを消耗してしまうのは望ましくない。
だから、まずは通勤に慣れる。
それから短時間の単純業務や同僚との顔合わせなど、慎重な「慣らし出勤」を経てからの復職が必要なのだ。
とはいえ企業や事業所には、「ウチには『慣らし出勤』なんて制度はない」というところも少なくない。
また、実際に職場へ行く前に、もう少しハードルの低いリハビリをしたいという人もいる。
そういう人たちのために医療機関や行政、あるいはNPO法人などで提供するのが、復職支援(リワーク)プログラムだ。
そこでまず、毎日決まった時間に電車などに乗り、決められた場所に行く練習。
家族以外の人と話をする練習。
さらにはパソコンや調べものに取り組んだり、うつの気分に陥らないためのスキルを身につけたりして復職に備える。
そんなリワークプログラムが、最近のメンタルヘルスの世界で熱い注目を受けている。
私が勤務する診療所にはこのプログラムがないので、復職を考える患者さんを別の医療機関などにお願いしながら、いつも思う。
うつ病で休職した場合に限らず、何事も一旦ペースを落としたら、突然またバリバリ再開するのは危険なのだ。
風邪など体の病気。
身内の不幸で休んだ場合。
失恋など個人的な事情で仕事に集中できない日々を送った後だって同じだ。
焦らず慌てず、「休んだ分を挽回しよう」なんて思わずに、少しずつ元のペースに戻していく。普段からそう心がけてはどうだろう。