世界で断トツの親族間事件
「日本は治安がいい」は幻想か
2018年7月7日 日刊ゲンダイ
無差別殺人が続いている。
それでも日本は世界に比べると治安がいい。
「犯罪白書」(2017年度版)によると、14年の殺人の発生件数は395件で発生率は0.3%。
主要国を見ても、米国は1万4164件(4.4%)、英国は594件(0.9%)、フランスは792件(1.2%)、ドイツは716件(0.9%)だから、その違いは歴然だ。
これは銃規制や外国人の違法滞在など事件のリスクが低いということもあるが、死刑制度の存在が大きいという。
元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏はこう言う。
「間違いなく死刑が抑止力になっています。
凶悪犯にとっても死は恐怖で、無期が最高刑になれば、『いつかは出所できる』となり、心理的なハードルも下がります。
凶悪犯罪が増える可能性は高いでしょう」
先の主要国を見ても英国は1998年、フランスは81年、ドイツは87年までに死刑制度を廃止している。
少数意見を認める民主主義に死刑制度はそぐわないという考えが根底にあるとされるが、ただし「英国や南米は死刑自体を廃止しているものの、凶悪犯は現場で射殺されています」(小川氏)という。
別の形の抑止力に変わっているのだ。
日本では統計上の犯罪は年々減っている。
窃盗や詐欺、恐喝などの刑法犯の認知件数は、17年に戦後初の100万件を割り込んだ。
ピークの02年の285万件の半数以下だ。
それには「防犯カメラの性能や台数の増加などが影響している」(小川氏)とみられるが、殺人事件は「この数年、900〜1000人前後を推移していて、ほとんど減っていません」(小川氏)という。
■ダントツに多い親族間の事件
諸外国に比べても決して褒められたことではない。
その原因は、「発生件数の半数が親族間の事件」ということにある。
1983年の犯罪白書では、犯人と被害者の関係を国際比較している。
「親族」はやはり日本がダントツで41.3%。
米国は16.9%、英国は38.5%、ドイツは24.2%だった。
「家族間のトラブルは第三者の家庭の内部で起きているし、第三者が手出しできません。
だから抑止が難しいのです。
海外では、強盗や強姦目的の行きずりの殺人事件が多発しています。
その点で、旅行客らには『日本は治安がいい』とみられます。
一方で、親や子供を殺す犯罪が多いことに驚かれていますし、根絶するのは困難なのです」(小川氏)
最近は日本人も行きずりの被害に遭うケースが増えている。
静岡・浜松市の看護師遺棄や名古屋市の漫画喫茶で利用客男性が刃物で襲われ死亡した事件などだ。
それでも、日本の方が安全と思ってしまうのだが、見方によっては深刻だ。
新幹線3人殺傷事件の小島一朗容疑者は親に見放されて祖母の元で育てられていたし、富山の交番襲撃事件の島津慧大容疑者は家庭内暴力を起こしていたと報じられている。
第三者の手が届かない家庭内で殺人鬼が育ってしまっているのだ。
「家庭でのコミュニケーションに問題があって、社会と関係がつくれずに追い込まれるケースは少なくありません。
問題は不満を家庭内に爆発させずに、見ず知らずの人間を衝動的に襲うケースが起きていることで、これから増えていく恐れがあります。
抑止するためには、DVなど家庭内のトラブルに対する法整備を急ぐことが大事。
今は罰金刑や数日で釈放されますが、大きな犯罪につながる予兆があれば隔離する施設を設けるなど、厳罰化が必要になっていると思います」(小川氏)
外国よりも治安がいいというのは幻想かもしれない。