小中学校で増える「常勤講師」
士気低下が蔓延する背景とは
2018.04.22 NEWSポストセブン
新学期がスタートして間もなく1か月。
公立の小中学校では社会人になりたての新米教師や、他校から異動してきた初顔合わせの教師が受け持つクラスで勉強している子どもたちも多いだろう。
そして、近年増えているのが、教員免許を持ち、担任や部活動の顧問をするなど正規職員とまったく同じ仕事をしながらも、身分は臨時に採用された非正規の「常勤講師」の存在だ。
臨時教師といえば、かつては産休など長期休暇をとる教員の“穴埋め”的なイメージが強かったが、現在は1学年のうち複数のクラス担任が“フルタイム”で働く常勤講師というケースも珍しくない。
文部科学省の調べ(2017年5月時点)では、全国の公立小中学校にいる常勤講師の数は4万2792人。
教員定数に占める常勤講師の割合は平均で7.4%だが、都道府県によってバラツキがあり、沖縄、三重、長野は10%を超えている。
そもそも、なぜ非正規の教師がここまで増えたのか──。
ひと言でいえば「地方自治体の人件費削減」に拠るところが大きい。
教育ジャーナリストの斎藤剛史氏が解説する。
「公立小中学校の給与など人件費は、以前は国と都道府県が2分の1ずつ負担する仕組みになっており、国が定めた定数内の教員はすべて正規職員とすることが法律で定められていました。
しかし、地方分権改革による都道府県の権限強化のため、2004年から定数上算定された負担金を国が都道府県に交付し、都道府県はそのお金を教員人件費の枠内で自由に使えるようになったのです。
その代わり、国の負担は3分の1に減らされました」
つまり自治体の裁量権が大きくなったことで、正規職員の採用を抑え、その分、給与の安い講師を大量に採用して各校に配置できるようになったというわけだ。
この仕組みは財政難に苦しむ自治体の人件費削減効果のほか、教員不足の解消や学力アップを目的とした少人数クラスの設置など、きめ細かな教育が実現できる策として期待されてきた。
だが、実際の学校現場では、きめ細かな教育とは大きくかけ離れた問題も起きている。
首都圏の公立小学校に低学年の子どもを通わせている40代の母親がいう。
「担任の先生は、もう10年以上も講師を続けているというベテランだったので安心していたのですが、勉強についていけない子どもを平気で放っておいたり、子ども同士のケンカも見て見ぬフリをしたりと、どうやら親身な指導をしていないようなんです。
そうしたクラス内の問題を学年主任など他の先生に相談もしていないようですし……。
どうせ1年だけだからと、いい加減な指導をしているのだとしたら許せません」
この母親がいうように、常勤講師の任期は地方公務員法に基づき、事実上1年となっている。
中には特例的に同じ学校で再任用されるケースもあるが、みな1年以内で一旦契約が終了。
引き続き講師の要請があれば、違う学校に移って新契約を結び、また1年間講師を続けるという繰り返しが一般的だ。
「講師は次年度に再任されるかどうか分からないため、正規職員のようにある程度長いスパンでの指導や取り組みができません。
また、同じ学校での再任用の権限は実質的に配属先の校長や市町村教育委員会などが握っているため、マイナス評価につながるようなことを嫌う傾向があります。
そのため、いじめや不登校などの問題が発生しても、報告したり相談したりすることができず、結果、事態が悪化するケースはよくあります」(前出・斎藤氏)
もちろん、子どもが大好きで熱血指導をモットーに教壇に立ち続ける常勤講師もたくさんいる。
だが、制度上の問題で、どうしてもその場しのぎや場当たり主義が蔓延してしまうのだという。
また、常勤講師のモチベーションが上がらないのは、正規職員との賃金格差の理由も大きい。
「フルタイムの常勤講師の給与は正規職員に準じるのが原則ですが、多くの都道府県が昇給に“上限”を設定しており、正規職員と同じ仕事をしているにもかかわらず、給与水準はボーナスを含めると正規職員よりはるかに低いのが現状です」(斎藤氏)
ある自治体では、正規職員が40代にもなれば給料月額は標準で40万円前後まで上がるが、同じ年代、キャリアでも常勤講師は20数万円という低水準。
しかも、講師の場合は10〜15年勤務しても30万円程度で昇給がストップし、頭打ちになる自治体が多いという。
さらに、前述のように講師は年度末に一度雇用契約を解除され、数日間のブランクを経て新年度に再び任用されるケースが多いため、退職金支給の対象とならないばかりか、勤続年数もカウントされないので賞与も“寸志”。
生活が苦しく、アルバイトをしたり、中には生活保護を受給している講師の実態もこれまで報告されている。
「国は非正規雇用の環境改善や同一労働同一賃金などを掲げていますが、それは民間企業だけでなく公務員でも同じこと。
非正規公務員はブラックのかたまりともいえます。
特に教員は、資質の向上を求める一方で、正規採用を抑えながら、人件費が安くていつでも解雇できるという理由で非正規教員を増やしているのは大きな問題です。
結局、そのツケは子どもたちに回ってくるのです」(斎藤氏)
学校教員の過酷な労働環境は度々話題にのぼるが、正規・非正規の区別なく、学校や保護者などから評価の高い教員の待遇を上げるような策を真剣に考えなければ、教育現場はますます疲弊していく一方だろう。