2018年04月13日

自衛隊が尖閣防衛には不適任な水陸機動団や空母を持ちたがる理由

自衛隊が尖閣防衛には
  不適任な水陸機動団や
     空母を持ちたがる理由
2018.4.12 ダイヤモンドオンライン(田岡俊次)

4月7日、島嶼防衛部隊「水陸機動団」(2100人、将来3000人)の発足を祝う「隊旗授与式」が佐世保市の陸上自衛隊相浦駐屯地で行われ、式典後にはヘリコプター、水陸両用車を使って、敵が占拠したという想定で島への上陸作戦の展示訓練も行われた。

 その映像をテレビで見ていると、第2次世界大戦での硫黄島、沖縄、アッツ島やグアム、サイパンなど、10以上の島々での守備隊の悲惨な「玉砕」を思い起こし、暗い気持ちにならざるを得なかった。

 島の争奪と防衛に決定的な要素は制空権と制海権(空と海での優勢)を確保することであり、それが失われると、孤立し、補給も来援も途絶した島嶼防衛部隊は全滅が必至だ。

「水陸機動団」が創設されたが
    重要なのは制空、制海権
 こちらが島の周辺海域で制海、制空権を握っていれば、相手が島に上陸作戦を行おうとしても、海上で敵の輸送艦は撃沈され、輸送機も撃墜されるから相手にとっては自殺行為だ。
 仮にこちらの隙を突いて上陸に成功しても、補給さえ断てば敵は遅かれ早かれ降伏するか玉砕するしかない。

尖閣諸島など南西諸島の防衛を考える際の要点は一にも二にも制空権で、それに制海権も付随する。
 だが航空自衛隊が東シナ海で優勢を確保できる公算は低い。
中国軍にとっては、北方でのソ連の脅威が去った今日、東シナ海は台湾との軍事衝突を想定した場合の最重要の「台湾正面」であり、その正面を担当する東部戦区には新鋭機が優先的に配備されている。

 東部戦区の中国空軍は10個戦闘機部隊(旅団あるいは連隊)で戦闘機約240機を持つと推定される。
 うち旧式の戦闘機である「J7」と「J8」で構成されるのは3個隊だけで、他の7個隊(約170機)はロシア製の「Su30」や国産の「J10」など、米国のF15、F16に一応、匹敵する「第4世代戦闘機」を持つと考えられる。
また海軍東海艦隊の航空隊は新鋭戦闘機2個連隊(40機余)を持つと見られる。

 これに対する台湾空軍は戦闘機400機余を持ち、うち「第4世代戦闘機」は190機だ。
 当面の航空戦力はほぼ拮抗か、台湾優位と思えるが、中国は全土に戦闘機1300機余、うち第4世代戦闘機710機余を持つから、有事の際には他地域の部隊も台湾正面に移動展開が可能だ。  

一方で、航空自衛隊は那覇にF15戦闘機約40機を配備しているほか、福岡県築城にF2戦闘機約40機、宮崎県新田原にF15約20機がいる。
このうち40機を防空に残せば、尖閣上空には20機を出動させることができる。
 だが九州の基地から尖閣諸島へは約1000kmだから行動半径ぎりぎりで、上空で待機、哨戒するには空中給油が必要だ。
中国沿岸からは約400kmだから、中国空軍にとってはるかに有利な場所だ。

 中国空軍のパイロットの年間飛行訓練は、かつては70〜80時間程で、練度は低かった。
だが一時は4500機もあった戦闘機は、単価の高騰のため1300機程に減り、財政全体にも余裕が生まれて、今日では訓練飛行は年間約150時間とされ、日本と同等だ。

 日本側が尖閣上空に出せる戦闘機は那覇の40機と九州から20機の計60機、中国は海軍航空隊を含め、200機程の第4世代戦闘機を出せるから、数的には日本は3対1の劣勢となる。
 大型レーダーを積み、敵機を遠距離で発見する「空中早期警戒機」の性能の差や、電波妨害などの「電子戦」能力では日本が当面優位と思われるが、それで3対1の劣勢を補えるかどうかは大いに疑問だ。

どちらに転んでも
「尖閣防衛」には役立たない
 もし制空権と、それに伴う制海権を十分に確保できないまま水陸機動団による島の奪回作戦が発動されれば、輸送艦は中国の空対艦ミサイルの標的となり、「オスプレイ」やヘリコプターは簡単に撃墜される危険が大きい。
 仮に上陸、制圧に成功しても、補給が続かなければ、第2次世界大戦時と同様、兵は餓死の渕に立たされる。

 制空権、制海権が確保されるまで「水陸機動団」を出動させなければよいが、島を占拠されたとなれば、「水陸機動団は何をしているのか」との批判が出て、政治家やメディアもそれに乗る可能性がある。
こうした声に押されて水陸機動団が危険を冒して出勤し、海上で全滅の事態も起こりかねない。  

真珠湾攻撃の前、陸軍は「海軍の方から対米戦争に勝ち目はない、と言ってもらえまいか」と内閣書記官長(今の官房長官)を通じて事前に働きかけた。
だが、海軍は「長年、対米戦準備のためとして予算をいただいて来たのに、今さらそんなことは言えません」と断り、日本は勝算のない戦争に突入した。
 こうしたことは日本だけではない。どの国の軍も巨大な官僚機構で、組織の防衛と面目の維持を第一としがちだから、そのために部隊を犠牲にすることが起こる。

 その最も顕著な例は、第1次世界大戦末期のドイツ海軍だ。
 敗色濃い中、巨費を投じた「大海艦隊」は出動すれば英海軍に撃滅されるのは必定だったから、港内に引きこもっていた。
 だが、海軍首脳部はあえて出動を命じ最期を飾ろうとした。
無駄死にをさせる出動命令に水兵たちは反乱を起こし、これが全国に波及して革命となり、ドイツ皇帝はオランダに亡命した。

 制空、制海権が十分に確保されない場合、「水陸機動団」が出動しなくても、メディアや政治家はそれを「臆病」と非難しないよう、気を付けねばならない。
 一方制空、制海権が確立していれば、まず相手は攻めて来ないし、仮に上陸しても、補給が切れて立ち枯れになるのを待てばよい。
この場合にも「水陸機動団」の出動を急がせるのは、無駄に死傷者を出すだけで愚策だ。
 どちらに転んでも「水陸両用団」の創設は無駄と考える。

予算獲得の思惑
ヘリ空母改修も「便乗」
 そもそもどうして「水陸機動団」が作られることになったのか。
 陸上自衛隊が「南西諸島防衛」を主張し始めたのは、ソ連の崩壊後だ。
 それまではもっぱらソ連軍の北海道侵攻への対処を主眼としていたが、その可能性が消えたため、大幅削減の“危機”に直面した陸上自衛隊は次の存在目的を南西諸島に求めた。

 当初、海上、航空自衛隊では「陸上自衛隊は苦しまぎれにそんなことを言い出した」と冷笑し、「対艦ミサイル・ハープーン搭載の潜水艦を1隻出しておけば十分ですよ」とか、「航空優勢さえ確保すれば相手は来られませんよ」との声を当時、よく聞いた。

 だが、「南西諸島防衛に必要」と言えば、海上、航空自衛隊も予算が取れる、と分かってそれに便乗し始めた。

ヘリコプター空母「いずも(満載時2万6000トン)を、来年度に始まる次期中期防衛力整備計画で改修し、垂直離発着が可能なF35Bステルス戦闘機を搭載、対空、対艦船、対地攻撃能力を持つ空母にすることも真剣に検討されているが、これも便乗の一例だろう。

 海上自衛隊は私が防衛庁担当になった1960年代から、空母を持つことを悲願としてきた。  

当初は「水上艦の速力を上回る30ノット以上の速力で潜航するソ連の原子力潜水艦を追うには、ヘリコプターが必要」との論で、それには合理性があると私も同意していた。
 だがその後、大型護衛艦が各3機の対潜水艦用ヘリを搭載、中型護衛艦もヘリ1機(別に予備1機)を積むようになったから、潜水艦対策にヘリ空母を持つ必要はなくなった。

 だが海上自衛隊はヘリ空母をあきらめず、ソ連が1991年に崩壊し、その400隻近い巨大な潜水艦隊が今日の62隻(うち旧式30隻余)にまで減少する時期になって、ヘリ空母「ひゅうが」(満載時1万8000トン)と「いせ」(同型)を2009年と11年に就役させた。
さらに「いずも」(同2万6000トン)と「かが」(同型)が2015年と17年に就役した。

 特に「いずも」「かが」は計画当初からヘリ空母ではなく、普通の空母への転用を目的として造られたことは、航空機を格納甲板から、飛行甲板に上げるエレベーターの配置などから明白だった。
 飛行甲板の塗装をジェット噴気に耐える耐熱塗装とし、その先端を少し上に反らした「スキージャンプ」に改装し、垂直離着陸機が短距離を滑走して発艦できるようにし兵装の搭載力を増すようにすれば、対空、対艦、対地攻撃力を持つ小型空母になる。

 現状での搭載機数は、中型、大型のヘリ計14機だが、2万6000トンという大型艦だから、改装により搭載機をさらに増やすことも可能と考えられる。
 仮に20機を搭載するとすれば、F35Bを14機、遠距離の敵機を探知するための早期警戒機を4機、発着艦の失敗で海に落ちた機のパイロットを救うための救難ヘリが2機、となるだろう。  

米空母は、早期警戒機として皿型のレーダーアンテナを付けた双発ターボプロップのE2Dを4機積むが、これはカタパルト(発進加速装置)がないと発艦できない。
だから「いずも」級では、垂直離着陸ができるV22(オスプレイ)の胴体上部に「平均台」と呼ばれる細長いレーダーアンテナを付けることになるかもしれない。

 だが、F35Bが14機程度では戦闘能力は限られる。
米空母は平時には約60機を搭載、うち44機が戦闘・攻撃機だ。
尖閣諸島周辺では中国の第4世代戦闘機約200機が活動可能で、日本の空母から14機が戦列に加わっても大勢は変わらない。
 同型の「かが」を改装して参加すれば計28機になるが、軍艦は1年のうち3ヵ月はドックに入って定期点検、修理をするし、それが終わって再訓練をした後に配備につくから、米海軍では空母1隻を運用するには3隻が必要とされている。

空母保有は「国家的虚栄心」
    対中では潜水艦のほうが有効
 米国以外に空母を持つ国としては、中国が「遼寧」のほか1隻を建造中だ。
インドも1隻と他に1隻建造中、イギリスは2隻建造中、フランス、ロシア、イタリア、タイが各1隻を保有する。
 だが1隻ではそれがドック入り中に何か起きると空母は役立たない。
不測の事態に備える防衛用ではなく、こちらの都合の良いときに弱い相手に対する攻撃や威嚇に使えるだけだ。

 米国のように10万トン級の原子力空母を11隻も持てば、常時3、4隻が出動可能で、搭載する戦闘・攻撃機は3隻で130機以上だから、有力な戦力となる。
 だが1、2隻の空母を保有する国々は軍事力を誇示して威信を高めたい面があり、国家的虚栄心の表れでもある。

 F35Bステルス戦闘機を10機余積んだ「いずも」「かが」でも、「遼寧」が搭載する「J15」(燃料、兵装を満載すれば空母から発進できない)約20機に対抗できるかもしれない。  

だが、実は中国海軍に対抗するには空母の必要はない。
潜水艦で十分なのだ。

 中国海軍は敵の潜水艦を探知する対潜能力が極めて低く、一方で保有する原子力潜水艦の発する音は大きい。
静粛性が高い日本の潜水艦で容易に処理できる。
 海中では音波は必ずしも直進せず、水温、水深などにより上下に曲がるし、潮流や他の船舶の機関音などの雑音の多い中から、敵の潜水艦の出す音だけを拾うには高度の「水中音響学」の蓄積が重要だ。
 旧ソ連の潜水艦を主敵と見てきた米海軍と海上自衛隊はその探知の経験を積み、装備を開発してきたから、対潜水艦能力では中国と大差がある。
 小型の空母よりはるかに建造費用は安く、人員も少ない潜水艦に力を入れる方が合理的だろう。

 日本が小型空母2隻「いずも」「かが」を持てば、イギリスが建造中の「クィーン・エリザベス」級(6万5000トン)2隻にははるかに及ばなくても、「海軍国」としての外見を備えることにはなるだろう。
 だがそれが実際に活動するのは、おそらく米海軍の空母戦隊が中東などに出勤する際、その助手として付いて行く程度になるのではないか、と思われる。
(軍事ジャーナリスト 田岡俊次)
posted by 小だぬき at 00:00| 神奈川 ☁| Comment(2) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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