風知草
謙虚な季節=山田孝男
毎日新聞2017年11月6日 東京朝刊
第4次安倍内閣の合言葉は「謙虚」である。
衆院選圧勝の夜、テレビに登場した首相は「今後も謙虚に、誠実に」と繰り返した。
明くる日も、組閣後も、記者会見で「謙虚」な施政を約束。
各閣僚も「謙虚」を誓い合った。
いつまで持つか興味深いが、攻める側の、野党の課題はさらに重い。
◇
国会には、
(1)通常国会(毎年1月中に召集、150日間)
(2)臨時国会(随時)
(3)特別国会(衆院選後) の3種類がある。
特別国会は体制一新に伴う議長選出や首相の指名が主目的。
開会中の今国会がこれにあたる。
今国会に先立ち、与党は会期8日間を提案した。
野党が「短い」と反発。
綱引きの結果、12月9日まで39日間と決まった。
政府が折れた理由の一端は、再選された大島理森(ただもり)衆院議長(71)の意向にあるという評判だ。
大島に確かめると、こう答えた。
「これは、ふつうの特別国会じゃない。
野党は(6月以来)臨時国会を求めてきた。
政府は開くには開いたものの、冒頭解散(9月28日)。
このまま何も(審議)せず、年を越すのはどうか。
民主主義は議論による統治ですから」
当選12回。自民党国対委員長の通算在任期間が歴代最長1430日。
与野党に顔が広い、大島らしいバランス感覚だろう。
衆院議長は新議員の投票で決まる。
過半数を握る最大政党の代表が座る。
事実上、自民党総裁=首相の指名。
選挙ごとの交代が通例である。
選挙をまたいでの再選は2005年9月、小泉政権時代の河野洋平以来12年ぶりという。
大島は第2次海部内閣の官房副長官として現天皇陛下の即位の礼・大嘗祭(だいじょうさい)を経験。
今年は各党協議を主導し、天皇退位へ向けた特例法を成立させた。
大島議長続投は、皇位継承を見据えた首相の決断に違いない。
◇
会期39日間とはいえ、首相は米大統領を迎え、10日からはアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議でベトナムへ。
つまるところ、首相所信表明演説と実質審議は17日から。
この間、10日に文部科学省の審議会が加計(かけ)学園獣医学部の設置を認可する見通しだ。20日から両院代表質問。
27日から3日間開く両院予算委での疑惑追及が山場らしい。
なるほど、「森友」「加計」問題は疑問だらけである。
官僚のゴマスリ、首相の開き直りと過剰抗弁、首相夫人の軽率、合理的説明の欠如−−。
しかし、では政権交代かと言えば、その選択肢がなかった。
それが衆院選に表れた民意だろう。
野党−−特に分裂した民進党、立憲民主党、希望の党の前途は険しい。
「向こう1年は内紛でしょう。
民進党の百数十億円の政党資金分配が焦点。
19年夏の参院選候補者を決めるころ、ようやく新しい形が見えるのでは?」と練達の議会関係者。
それでも与野党攻防は続く。
今国会の予算委の運営をめぐり、与党が質問時間配分の見直しを求めた。
野党8割、与党2割という慣行を改め、与党にもっと時間を−−と。
野党は反発したが、疑惑追及の決め手はあくまで材料である。
国民は衆院選を通じ「見せる政治」の不毛を確かめた。
問題は見かけの「謙虚さ」「強さ」ではない。
攻守とも論戦の質が問われている。