「人と考え方が違う」のを
恐れてはいけない
独創的な考えは猛烈な抵抗を受ける
2018年05月09日 東洋経済
スコット・バリー・カウフマン : 心理学者
2014年3月、「ハフィントンポスト」のシニアライター、キャロリン・グレゴワールが書いた1つの記事が爆発的ヒットとなった。
そのタイトルは「創造性の高い人がやっている18のこと」。
クリエイティブ思考の人々の習慣を探ったこの記事は瞬く間にシェアされ、フェイスブックの「いいね!」は50万にも上った。 このことは、効率化や生産性向上ばかりが議論される時代において、創造性の重要性を改めて認識させる契機となったと言える。
この記事の基となった研究を行っている
ペンシルベニア大学の心理学者、スコット・バリー・カウフマンとグレゴワールの新著『FUTURE INTELLIGENCE これからの時代に求められる「クリエイティブ思考」が身につく10の習慣』から、実際にクリエイティブ思考を持っている人たちの習慣をいくつか紹介しよう。
偉業に不可欠な要素は?
クレイジーな人々がいる。
厄介者、反逆者、トラブルメーカー。
四角い穴に丸い杭を打ち込むように、物事をまるで違う目で見る人々だ。
――1997年、アップルの広告 アップルが1997年に展開した「Think Different.(物の見方を変えよう)」キャンペーンは、宣伝史上最もクリエイティブで、最も成功したコマーシャルの1つとして称賛されてきた。
テレビCMでは、ガンジー、マーサ・グラハム、アルバート・アインシュタイン、アルフレッド・ヒッチコックなど、因習を打破した偉大な人々の白黒映像が次々に流れた。
当時アップルの売り上げは低迷していたが、この刺激的なCMは、「アップルはイノベーションの拠点となって、クリエイティブ思考の人、独創的な思索家、テクノロジーをいち早く利用する人のための製品を作る」というメッセージを広く伝えることに成功した。 そしてこのCMは、創造性とイノベーションの心理も語っている。
すなわち、あらゆるタイプの偉業に不可欠な要素は、「人と違う考え方をする」ことなのだ。
成功者たちはつねに、伝統的な考え方を拒み、標準と権威に挑み、トラブルを厭わず、最終的に真の変化への道を開いた。
「わたしたちは信じている……人々はこの世界をより良いものに変えられるということを」。
社内の会議でこのキャンペーンのアイデアを披露したときに、ジョブズはそう言った。
芸術と科学の歴史に名を残す、偉大な人々について考えてみよう。
彼らに共通する特徴の1つは、現状に挑戦し、努力する過程でしばしば抵抗と逆境に遭遇したことだ。
また、彼らの業績は往々にして、当初は失敗というレッテルを貼られた。
しかし、彼らはアップルのコマーシャルが言うように、「人類を前進させてきた」のだ。
ある独創的な改革者を見てみよう。16世紀イタリアの哲学者にして天文学者で、数学者でもあったジョルダーノ・ブルーノだ。
彼の革新的な学説は、時代を何世紀も先取りしていたばかりか、現代科学の大きな前進を予言してさえいた。
タブーとされていた被写体に向かう
彼は、無限の宇宙と複数の世界という見方を提唱した。
それは、旧来の地球中心の天文学を否定しただけでなく、コペルニクスのモデルをも超えていた。
宇宙は固定されたものではなく「無限」だと主張し、ほかの惑星に生命が存在することを示唆したのだ。
その結果、キリスト教会と科学機関から容赦ない攻撃を受け、宗教裁判所に逮捕され、1600年火刑に処された。 つねに死の危険にさらされながらも、ブルーノは真実だと思うことを堂々と公言した。
以下の言葉はよく引用される。
「数が多いというだけで、多数派と同じように考えようとするのは、志が低い証拠である。
真実は多数派が信じるか否かによって変わるものではない」。
現代アートの世界でも、伝統的なフォームやテーマを拒むことにはリスクが伴う。
たとえそれが社会の進歩につながるとしても、である。
アメリカの写真家、ロバート・メイプルソープは、自分が写真という表現方法を選んだのは、それが「今日、存在する狂気を表現する完璧な媒体だと思えたからだ」と語った。
1970年代から1980年代にかけて、彼はその時代にはタブーとされていた被写体を臆することなくカメラに収めた。
なかでも最も広く知られたのは、ゲイの欲望および、サディズムとマゾヒズムの探求だった。
メイプルソープは大衆の怒りもトラブルも恐れなかった。
彼の豪胆さは、挑発的な被写体を巨大な画面にとらえた写真の一枚一枚に反映されている。
彼は、「大きくすることは、写真をパワフルにすることだ」と言った。 もっとも「パワフル」では、言葉足らずだろう。
彼の作品、とりわけヌードや性行為を表現したものは、しばしば展示をボイコットされたり禁止されたりした。
1989年には、ワシントンDCの著名なコーコラン美術館が、予定していた彼の回顧展をキャンセルした。
フランスの写真誌は最近、彼の作品を「最も衝撃的な作品であり、実際、アートの歴史において最も危険な写真」と評した。
「クリエイティブであるには勇気が必要」
クリエイティブ思考が社会を進化させてきた過程には、パラダイムを変えるほどのイノベーションがあふれているが、禁書、文化的な戦争、芸術家の迫害といった事例も無数に見られる。
真の違いをもたらしたイノベーションのほぼすべてが、当初は、糾弾とまでは言わずとも、さまざまなレベルの抵抗に遭遇しているのだ。 アンリ・マティスは、絵画の世界を印象主義とポスト印象主義からモダニティ(現代性)へと推し進めた反逆者と呼ばれるが、自らの歩みを振り返って、「クリエイティブであるには勇気が必要だ」と語った。
ここに挙げた因習を打破した人々は真の被服従者であり、心理学者ロバート・J・スタンバーグが「新しく、少しばかり奇妙で非常識なアイデアを生み出し、促進しようとする人」と定義した人々だ。
ここに挙げた因習を打破した人々は真の被服従者であり、心理学者ロバート・J・スタンバーグが「新しく、少しばかり奇妙で非常識なアイデアを生み出し、促進しようとする人」と定義した人々だ。
1985年、スタンバーグらはその研究において、さまざまな職業の人に、「クリエイティブな人の核となるものは何か」とたずねた。その結果、「クリエイティブな人はリスクをとり、世の中で支持されている考え方を拒み、斬新なアイデアを支持する」という特徴が見えてきた。 大衆に逆らうには勇気が必要とされ、当然ながら大衆の意見に従うほうが簡単で気楽だ。
だが、リスクと失敗は意義ある成功を収めるには不可欠であり、それどころか、あらゆる新しい取り組みに欠かせない要素なのだ。
スタンバーグらが説明するように、いかなる分野であれ、最も独創的な貢献は、大衆におもねるところからは生まれないのである。