松尾貴史のちょっと違和感
小学生にアルマーニ
自己確立なら、いっそ制服廃止を
2018年2月18日 毎日新聞

東京の新宿区立江戸川小学校で、図工の授業で忘れ物について児童たちへの詰問が授業時間が終わっても続き、給食を食べさせなかったことが問題になった。
罰としてそうしたのか、ただ教諭の時間配分が拙かったのかはわからないけれど、問題はそれだけではない。
何と、教師はその事実を親に報告しないようくぎを刺していたのだという。
「親に言うな」という指示が、どれだけ子供たちの大人に対する信頼を傷つけただろう。
親や学校は何かがあればすぐに相談する対象として指導するのが当たり前ではないか。
口止めをするということ自体がやましさの証左だが、子供たちは家に帰ってもその恐怖で親に言えなかった。
一部の児童が帰宅後、「おなかが空いたから何かを食べていいか」と聞いてきたことから親が不審に思い、事実が発覚したのだという。
「先生から言うなと言われていたので、自分が言ったことは先生に言わないで」と懇願したという。
何度か保護者と学校の話し合いが持たれたようだが、図工の担当教諭は「生徒たちが忘れ物をした理由を言わなかったせいだ」と述べている。
「忘れ物」は忘れた物であって、理由があるとすれば「忘れたから」以外にない。
いったい何が知りたかったのか。
そんな無意味な詰問をするために、給食を食べさせてもらえないなどということがあっていいはずがない。
たまたま「おなかが空いた」と正直に訴える子供がいたから発覚したが、これが氷山の一角でないことを願う。
同じく東京の中央区立泰明小学校(和田利次校長)は、8万円も9万円もかかる児童の制服の導入を発表した。
越境通学などの特別扱いが許されている学校とはいえ、相当な違和感を覚える。
「銀座らしさ」を重視しているのだという。
銀座はそもそもそういう街なのか。
地価が高騰し、高級ブランドの店が多く集まっているということが、子供たちにとってどれほどの価値があることなのか。
なぜイタリアの高級ブランドなのか。
イタリアでもフランスでもよかったのだろう、複数のブランドに呼びかけ、それに応えてくれたのがたまたまアルマーニだったのだともいう。
デザインのコンセプトやブランドの成り立ちに銀座と泰明小学校に通じるものがあるというわけでなく、応じてくれたのがそこだけだったのだという。
今回のへんてこな発想の理由について、校長のコメントに「服育」「ビジュアルアイデンティティー」という不可思議な文言が使われている。
体育、徳育、知育、食育という言葉は聞いたことがあるが、私が疎いのか、服育などという言葉は見たことも聞いたこともなかった。
誰が発明したのかは知らないが、服育、アイデンティティーと言うなら、それこそ自己の確立のために制服など廃止すればいいのではないか。
そろえるのに8万円だかがかかるというが、汚れて洗濯する間合いを保つためには「一式」だけでは済まないだろうし、成長期、毎年ぐんぐん大きくなる体格に合わせるため、さらなる出費が待っている。
通っているほとんどの子の家庭は払えるだろうという読みだそうだが、ピントがずれすぎている。
家計的に難しい家の子供に対するいじめやレッテル貼りの原因を作ることにもなるのは想像に難くない。
一体何がしたいのか。
この校長は、オカルトといってもいい「水からの伝言」や捏造(ねつぞう)された作法「江戸しぐさ」などの信奉者でもあると指摘されている。
自身が何を信奉しようと自由だが、併設する区立泰明幼稚園(園長を兼任)の保護者便りなどで推奨する文章を発表しているのは、いささか深刻に感じる。(放送タレント)