2013年09月18日

香山リカのココロの万華鏡:7年後のオリンピック

香山リカのココロの万華鏡:7年後のオリンピック
毎日新聞 2013年09月17日 東京地方版

 東京オリンピック開催に沸いた週末が明けた診療所。

患者さんたちの中に、さえない表情の人が目立った。
「どうしました? うつの症状がひどくなりました?」と聞くと
「オリンピックが……」という答えが
「え、好きじゃないんですか、オリンピック?」と言う私に、
「いえいえ、東京に決まって本当によかった」と、慌てて否定した人もいた。


 その人たちは「7年後」という現実味があるようでいて、それなりに長さもある年月に負担を感じ、気が重くなっているのであった。

ある人は、「7年後に、自分はもう50代かと考えるとめまいがする。
まだ独身か。仕事はどうなっているのかと急に不安になった」と語った。
別の人は、「それまでに大きな災害があったらどうしよう。
どこに逃げたらいいのかと想像してしまう」と話した。
「まだうつ病が治らずに、こうやってここで先生と話していたら、と考えると気がめいる」という正直な人もいた。


 「まあ、きっと大丈夫ですよ。元気になってオリンピックに熱狂してますよ」などと言いながら、ふと「自分はどうしているのだろう」と、我が身にも目が行く。
7年後に私は60歳。
世間で言えば還暦だ。
大学や病院の定年も近い。
退職後の備えはできているのか。
漫画やゲームからは卒業し、年齢相応の落ち着きを身につけているだろうか、などと途端にあれこれ心配になってくる。


 マスコミの仕事で会うテレビディレクターや編集者らは「ついに東京にオリンピックが来るね!」と、みんな手放しで喜んでいる。
中には60代もいるが、「絶対に現役でその日を迎えたい」「孫もその頃は大学生。
一緒に観戦へ行けるかと思うとワクワクする」と、新たな励みにしている人も少なくない。
広告代理店に勤める友人は「7年なんてあっという間。準備が間に合うかどうか」と、今から気ぜわしい。


 「7年後のオリンピック」を、明日のことのように楽しみにできるか。
それともその日までの時間の長さにぼうぜんとしたり、その時の自分や社会に良くないイメージを抱いてしまったりするか。
その違いで「今の心のエネルギー」を測れそうな気もする。


 とはいえ、張り切りすぎて息切れしてしまうようでは元も子もない。
「今よりきっと悪くなっている」と悲観する必要もないが、被災地の復興などやるべきことはきちんとやりつつ、気持ちを落ち着けてその時を待つ。
そうありたいものだと、自分にも言い聞かせた。

〔都内版〕
posted by 小だぬき at 00:00| Comment(3) | TrackBack(0) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする