2016年11月25日

「老い」、建物も住民も 急増する管理不全マンション 自治体、専門家派遣し支援

クローズアップ2016
「老い」、建物も住民も 
急増する管理不全マンション 
自治体、専門家派遣し支援
毎日新聞2016年11月24日 大阪朝刊

 空室の増加や管理費の滞納などが原因で荒廃する管理不全マンションが各地で目立ち始めている。
放置すれば周囲にも悪影響を与えるため、全国の自治体が実態調査を始めた。

背景には、老朽化マンションの急速な増加に対する危機感がある。
現地を訪問したり、専門家を派遣したりして住民を手助けする動きも出てきた。
国も管理組合の再生に乗り出した。 【安高晋】

 約173万戸の分譲マンションがあり、全国の約4分の1が集中する東京都。
都が2011〜12年、都内の全マンション約5万3000棟を対象に管理の実態を調べたところ、約500棟に管理組合がなかった。
調査に応じたのは全体の17%の約9000棟にとどまり、管理不全のマンションはさらに多いとみられる。

 都の住宅政策審議会は昨年、実態調査のデータも踏まえ、管理不全のマンションを把握して支援するよう答申した。
「手をこまぬいていれば確実に増加し、周辺の治安や衛生にも悪影響を及ぼす」と警告。
マンションが自治体に管理状況を定期報告する制度の構築を促した。
都は今年度から制度の試行を始めたほか、報告がなければ立ち入り調査できる仕組みも検討する。

管理不全マンションの増加どう考える? 

 老朽化マンションは今後、急増する見込みだ。
国土交通省によると、築40年以上は現在56万戸だが、10年後に162万戸、20年後は316万戸になる。
古いマンションほど住民の高齢化も進む。

1970年以前に建てられた物件は、60歳以上だけで暮らす世帯の割合が52%を占め、全体の26%を大きく上回る。
高齢化は管理組合役員のなり手不足や空室の増加につながる。

建物と住民の「二つの老い」。
これが管理不全マンションを生む要因となっている。
 管理不全マンションの全体像が見えない中、現地訪問で実態をつかもうとする動きもある。
大阪市は12〜13年、築30年以上の約340棟を対象に、住民の代表に問題点などを直接聞き取り、外観に剥落やひび割れがないか目視で点検した。
市の担当者は「調査票を郵送するだけでは分からない管理の実情や劣化状態を把握できた」と話す。

 京都市では具体的な支援も進む。
11〜12年、90年以前に建った約660棟を調査。
現地訪問で回収した調査票や目視調査から47棟を「要支援マンション」に指定し、専門家を派遣して管理組合の活動を支援している。
 同市左京区にある築42年の「真如堂(しんにょどう)マンション」(全13戸)もその一つ。
以前は管理組合がなく、外観は傷みが目立ち、管理費の徴収も滞っていた。
指定を受けた後、専門家の助言を受けながら管理組合を結成。
長期修繕計画を作成し、13年には初の大規模修繕を実現した。

管理組合の楢崎勝則理事長(62)は「支援しようという押しかけ型の申し出がなければ、お手上げだった」と振り返る。

 管理不全マンションの問題に詳しい富士通総研経済研究所の米山秀隆主席研究員は「自治体はまず、マンションの実態を把握すべきだ。
私有財産への支援には否定的な見方もあるが、災害時に危険が及ぶマンションなど、支援の必要性が高い物件から対策を検討していくことが望ましい」と指摘する。

第三者役員」に不安の声

 国はマンション管理にどう関わってきたのか。
大きな節目は2000年に成立したマンション管理適正化法だった。
管理業者に国土交通省への登録を義務付けたり、住民の相談に乗る国家資格「マンション管理士」を新設したりと、管理の質の向上を後押しした。

 その後も、急速に進む二つの老いを懸念する声は高まる。
「管理組合が機能していないマンションが増える恐れがあるのに、有効な施策が行われていない。
関与のあり方を検討すべきだ」。
国交相の諮問機関、社会資本整備審議会は09年、マンション政策の答申の中で強調した。
だが、マンションは私有財産で所有者が責任を負うのが原則。
国は管理組合を支援する団体に補助金を出すなど間接支援にとどめてきた。

 新たな対策を模索してきた国交省が今年3月に打ち出したのが、マンション内のルールを定めた管理規約のモデルとなる「標準管理規約」の改正だった。
マンション管理士や弁護士など外部の専門家も管理組合の役員になれるよう、選択の幅を広げた。
標準管理規約に法的な強制力はないが、9割のマンションがこれに沿って管理規約を作っており、影響は大きい。
国交省は、管理不全につながりかねない管理組合役員のなり手不足を解消する「切り札」として期待を寄せる。

 ただ、これらの動きを懸念する声もある。
関西の約120管理組合が加盟する京滋マンション管理対策協議会の谷垣千秋代表幹事は「専門知識を持つ第三者が役員になれば、大半の所有者が望んでいない結論に強引に誘導する事態も起きかねない」と懐疑的だ。

東京都大田区のマンションで管理組合の副理事長を務める男性(65)も「所有者以外の人に会計を任せるのは不安だ。
普段の付き合いがないと、相談もしづらい」と話す。
資金不足に悩むマンションが専門家を雇えるのかという疑問もある。

 管理不全の問題はどのマンションにも起こりうる。
谷垣氏は「購入時に老朽化のリスクを伝えるなど、所有者に『自分たちが管理する』という自覚を促す対策こそが必要だ」と訴える。
posted by 小だぬき at 00:00 | Comment(2) | TrackBack(0) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする