発信箱
和解について=佐藤千矢子
毎日新聞2016年12月16日 東京朝刊
安倍晋三首相がオバマ米大統領とともに、今月下旬、日米開戦の地であるハワイの真珠湾を訪れることについて、メディアの報道ぶりに少し違和感を覚えた。
違和感の正体は、二つある。
一つは、トランプ政権の誕生をにらんだ同盟強化という政治的思惑が強いのに、話が美化されたように感じたこと。
もう一つは、日米の和解に区切りがつき、これからは未来志向だという整理の仕方が、短絡的に感じられたことだ。
丁寧な報道もあったが、自戒を込めていえば、全体にそういう印象を持った。
日米の和解とは何かと考えざるを得ない。
5月のオバマ氏の広島訪問の際、被爆者らは原爆投下の謝罪を求めなかった。
訪問を実現し、核廃絶を前進させるための決断だったが、今でもその判断は正しかったのかと議論がある。
オバマ氏の演説に初めは感動したが、後で冷静に振り返ったら、がっかりしたという被爆者もいた。
人の気持ちは複雑で、まっすぐには進まない。
行ったり来たりもする。
真珠湾攻撃の被害者にもいろいろな思いがあるだろう。
和解が究極的に心の問題だとすれば、この先も果てしない努力の積み重ねが必要に思える。
日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)の事務局長をつとめる田中熙巳(てるみ)さん(84)に、こうした疑問をぶつけると、次のような答えが返ってきた。
「和解とは、被害者と加害者が憎しみを乗り越えて、対等の立場になることではないか。
国の代表同士が和解するというのは、よくわからない。
原爆の被害については、和解はない」
和解の価値を発信したいという安倍首相は、真珠湾で何を語るだろうか。(論説委員)
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