「美女応援団」を霞む存在にした
日本の女性選手たち
2018/02/27 JBpress (筆坂 秀世)
苦笑と同情しかない北朝鮮「美女応援団」
平昌五輪が多くの感動をもたらして閉会した。
開会当初は、北朝鮮の金正恩の妹、金与正の動向や「美女応援団」、三池淵(サムジヨン)管弦楽団のパフォーマンスにマスコミが注目し、日本のテレビ局なども、まるで平昌五輪のメインが金与正や「美女応援団」の動向であるかのような報道を繰り広げていて、苦々しい思いで見ていた。
北朝鮮の“微笑み外交”こそ「今回の五輪の金メダルだ」などという批評も目にした。
本当にそうだろうか。
競技の進行をまったく無視した応援風景は、競技の邪魔にはなっても盛り上げることにはつながらなかった。
その一糸乱れぬ応援スタイルは、北朝鮮が自由や民主主義とは無縁の体制であることを印象づけただけである。
また、垢抜けない応援の仕方には、苦笑、嘲笑、同情はあったとしても、憧れるようなものは何もなかった。
競技が佳境に入るや否や、美女応援団の動向など関心の埒外のものとなった。
当然のことである。
オリンピックの真髄はちんけな応援風景などではなく、血の滲む鍛錬と練習に励み、努力と研鑽を積んできた選手の美しい肉体による、懸命の戦いにこそあるからだ。
冬季五輪で過去最高のメダルを獲得
日本は、金4個、銀5個、銅4個の合計13個のメダルを獲得した。
冬季オリンピックでは過去最高である。
男子では、モーグルで原大智選手が銅メダル、スノボードのハーフパイプで平野歩夢選手がソチに続いて銀メダル、ノルディック複合の個人ノーマルヒルで渡部暁斗選手が銀メダル、フィギアスケートでは羽生結弦選手が二大会連続の金メダル、宇野昌磨選手が銀メダルを獲得した。
採点競技のスノーボードハーフパイプは、率直に言って平野選手が金メダルでもおかしくはなかった。
この競技は、まだまだ歴史が浅く確たる採点基準が確立されていないという。
解説者の話を聞いていても、「かっこいいですね」「渋いですね」「おしゃれですね」などという表現が多用されていた。
これらの表現が、どう採点に結びつくのかよく分からない。
渡部選手は、オリンピック直前の長野県での練習中、転倒して肋骨を骨折していたそうだ。
それでも頑張って2大会連続の銀メダルを獲得した。
羽生選手の2大会連続の金メダルは、66年ぶりという快挙であった。
年寄りはよく“今時の若い奴は”などとうそぶくことがある。
私も今月28日で満70歳になるので、文句なしの高齢者だ。
だが若者のこうした活躍ぶりを見ていると、とても“今時の”などとは言えない。
ただただ感服するのみである。
際立っていた
女子スピードスケートの活躍ぶり
今回のオリンピックで強く印象に残ったのは、女子選手の活躍だった。
なかでもスピードスケートの活躍は際だっていた。
しかも、それぞれの選手に個性が立っていて、面白かった。
小平奈緒選手は、ずっと短距離のエースとして日本のスピードスケートを牽引してきた。2010年のバンクーバー五輪では、パシュートで銀メダルは取っていたが、得意とする500メートル、1000メートルの個人種目では、もう一歩のところでメダルに届かなかった。
そのため、ソチ五輪のあと単身でオランダ留学をして、フォームや練習方法を変えていったという。
すでに27歳になっていた小平選手にとって、言葉もできないオランダに留学するというのは、相当な覚悟がいることだったはずだ。
オランダ語を習得するだけでも並大抵の努力でできることではない。
小平選手はそれをやってのけ、ワールドカップ500メートルでは15連勝、1000メートルでは、世界記録を打ち立て平昌に臨んだ。
プレッシャーがのしかかるなかで、見事に1000メートルで銀、500メートルでは五輪新で金メダルを獲得した。
スピードスケートで日本の女子選手史上初である。
500メートルの競技終了直後に、韓国の李相花選手との抱擁シーンは韓国の国民にも感動的に受け止められた。
小平選手はオランダのマスコミの取材に流暢なオランダ語で応じていた。
李選手には韓国語で話しかけたという。
まさしくバイリンガルである。
ジャンプの高梨沙羅選手や渡部暁斗選手も、英語のインタビューにも英語で堂々と応じている。こういう時代になったのだと痛感し、やはり日本の若者に感心もする。
圧巻だったパシュートとマススタート
団体競技のパシュートとマススタートは、見ていて実に面白い競技だった。
素人の私だが、テレビで真剣に見ていてあることに気が付いた。
テレビの解説者などによると、パシュートの日本チームの特徴は、「ワンライン」だという。キャスターやコメンテーターが日本チームの映像を見ながら、「ほら一直線(ワンライン)でしょう」などとしたり顔で説明していた。
だが、他のチームを見ていると、多少の巧拙はあったとしてもどこも「ワンライン」なのである。
風圧を避けるためには、こんなことはイロハのイなのだ。
「喝」とか「あっぱれ!」が売りのある番組では、しょっちゅう頓珍漢なことを言う元プロ野球選手が、「パシュートは日本人に向いているんですよ。自己犠牲の精神がありますから」とまたまた頓珍漢なことを言っていた。
だったら、男子チームはなぜメダルが取れなかったのか。
まったく解説になっていない。
「ワンライン」だけではなく、3人の選手間の距離が極端に短いのが日本チームの最大の特徴なのだ。
日本チームは、少し手を伸ばせば前の選手の腰や尻に手が届く距離で滑っている。
決勝を争ったオランダは、個々には日本選手を上回る力を持っていた。
「ワンライン」で滑ってもいた。
だが選手間の距離が日本に比べて長かった。
この距離の長さによって、オランダチームは日本より強い風圧を受けてしまっていた。
準決勝でスタート直後に、高木菜那選手が妹の美保選手に、「待って、待って」と声をかけ、美保選手が一瞬棒立ちになるシーンがあった。
これは奈菜選手のファインプレーだった。
佐藤綾乃選手がスタートに失敗し、選手間の距離が空いてしまっていたのを修正するためだったのだ。
この一件でも分かるのだが、菜那選手は大変な勝負師だと思う。
マススタートでも1回戦では、最初に仕掛けて得点5を確保し、後は流して楽々と1回戦を突破した。
決勝戦では、力のあるオランダ選手の後に最後の最後までピッタリ付き、残りわずかなところで勝負を賭け逃げ切った。
見ていてこれほど興奮するレースはなかった。
妹の美保選手は、一大会で金、銀、銅を確保、姉は金2個、これこそあっぱれという他ない。
笑顔を絶やさず銅メダル
北海道北見市・常呂町を拠点として活動する女子カーリングチームLS(ロコ・ソラーレ)北見も見事であった。
「そだねー」や「もぐもぐタイム」など流行語大賞に選ばれそうな言葉が人気をさらに盛り上げた。
このチームの最大の特徴は、やはり笑顔だろう。
どんなピンチになっても、真剣に作戦を練っているのだが、最後は笑顔がはじけていた。
負けた時には、涙もあるが笑顔もあった。
日本チームがイギリスに勝利した瞬間、韓国国旗を振って祝福する若者がテレビに映っていた。笑顔はやはり人を惹きつけるのだ。
女子フィギアの宮原知子選手、坂本花織選手も大健闘だった。
宮原選手は自己最高得点をマークし、坂本選手もフリーでミスが1回あっただけである。
女性にもっと活躍の場を
日本の女子選手は、世界トップクラスの実力とポテンシャルを持っている。
オリンピックには、そうした選手たちが活躍できる舞台が用意されていた。
活躍できる場所があれば、日本の女性は思う存分活躍する力を持っているということだ。
3年前、女性活躍推進法が制定されたが、賃金での男女間格差、昇格での男女間格差はまだまだ大きい。
政治の世界でも女性議員の比率は、世界のなかでも最も低いのが日本である。
今回のオリンピックを機に、女性の活躍できる場所がさらにさらに拡大していくことを切望する。