「薬剤耐性菌」増加に警鐘
抗生物質の使い過ぎ原因
2016年12月6日 東京新聞
抗生物質(抗菌薬)が効かない細菌の「薬剤耐性菌」が増えている。
抗生物質の使いすぎが原因で、現在流行中のマイコプラズマ肺炎など、身近な病気にも効きにくくなっている。
専門家は不必要な抗生物質の投与を控えることが重要だと指摘。
五月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)でも議題となり、国や医療現場も対策に乗り出している。
(細川暁子)

九月末から流行し始めたマイコプラズマ肺炎。
「抗生物質がマイコプラズマ菌に効かなくなってきていることが、流行の一因ではないか」。
国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)感染症科医長の宮入烈(いさお)医師は推測する。
この肺炎は長引くせきが特徴で、小中学生など学童期の子どもが多くかかる。
国立感染症研究所によると十一月十四〜二十日に全国五百の医療機関から報告された患者数は、一医療機関当たり一・三二人。
昨年同期の〇・七六人を大きく上回っている。
宮入医師によると、以前は、菌のタンパク質の合成を妨げる「マクロライド系」の抗生物質を使えば治療できていた。
だが二〇〇〇年ごろから、抗生物質を投与しても治らず、重症化して入院する子どもが徐々に増えているという。
薬剤耐性菌は、抗生物質を使いすぎるなど薬の不適切な使用で細菌の遺伝子が突然変異してできる。
耐性菌を保有している人が別の人と接触したり、不特定多数の人が触れる物に菌がついて周囲に広がっていく。
中でも特に脅威となっているのが、「カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)」だ。
最後の切り札と言われる強力な「カルバペネム」を含め、ほとんどの抗生物質が効かない。
「抗生物質を使えば使うほど耐性菌は増え、別の抗生物質を使っても、その薬に耐性を持つ菌が出てくる。
いずれ菌とのいたちごっこに勝てなくなるのではないか」。
宮入医師は懸念する。
◆適正使用 医療現場で啓発
そもそも抗生物質は細菌が原因の病気には効くが、ウイルスが原因のかぜなどには効果がない。
だが病気の原因が、細菌なのか、ウイルスによるものかを見極めるのが難しい場合もあり、医師が念のために抗生物質を処方したり患者が求めたりする傾向がある。
「耐性菌を増やさないためには、不必要な抗生物質の使用を控えることが重要」と宮入医師は言う。
政府はサミットに先駆けて、抗生物質の使用量を約三割減らす目標を決め、十一月には「国民啓発会議」を初めて開いて対策に本腰を入れ始めた。
医療現場でも抗生物質の適正使用を啓発する動きが広がる。
国立国際医療研究センター(東京都新宿区)の忽那賢志(くつなさとし)医師は昨年、「その抗菌薬、本当に必要ですか?」と医師や患者に呼び掛けるポスターを制作。
センター国際感染症対策室のウェブサイトで公開しており、有志の医師らによる情報提供も続けている。
忽那医師は「抗生物質の使用量抑制は、社会全体で取り組むべき課題」と話す。