国民見くびるな 野党も責任重大
6/16(金) 11:11神奈川新聞「社説」配信
安倍首相はなぜこれほどまでして「共謀罪」法の成立を急いだのか。
近ごろはしばしば、役人の保身のための手だてとかいう疑惑絡みの用いられ方をして口にするのもシャクな言葉だが、忖度(そんたく)してみたい。
国会を早く閉じ、腹心の友や、かつて考え方に共鳴するところのあった方が関わった、日増しに不可解さが募る、あるいは事の本質が置き去りの疑惑に幕を引きたい。
そうすることで、告示日の迫った都議選への自民党への悪影響を、総裁として最小限に食い止めたい。
その前に、野党と鋭く対立している「共謀罪」法の会期内成立は必須である。
そんなところだろうか。
政治に思惑が先行し、ガタのきているのが否めない。
英国の哲学者ベーコンが言っている。
〈物事が実行に移されたら最後、迅速に匹敵する秘密保持はない〉
「共謀罪」法を巡る国民の懸念や不安にきちんと答えずに審議を切り上げた姿勢は、「秘密」を積み残したとされても差し支えあるまい。
疑惑に正面から答えようとしなかった態度は言わずもがなである。
犯罪者でもない身に「共謀罪」法など関わりあるはずがない。
果たしてそう言い切れるか。
言論統制時代の悪法「治安維持法」も拡大解釈が重ねられることで犠牲者が広がった。
学ぶべき歴史の教えはすぐ傍らにある。
世間の憤怒や非難は一時的なもので、時がたてば分かってくれる。
いや、忘れてもらえる。
首相の物言いはそんな考え方に根差しているのではと思わせることが間々ある。
しかし、これって国民を見くびっていないか。
今の国会の勢力は国政選挙によってもたらされたものだ。
過去の強行採決も支持率にさほど影響はなかった。
だから、と首相が受け止めていないとも限らない。
もっと怒るべきだ。
そも国民の代表である国会も、衆参共に与党が多数を制しているとはいえ、首相のほとんど言うがままである。
行政府の行き過ぎを正す責務を果たしているとは言い難い。
「1強」も一皮むけば「他にいい人がいない」というのが国民の本音だ。
野党はとりわけ責任重大である。
東京五輪・パラリンピックの成功と「共謀罪」法の必要性が結び付けられたのは不可解だった。
しかし、開催の年の改正憲法施行を目標に置く首相の思考回路は分かりやすい。
民主主義は本来、熟議を伴う迂遠(うえん)なものだ。
催事に合わせるスタンプラリーにも似た政治手法に惑わされまい。
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