池上彰さんの活躍に思う「マスコミの存在意義」
2015.01.11 zakSPA 文=鴻上尚史
選挙が終り、1年が終わりますねえ。
今回も、選挙特番の池上彰さんの活躍はすごかったで。
安倍首相に、大勝の感想インタビューで「憲法改正に向けて一歩一歩進めていくということですね」とずばり聞きましたからね。
で、安倍首相は「そういうことです」と認めました。
中継が終わった後、池上さんは、「憲法改正の熱意、野望をまったく隠そうとされなかったですね」とまとめました。
ぞくぞくきますねえ。
池上さんは何回も「欧米ではジャーナリストが政治家に対して、これぐらいのことを聞くのは当たり前で、自分が特殊ではない」とおっしゃっています。
それがジャーナリストの仕事なんだから、ということです。
当選した政治家に対して「おめでとうございます。
今の心境はいかがですか?」
しか言えないのは、ジャーナリストではなく、ただ、テレビに出ている人、だということです。
池上さんが選挙特番をするようになって、多くのキャスター達は、意識的な質問をするようになったと僕は思っています(もちろん、激励して、身内だとアピールする人もいますけど)。
ただ、池上さんがすごいのは、ものすごい質問をじつにヒョウヒョウとやることです。
これはなかなかできません。
何人かのキャスターの人達の質問する時の「気合」を感じましたが、質問する時に相手に「気合」を伝えてしまうと、相手は身構えしまうのです。
そうすると、相手も公式答弁とか沈黙とか韜晦に逃げる可能性が高いのです。
それを池上さんはじつにヒョウヒョウとするのです。
本当にすごいです。
こういう人がいる限り、マスコミの存在意義はあるんだと思います。
これは決して大げさな言い方ではないです。
記者クラブに自動的に所属して、日常的に政治家と接するようになり、やがて、政治家の身内のような感覚になり「自分が政治家を守るために、この記事をやめておこう」なんて意識にまでなってしまうマスコミの中で、池上さんの存在は本当に希望だと思います。
■SNSを禁じる大手マスコミ
最近、大手の新聞社から「マスコミとネット」についてのインタビューを受けました。
「マスゴミ」と言われてしまうマスコミは、「売国奴」だの「反日」だのの言葉を使いながら、ゆっくりと自殺しているんだ、とこの欄に書いたことがきっかけでした。
驚いたのですが、大手の新聞記者さんは、ツイッターやフェイスブックをすることを、基本的に会社から禁じられている、というのです。
許可された一部の記者だけがやっているそうです。
僕は思わず「そんなあ!」と声を上げてしまいました。
ネットの民は、ネットに溺れながらマスコミを知っている。
けれど、マスコミの人達は、ネットをまったく知らない。
そんなんでネットと戦えるはずないじゃないかと思いました。
ツイッターやフェイスブックが禁じられている理由は分かります。
大手のマスコミの人間が不用意につぶやいて、「××新聞社の記者がこんなこと言ってる」と炎上したらまずいということでしょう。
肩書を見て、例えば朝日新聞社の記者だと分かれば、スルーする発言も祭にする可能性は十分にあります。
だから、仕事でどうしても必要な記者以外は禁じてしまえ、という上層部の切実で短絡的な発想も分かります。
分かりますが、それでは、マスコミの死期をどんどん早めてしまうだろうと思います。
僕は思わず、「会社に怒られるのなら、偽名にしてやればいいじゃないですか」とアドバイスしました。
実際、例えばフェイスブックでは、有名人が何人も名前を変えて僕に「友達申請」してきています。
メッセージでこっそり、自分の本名を名乗るのです。
表現者やアーティストとして「フェイスブックとはどんなものか」とか「ツイッターの可能性と限界」を体験することは、とても大切なことだと思っています。
ジャーナリストの人達も、もちろんです。
毎日、仕事としてネットを覗くことは、なかなかに大変なことです。
興味を持って、熱中している人ならともかく、仕事で見ると胸潰れることがたくさんあります。それでも、希望を感じることもたくさんあるのです。
2015年も、ネットという巨人とつきあっていこうと思います。
ということで、来年もよろしくです。
※SPA! 12/30・1/6合併号から