余録
「生きるとは
何かを失っていくこと…
毎日新聞2018年2月15日
「生きるとは何かを失っていくこと。失いながら大事なものを感じられるようになること」。そんなテーマで障害者や子育て中の母親、福祉職員らさまざまな立場の人が語り合う「縁側フォーラム」というイベントが先月、静岡市で開かれた

▲真下貴久(ましも・たかひさ)さん(37)は3年前に筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症した。
「人生は無限だと思っていたが、今はどうやって生き切ろうかと考え、生きている実感を強く求めるようになりました」
▲少しずつ随意筋が動かなくなり、3〜5年で自力呼吸ができなくなる難病だ。
人工呼吸器をつけて生きるか、死を選ぶかを自分で決めなければならない。
家族の介護負担も大きい
▲絶望から真下さんを救ったのは、先輩の患者のブログだった。
人工呼吸器をつけて海外旅行をし、友人やボランティアに囲まれて日々を楽しんでいる。
「なあ、こうやって生きれば楽しいよなあ」。
悲しみに沈んでいた妻は初めて心の底から泣いた
▲日本人の平均寿命は2016年に女性87・14歳、男性80・98歳となり、過去最高を記録した。
男女とも世界2位だ。
長い人生の中で誰もが少しずつ何かを失っていく。生きることの意味や希望を実感できないという人も多い
▲だが、人生には限りがあるという現実に直面して真下夫妻の日常は変わった。
「おれはプラチナチケットを手に入れた。普通に生きていたら体験できないことをさせてやる」。
2度目のプロポーズだった。「初めのより100万倍もすてきでした」と妻は笑う。