牧太郎の大きな声では言えないが…
壮大な楽観主義?
毎日新聞2017年10月31日 東京夕刊
たまに、ごちそうになる。
「この店はグルメ本の常連だ。気に入ったか?」と招待主が聞く。
たまにだが、ちゅうちょする。
まずいのだ。口に合わないのだ。
親しい間柄なら「味が、ちょっと」と言うのだが……
“お偉方”だったりすると「ありがとうございます。実においしかった」と答えてしまう。
ああ、俺って、うそつきだ!
聞く方も社交辞令。答える方も社交辞令。
このくらいのうそは許されるとは思うが、考えてみれば、この店にとって「まずい!」と正直に言う客がいた方が良い。
グルメ本で褒められただけで、努力しない。
これは「壮大な楽観主義」ではないか?
8月にこのコラムで「“東京五輪病”を返上!」と書いたのは、同じような気分だった。
日本人の多くがうすうす「東京五輪はまずい!」と気が付いているのにうそをついている。 「迷惑だ!」と思っているのに「お国のため」と我慢している。
例えば、日本最大の見本市会場「東京ビッグサイト」。
約20カ月間、東京五輪の放送施設になる。
一般社団法人「日本展示会協会」の試算によると、その結果、232本相当の見本市が中止になる。
右半身まひの僕は、毎年、新しい介護用品を求めて、見本市に行く。
が、これも中止になるかもしれない。
介護用品を作る企業の広告宣伝費はほとんどゼロだ。
見本市が「頼り」なのに、それができなくなる。
ビッグサイトを利用する企業は約7万8000社。
そのほとんどが中小企業。
見本市が無くなると、約2兆円の売り上げが失われるという。
東京都は「仮設館」を造るというが、それでも、今までの54%程度しか展示できない。
海外の企業は、この間に中国、韓国、香港、シンガポールにシフトするだろう。
東京五輪は「有名だが、味が最悪のレストラン」のような存在。
「壮大な楽観主義」に支配されている。
五輪の開催コストを冷静に計算しよう。
そうすれば「誰か」が五輪でもうけているのか?
誰が迷惑しているか?がよく分かる。
たまにだが、聡明(そうめい)な指導者が「壮大な楽観主義」で手痛い傷を負うことがある。衆院選もそうだ!とは言わないが、東京五輪も空気のような「淡い期待」で成功するような代物ではない!
(客員編集委員)