2018年06月26日

ヤジ、暴言…憂慮される国会の劣化

がん患者へのヤジ、
   過労死遺族への暴言…
“命”の問題を軽視する
   安倍自民の責任と罪
2018.06.25 Business Journal

文=江川紹子/ジャーナリスト

 ヤジというより、暴言と呼んだほうがいいのではないか。
 自民党の穴見陽一衆院議員が、衆院厚生労働委員会で受動喫煙対策を強化する健康増進法改正案の審議中に、参考人として出席していた肺がん患者が意見を述べていたのに対し、「いいかげんにしろ」と言い放った問題である。

与野党議員の胸に響いた、
故・山本孝史議員の代表質問
 委員会として招いた人に対する非礼はもとより、ステージ4の患者が、よりよい制度づくりのために、まさに命を削って話をしている時に、どうしてこんなことが言えるのか。
国会議員としての資質以前に、人間性が疑われるのは当然だろう。

 批判を受けた穴見氏は、Facebookと自身のホームページに「お詫び」と題する短い文を掲載したが、内容は「不快な思いを与えたとすれば…深くお詫び申し上げる」といった条件付きの謝罪。
「不快な思い」を与えていないわけがない。
記者会見も開かず、このような「謝罪もどき」をインターネット上にアップしただけで、「謝罪した」と報じるマスメディアは、まったくどうかしているのではないか。

 しかも、この「謝罪もどき」には、「喫煙者を必要以上に差別すべきではないという想いで呟いたもの」という言い訳が続いている。
「差別」とは、「本人の努力によってどうすることも出来ない事柄で不利益な扱いをすること」(東京人権啓発企業連絡会HPより)。
 有害な受動喫煙を防ぐために室内を禁煙・分煙することを、「差別」と言ってはばからない穴見氏は、こんな基本的な言葉の意味がわかっていないらしい。
好きな所でタバコを吸えないこと、あるいは飲食店が受動喫煙対策をしなければならないことに、喫煙者として、飲食店チェーン創業者の息子として、ひたすら被害者意識を募らせているだけだろう。

一私人ならそれでも構わないが、こういう人が「全国民の代表者」たる国会議員でいられては、本当に困る。
 そう慨嘆しながら、私はかつての国会で見た、今回の暴言とはまったくベクトルを異にする2つの光景を思い起こしていた。

ひとつは、2006年5月22日に参議院本会議で故・山本孝史議員(民主党)が、がん対策基本法と自殺対策基本法の早期成立を訴えた国会質問。
もうひとつは、同年暮れに亡くなった山本氏のために、07年1月23日にやはり同院本会議で、自民党の尾辻秀久参院議員が行った追悼演説だ。

 社会保障に関わる問題に取り組んでいた山本氏は、在職中に胸腺がんに罹った。
06年5月22日の代表質問で、自分ががんに侵されていることを告白。
次のように述べて、がん対策基本法の成立を急ぐよう求めた。

「がん患者は、がんの進行や再発の不安、先のことが考えられないつらさなどと向き合いながら、身体的苦痛や経済的負担に苦しみながらも、新たな治療法の開発に期待を寄せつつ、一日一日を大切に生きています。
私があえて自らがん患者だと申し上げましたのも、がん対策基本法の与党案と民主党案を一本化し、今国会で成立させることが日本の本格的ながん対策の第一歩となると確信するからです」

 さらに、自殺対策基本法の早期成立の必要性も訴え、政治の責任を強調した。
「私は、大学生のときに交通遺児の進学支援と交通事故ゼロを目指してのボランティア活動にかかわって以来、命を守るのが政治家の仕事だと思ってきました。
がんも自殺も、ともに救える命がいっぱいあるのに次々と失われているのは、政治や行政、社会の対応が遅れているからです」

 与野党議員から、党派を超えて大きな拍手が起き、それは山本氏が自席に戻った後も続いた。演説の後、山本氏は報道陣の取材に対し
「(がん患者には)限られた時間しか残っていない。
(対策は)次の国会でいいとは思えない」と語った。

 この訴えは、与野党の議員に響いた。
読売新聞は、「命を削ってまで活動を続ける姿がきっかけとなって与野党が歩み寄り、この翌月にがん対策基本法が成立した」(2008年1月22日付同紙追悼記事より)と伝えている。
自殺対策基本法も、同じ時期に成立した。

国会の劣化を加速させる
       「魔の3回生」たち
 この2つの法律の成立に共に奔走した尾辻氏は、追悼演説の中で、「山本先生はわが自由民主党にとって、最も手強い政策論争の相手でありました」と称え、山本氏の代表質問について、こう振り返った。
「いつものように淡々とした調子でしたが、先生は抗がん剤による副作用に耐えながら、渾身の力を振り絞られたに違いありません。
この演説は、すべての人の魂を揺さぶりました。
議場は温かい拍手で包まれました。
私は今、その光景を思い浮かべながら、同じ壇上に立ち、先生の一言一句を振り返るとき……。
万感、胸に迫るものがあります」

党派や意見の違いを超えた法整備
尾辻氏は、何度も声を震わせ、ハンカチで目元をぬぐった。
議場では、与野党を問わず、目頭を押さえる議員の姿があったという。
そしてこの演説は、次のように結ばれた。
「先生は12月22日、黄泉の国へと旅立たれました。
先生の最後のご著書となった『救える「いのち」のために 日本のがん医療への提言』は、先生が亡くなられる直前に、見本の本が病室に届けられました。
先生は目を開け、じっと見つめて頷かれたそうです。
その時のご様子を、奥様は告別式において次のように紹介されました。
『私は彼の手を握りながら本を読んであげました。山本は、命を削りながら執筆した本が世に出ることを確かめ、そして日本のがん医療、ひいては日本の医療全体が向上し、本当に患者のための医療が提供されることを願いながら、静かに息を引き取りました』

 バトンを渡しましたよ、襷をつなぐようにしっかりと引き継いでください、そう言う山本先生の声が聞こえてまいります。
(中略)あなたは参議院の誇りであります。
社会保障の良心でした」
 議場は、大きな拍手に包まれた。少なくとも、この時の国会は、命を削って法整備を訴える山本氏に対し、党派や意見の違いを超えて、敬意を表し、その思いを汲み取る努力をした。

 それから10年。国会はなんという変わりようなのだろう。
 12年12月の総選挙で初当選した穴見氏は、尾辻氏の追悼演説を生では聞いていないだろうが、これは今でもネットで見ることができる。
全文を読むこともできる。
だが、おそらく穴見氏は見ていないだろうし、読んでいないだろう。
 国会の劣化が指摘されている。
とりわけ穴見氏ら12年初当選組は問題が続出し、「魔の3回生」と呼ばれる。
妻が出産のため入院中に不倫したことが週刊誌にすっぱ抜かれて宮崎謙介氏は辞職し、重婚疑惑などの女性問題が報じられた中川俊直氏は3期目の出馬を断念。秘書へのパワハラを暴露された豊田真由子氏、同僚議員との不適切な関係などが批判された中川郁子氏、酒や女性の問題を取り沙汰された橋本英教氏らは落選で国会を去った。

 ほかに、「マスコミを懲らしめる」
「(がん患者は)働かなければいい」などの失言や暴言を重ねている大西英男氏、被災地視察でおぶわれて水たまりを渡り、後にそれをネタにした失言で政務官を辞任した務台俊介、前川喜平・前文部次官の講演内容を文部科学省に照会させた池田佳隆氏、「必ず3人以上の子どもを産み育てていただきたい」「結婚しなければ子供が生まれず、人様の子供の税金で老人ホームに行くことになる」と発言して後に撤回した加藤寛治氏なども同期だ。
 やはり同期の国場幸之助氏は、酒に酔って繁華街で通行人ともみ合いになり、傷害罪で書類送検されたが、書面で謝罪コメントを出しただけで記者会見も開いておらず、自民党も厳重注意で済ませている。
そして、今回の“穴見暴言”だ。

命の問題と真摯に向き合う
与党議員はどこへ
 これは一強他弱のなかでの緩みとかおごりとかいった次元の問題ではなく、本来は国会議員になってはいけない類いの人が、国民の民主党政権への反発をバネに当選してしまい、その後も安倍自民の選挙上手のお陰で議席を維持してしまっている、というケースが少なからずあるのではないか。

 それは、そうした者を自党の候補者にし、当選させ、しかもまともな教育もしていない、自民党の責任でもある。
せめて自党の長老議員である尾辻氏が行った名演説くらい、全員に見せて国会議員たる者の努めを考えさせるべきだろう。
“魔の3回生”ばかりではない。
今年3月には参議院予算委員会の公聴会に公述人として出席した過労死遺族に対し、渡辺美樹参院議員が「働くことが悪いことであるかのような議論に聞こえてきます。
お話を聞いていますと、週休7日が人間にとって幸せなのかと聞こえてきます」と述べて問題になった。

 渡辺氏は、居酒屋チェーン「和民」などを展開するワタミの創業者だが、そのワタミでは26歳の女性が入社2カ月で自殺。
後に過労死認定されたが、それを受けて、すでに国会議員となっていた渡辺氏は、こうツイートした。
「労務管理できていなかったとの認識は、ありません。
ただ、彼女の死に対しては、限りなく残念に思っています」

 そういう彼を、よりにもよって過労死遺族に対する質問者に据えた自民党自体は、命にかかわる問題を軽く見すぎていると言わざるを得ない。
与党が圧倒的な多数を占めているため、最初から「いつ採決して法案を通すか」ということにのみ関心があり、いろんな人の意見を聞いたり議論をして、法案をより良いものに修正していくプロセスが軽視されているようにも見える。

 このような国会で、私たちの命にかかわる問題が扱され決定されていることに、改めて暗然たる思いがする。
 とはいえ、自民党の期の浅い議員のなかにも、命の問題に真摯に向き合い、これまでの国会の取り組みから学んでいる人が、いないわけではない。
たとえば、自らもがんを経験した三原じゅん子参院議員は、2010年に当選して初めての国会質問で、山本氏について触れている。
「がんの撲滅に力を尽くされた先輩議員として参議院議員でありました山本孝史先生のことを思い出さずにはいられません。
(中略)命を懸けて命を守る。
がんイコールリタイアではない。
私も山本先生から命のバトンを受け継いだ、そしてこの参議院に議員として今ここに立たせていただいているんだと感じております」

 三原氏は、昨年5月30日の参院厚生労働委員会でも、山本氏の名前を挙げて、たばこの受動喫煙の問題にしっかり取り組むよう厚労相に発破をかけ、エールも送った。

「私は、7年前に議員とさせていただいたとき、民主党の山本孝史先生の議事録をすべて読ませていただきました。
私の記憶によれば、最後までたばこの政策に関して非常に心残りだというようなことを発言されていたと記憶しています。
こうした『死者の英知』というものも引き継いでいくのが私は政治であり、過去に受動喫煙で亡くなった方たちの無念の魂というものを鎮めることもまた使命なのではないかと思っています。
それがあしたを生きる子供たちの未来につながっていくのではないでしょうか」

「何度も言いますが、富める者、強い者の満足のみによって世の中が回っていくと思ったら大間違いです。政治は、病に苦しむ人、弱い人をどれだけ救ったかで判断されるべきだと私は思っています。

強い者、強者の意見だけでなく、弱い立場にいる方々、そして苦しい中で亡くなっていった方々の立場にも立った法案を作っていくことこそ政治の役割だと思います」
 しかし、この時点で厚労省が受動喫煙防止のためにつくっていた対策案は、自民党厚生労働部会の議論のなかで大幅に後退。
国会に提出された法案では、55%の飲食店は法案の「例外」とされ、喫煙可能となるという。
 今回の穴見暴言だけでなく、規制が骨抜きにされていった経緯を見るにつけ、「死者の英知」を引き継ぎ、命の問題と真摯に向き合う与党議員も「例外」的存在になっているのではないかと案ぜられてならない。 

江川紹子(えがわ・しょうこ)
東京都出身。
神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。
著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』
『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。
『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。
クラシック音楽への造詣も深い。

江川紹子ジャーナル www.egawashoko.com
twitter:amneris84
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posted by 小だぬき at 00:00| 神奈川 ☀| Comment(2) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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