熱血!与良政談
朝日に敬意を表する=与良正男
毎日新聞2018年3月14日
森友学園問題で、財務省の決裁文書改ざん疑惑をスクープした朝日新聞は見事だった。
闇に埋もれそうになっていた事実を発掘するのは私たちの大切な仕事だ。
ライバルに心から敬意を表する。
1カ月前、旧知の朝日幹部に「朝日のためというより、日本のジャーナリズムのために萎縮しないでほしい」と声をかけたのを思い出す。
安倍晋三首相は今の国会で再三朝日を名指しし、従来の報道の一部を取り上げて誤報だと批判。
自民党議員のフェイスブックには、朝日は「哀れ」と自ら書き込んだ。
首相が長年、朝日を敵対視してきたのは知っている。
しかし、ここまで来ると異様な報道圧力だ。
そしてそんな首相を後押しし、産経新聞や一部雑誌は競い合うように激しい見出しで朝日たたきを続ける。
それが日常になっていることにジャーナリズム全体の危機を感じてきたのだ。
そんな中でのスクープだ。
仮に誤報なら朝日はつぶれてしまうのではないかと思ったほどだ。
取材はより慎重さを要したに違いない。
報道後、朝日が改ざん前の原本の写真を掲載しなかったのを理由に、自民党議員やコメンテーターらの中で、報道の信ぴょう性に疑義を呈し、「立証責任は朝日にある」と語る人が相次いだのにも驚いた。
報道の仕事を分かっていない。
証拠をより具体的に示せば情報源が特定されてしまう恐れがある。
ネタ元を守るのは私たちの鉄則だ。
情報源が分かれば政権側はそこに圧力をかけ、さらにウソを重ねて、ごまかすかもしれないではないか。
毎日新聞の私の後輩記者たちは、情報公開請求で入手した別の文書にも「特例処理」等々の疑惑のキーワードが記されていると、その後報じた。
まさか改ざんし忘れ?
だが、いずれにしても朝日報道を疑問視する流れを元に戻したのは確かだろう。
先週書いた通り、文書の改ざんは民主政治の根っこを腐らせる。
それだけでも麻生太郎副総理兼財務相や安倍首相の責任は重大だ。
で、なぜ値引きされたのかの原点に返る。
首相や妻昭恵氏の名前が原本から消えたのはなぜか。
そもそも値引きは誰の判断だったのか。
今後も事実を積み重ねて追及していきたい。
(専門編集委員)