「いじめたい気持ち」は
誰にでもある!?
2018/07/30 AllAboutMedical
中嶋 泰憲(精神科医)
いじめは大きな社会問題です。
どうして人は他人をいじめてしまうのでしょうか?
みんなでいじめているから、自分もいじめたくなってしまった……なんて事態は絶対に避けたいこと。
人によっては、とにかく相手の顔を見ただけで、むかつくなんてこともあるかも知れません。
だからと言って、それで相手をいじめてしまうというのは、あってはなりません。
今回は、誰かをいじめたい、何かにあたりたいといったネガティブな感情をコントロールするために、是非、知っていただきたいことを精神医学的観点から詳しく解説します。
いじめたい衝動をよく理解してみて!
まず、どんな時に相手をいじめたくなった、あるいは、何かにあたりたくなってしまったかを、よく考えてみませんか?
人によっては「相手の顔を見た時」と答えてしまう人がいるかも知れません。
事態は非常にまずくなっていますが、その人にとっては、その相手の顔を見てしまうということは、脳にとってはネガティブな刺激になっているはず。
つまり、脳が何らかのネガティブな刺激を受け、それがさらに増幅されてしまうような時、相手をいじめたい衝動を抑えられなくなってしまう可能性があります。
実際、イライラしている時は要注意です。
例えば、もしも仕事の山に追われてイライラが止まらないような時、何らかの挑発行為に直面したら、例えば、職場の廊下で誰かとすれ違った際、相手が挨拶も無しに素知らぬ顔で、すっと通り過ぎて行ったりすれば、誰だってむかっと来るかも。
でも、そのはけ口を他の誰かに向けてしまってはいけませんね。
また、場合によっては、何らかの劣等感が刺激されてしまい、苛立ち気味の時があるかも知れません。
例えば、腹周りを、すごく気にしている人。
他人から、あからさまにそれをからかわれたら、ちょっと頭に来るかも。
でも、その苛立ちを他の誰かに向けてしまってはダメですよ。
さて、ここで是非、認識しておきたいことは、誰かをいじめてしまうということは、その相手の心を傷つけてしまうだけでなく、実は自分自身の心も傷つけているのです。
誰かをいじめても、
自分の問題は何一つ解決しません
いじめの大きな問題点は、どんどんエスカレートしやすいこと。
それ自体、実に不幸な事態ですが、いじめがエスカレートしやすい大きな原因は、たとえ誰かをいじめたとしても、「いじめたい衝動を生み出している問題点」を何一つ解決しないという点です。
例えば、仕事が山のようにあって、イライラが止まらぬ人。
そのイライラを他の誰かにぶつけたって、仕事の山は決して減りません。
その時、真っ先に自分がすべきことは仕事なのに、それをせずに、他人にあたってしまうということは、一種の破壊行為。
後味が大変悪いものですし、仕事を無事片付けたような真の満足感が得られるはずなどありません。
再び仕事の山という現実を前に、イライラ感をつのらせるだけではないでしょうか。
また、劣等感を刺激されてしまった人。
先ほどの例のように、腹周りを気にしている人が、誰かにそれをからかわれたりすれば、心にグサリと来てしまう場合があるかも。
でも、その苛立ちを他の誰かに向けたって、腹周りがすっきりするはずなどありません。
きっと、その場の人間関係が、ぎくしゃくしていく一方なのではないでしょうか。
このように「誰かをいじめたい」「何かにあたりたい」という衝動は、自分が抱えている何らかの問題から生じているということを充分認識しておきたいもの。
その問題に背を向けて他人にあたっても、その問題自体は解決されず、心の圧迫感は増すばかりです。
ちょっと大げさな言い方ではありますが、自分の問題には勇気を持って、真正面から対処していきたいものです。
いじめたい衝動を負の連鎖から
正の連鎖へと転換しよう
誰かをいじめるという行為は、いじめたい衝動に対するネガティブな対処法だとすれば、何らかのポジティブな対処法を私たちは考える必要があると思います。
例えば、先に述べたように、仕事が山のようにたまっていて、イライラが止まらぬ人の場合、そのイライラを他人にぶつける前に、まずすべきことは明らかに仕事の山をさっさと片付けること。
まずは睡眠時間を確保し、食生活を改善するなどして、心身のコンディショニングを整えたうえで、モチべショーンを上げるために、やれることは何でもやって、物事の効率化を達成したいもの。
そして、無事にそうなれば心に余裕が生まれ、たとえ、誰かの腹周りが目に付いたとしても、その人には何か良い点、例えば、身だしなみが素晴らしいなど、その人は実は一目置くべき人であることに気付きやすくなるのではないでしょうか。
また、劣等感に悩んでいる人の場合。
例えば、先ほどの腹周りを気にしている人なら、食生活を見直したり、定期的に運動するなど、すべきことは割り合いはっきりしています。
しかし、場合によっては、劣等感の源が本人の力ではなかなか解決しにくいこともあるでしょう。
こうした場合、他人をいじめたい、何かにあたりたいといったネガティブな衝動を、よりポジティブな方向に、自分の得意分野に注いでみるというのも良いはず。
例えば、ダンスが得意な人は、その腕を磨いていけば、きっと自分により自信を持てるでしょうし、周りの人も一目を置いてくれると思います。
それに周りの人だって、「よし! 自分も得意な分野を磨いていこう」と、モチベーションが得られるかも知れません。
以上のように、他人をいじめたいという衝動は、自分の心が不健康になっているサインです。
私たち一人一人の心の健康が不健康になれば、いじめ問題が蔓延するなど、社会全体が病的になりやすいということを、認識したいです。
そして、たとえ誰かをいじめたいという衝動が心に生まれたとしても、そのエネルギーを、いじめがエスカレートしていくような負の連鎖から、周りの人みんながポジティブな方向へ向かっていく正の連鎖へと転換させるべきだという意識を、私たち、みんなで持ちたいものです。