2015年12月06日

記者の目:BPOの政府・自民党批判=丸山進(東京学芸部)

記者の目:
BPOの政府・自民党批判
=丸山進(東京学芸部)
毎日新聞 2015年12月04日 東京朝刊

◇放送局の自律に任せよ

 放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は先月6日に出したNHK「クローズアップ現代」報道に対する意見書で、番組内容に関する政府の行政指導や自民党の意見聴取を「圧力そのもの」と批判した。

BPOは放送界が自律のために設置した第三者機関。
その一委員会である検証委の意見書は本来、番組にどのような問題があったかをまとめるもので、矛先が政府や与党にも向くのは異例のことだ。
テレビ局に対する政治圧力が強まる中、真正面から批判した決断に、まずは拍手を送りたい。  

テレビ局への圧力は、安倍晋三政権になってから度を越している
自民党は昨年末の衆院選前、在京テレビ各局に選挙報道の公平中立を求める要請書を出した。
今年4月には自民党の情報通信戦略調査会がNHKだけでなく、出演者が「官邸から圧力を受けた」と発言した「報道ステーション」のテレビ朝日幹部からも事情聴取した。
6月には同党国会議員らの会合で、「マスコミを懲らしめるには広告料収入をなくせばいい」との発言まで飛び出した。  

◇規定解釈変遷し、政府が行政指導  

こうした圧力や介入を繰り返す度に、政府や自民党は放送法第4条を根拠に行為を正当化してきた。
第4条は「番組編集準則」と呼ばれ、政治的公平や事実に即した報道など、番組編集の基準となる4項目を定めている。
検証委は準則を、放送局が自らを律するための「倫理規範」であり、行政指導の根拠となる「法規範」ではないと真っ向から批判している。
法学者の通説を踏まえての指摘だ。
 放送法の歴史をたどると、準則は元々、検証委が指摘するように放送局に課せられた努力規定だった。

その後、テレビの影響力が増し、政治を取り上げる番組も増えた。
政府の考え方も変化し、法律の運用まで大きく変わってしまった。
ここに問題がある。

 放送法を審議中だった1950年3月、総理府の網島毅・電波監理長官(当時)は国会で「自律的な要件に従い、放送法の目的を達成するように努力することを期待している。
真実でない放送をしたという判断は、放送した者がする」と、準則は放送局側の努力規定と説明していた。

 しかし、政府は次第に番組の内容について行政指導を行うようになった。
93年2月には、郵政省の木下昌浩・放送行政局長(当時)が国会で、放送局に放送免許を認めない例として「訂正放送を行うべき時に行わなかった場合や、報道は事実を曲げないですることなどに違反した場合」を挙げた。
準則違反が根拠になりうると認めた。

 ◇都合良く法解釈 安保法と同じ

 時の政府によって法律の解釈が変わっては法治国家とは言えまい。
それによって、表現の自由、ひいては国民の「知る権利」をも奪われかねないだけに問題は深刻だ。
 しかも、検証委の指摘を受けても、政府は解釈を改めようとはしていない。
高市早苗総務相は「準則は法規範性を有するものだ」と意見書に反論。
「すべての学者が『これは倫理規範だ』と言っているわけではなく、『法規範性を有する』という学者もいる」という論理を展開した。

 多くの法学者の法令解釈に背を向け、都合の良い学説だけを取り上げる姿勢。安保関連法は違憲であるという、多くの憲法学者の批判に対する政権の反論と同じだ
政府は法律家の指摘に耳を傾け、置き去りにしてきた法律論を尽くすべきではないか。

 一方で、たび重なる政府や自民党の圧力や干渉に対し、当の放送局側には毅然(きぜん)とした態度が見えない。
日本民間放送連盟の井上弘会長は「個別番組のことで政党が放送事業者を呼ぶのは行き過ぎだ」と批判したが、意見書公表後、各局の社長に定例記者会見でコメントを求めると、及び腰の発言が目立った。

 吉田慎一テレビ朝日社長は、自民党調査会の聴取に自局幹部が応じたことを「番組で混乱を招き、自民党に呼ばれたのが(事情説明の)いいチャンスと思い、説明に赴いた」と述べた。

亀山千広フジテレビ社長も「公権力の介入を招くのは我々に原因がある。隙(すき)を与えないことが責務だ」と述べ、政治圧力をけん制する発言はなかった。

 政界からの圧力や干渉には、戦前の統制報道に逆戻りしかねない危険なにおいさえ感じる。
メディアに監視される立場にある政府や各党は、番組内容に対する放送局への関与は抑制的でなければならない。
同時に放送局側も、事実に基づく報道や、放送全体としての公平性を確保したうえで、外部からの干渉には毅然とした姿勢を見せることが何より大事だ。
posted by 小だぬき at 10:00 | Comment(2) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

公的年金の運用損:国民の老後を不安にさらすな

公的年金の運用損
国民の老後を不安にさらすな
2015年12月4日(金)しんぶん赤旗「主張」

 公的年金の年金積立金の今年7〜9月期の運用損益が、7兆8899億円の赤字となりました。
四半期としては、2001年に厚生労働省が運用するようになってから過去最大の損失です。
昨年10月から株式での運用を拡大したことによって、国内外の株価下落の影響をストレートに受けた形です。

年金積立金は、老後の安心を支える「国民共通の財産」です。
その貴重な資金を、変動の著しい株価に傾斜して運用することが、いかに危険かを浮き彫りにしています。
国民の将来を不安にさらすことは、やめるべきです。

安倍政権の株価対策で

 公的年金の積立金は、国民が月々こつこつと支払う国民年金や厚生年金の保険料のうち、まだ年金給付に使われていない部分によって成り立っています。
積立金の規模は9月末で約135兆円です。
厚労省が管轄する年金積立金管理運営独立法人(GPIF)が資金を管理・運用しています。

債券や株式の運用によって得た収入は年金給付に使われますが、GPIFの最大の使命はあくまで「年金制度の運営の安定に貢献」です。

 ところが安倍晋三政権は昨年10月、積立金の運用方針を大きく転換しました。
資産運用割合を、これまで日本株12%、外国株12%であったものをそれぞれ25%に拡大した一方、比較的リスクが少ないとされる国内債券の割合を60%から35%に縮小しました。

その結果、年金積立金から株式市場に数十兆円の新たな資金が投入されました。
株価つり上げを狙った安倍政権主導の露骨な「株価対策」です。

 リスクの高い株式での運用拡大の危うさをはっきり示したのが、GPIFが先月30日に公表した今年7〜9月期の過去最大の運用損です。

国内株は4兆3154億円もの赤字となりました。
外国株の赤字も3兆6552億円です。
今年8月以降の国内外の株価の大幅下落に直撃されたことは明らかです。
政府やGPIFは、10月以降の株価が上がっていることなどを理由に「長期的な視点で見てほしい」と説明します。
しかし、今四半期の赤字額は、今回の株価下落よりはるかに危機的だった08年のリーマン・ショック時よりも大幅です。

変動が激しい株運用を広げれば広げるほど、積立金を不安定化させ国民の財産を危機にさらすことにつながるのは明白です。

 安倍政権は、GPIFによる株式運用の拡大を「成長戦略」の大きな柱に位置付けています。GPIFは今年10月、「ジャンク債」といわれる、海外で格付けの低い債券を購入することまで決めました。
国民の払った保険料を「元手」に「ハイリスク・ハイリターン」の道に突き進むことは、国民の年金を安全確実に管理・運営する姿勢と、あまりにかけ離れています。

「投機」の加速を許さず

 “年金財政が大変”といって、国民に高い年金保険料負担と年金額カットを強いておきながら、株運用の拡大などで年金財政を危うくするやり方は、異常です。
 年金財政を安定させ、安心の給付を保障する重要なカギは、積立金の安全運営とともに、労働者の雇用安定と賃上げ、中小企業や農家などの経営安定などです。
国民の懐を温めることには背を向けたうえ、国民の老後の安心のための資金で「投機」を加速させる安倍政治からの転換が急がれます。
posted by 小だぬき at 00:00 | Comment(2) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする