石井苗子の健康術
うつ病で「障害年金」が支給されないケース
2014年7月29日 読売新聞
(もっと簡単に保障を手にすることができないものでしょうか)
元気な元会社役員で70歳の方が、年に約500万円の年金を受給しているとおっしるので、「将来もらえないかもしれない若い人たちに申し訳ない気持ちになりませんか?」とお聞きすると、「冗談いっちゃいけない。元気でやりたいことが山とある」と言われてしまいました。
一生懸命働いてきてやっと年金がもらえるようになって「今ここで死んでなるものか!」という思いなのだそうです。
お気持ちはよく分かります。
未来の自分に投資してきたお金を「どうしてもらってはいけないのだ」という思いでしょう。
給与から多額の掛け金を天引きされ続けた人たちが、定年後に受給が始まり、長生きすると年金制度が破綻すると思っているでしょうが、それはとんでもない話です。
同じ年金でも、現役の世代の方から「障害年金」の受給ために診断書を書いてほしいと心療内科に申し出る方がいます。
この方は今すぐにでももらいたいという年金です。
診断書は主治医が書くものですが、「われわれは治ることを目標にしているのであって、障害年金のために診断しているのではありません」と、ひと言おっしゃる医師に、患者側との気持ちの食い違いがあり、しばしばトラブルになることがあります。
一度も年金の掛け金を納めたことのない個人に障害年金は給付されません。
私の妹のように、家族が生活をみていたが、とうとう家の中でも足腰が立たなくなったと言っても、障害年金は支給されません。
肉体的なことは他にも対処方法がありますが、障害年金対象の中に「うつ病疾患」があり、これが医師とのコミュニケーションが成立しないということがネックとなっています。
たとえば、体の節々に釘くぎをさされたような痛みが発生し、それが慢性的になっていく「線維筋痛症」という病気があります。
次第に歩けなくなる方もいらっしゃいます。
職場の人間関係などから根底にうつ状態が存在していたが、精神科ではなく、心療内科で治療を受けてきたので、障害年金の診断書が必要となると心療内科医が書くことになります。
最初から精神科を受診している場合より難しくなります。
「線維筋痛症」という病名では障害年金が支給されない場合が多いからです。
初診日がいつかによって給付される金額が違ってくるので、初診から診察してもらっている医師に診断書を出してもらいたいでしょうが、身体的な痛みで初診したとなると、うつ病の対象にならない場合があります。
先日お会いした方から、「誰も知らない最強の社会保障:障害年金というヒント」(三五館)という本をいただきました。
社労士(社会保険労務士)という厚生労働省管轄の国家資格者が、上記のような問題に対して法律に基づく書類等の作成代行、医師との摩擦の解消についても解決策を考えてくれるのです。 しかし、できることなら自分で申請ができ、もっと簡単に保障を手にすることができないものかと、患者側は思われるでしょう。
この本を読んでみて、長年経過したカルテは処分されてしまい初診日が分からなくなったり、国のPRが徹底していなかったりということも、よく見えました。
国の経済が先か、人の命が先かの瀬戸際に来ている日本なのかもしれません。