なぜ警備ビジネス業界は
拡大が続くのに
ブラック企業だらけなのか
2018.9.19 ダイヤモンドオンライン
福田晃広:清談社
街を歩けば、オフィスや商業施設、工事現場など、いたるところで目にする警備員の存在。
多くの人が知っているようで知らない警備ビジネスの実態を、仙台大学体育学部准教授で、著書『警備ビジネスで読み解く日本』(光文社新書)がある田中智仁氏に聞いた。
(清談社 福田晃広)
セコム誕生は1962年
東京五輪が警備業界拡大の契機に
2018年7月、警察庁が公表した「平成29年における警備業の概況」によると、2017年12月末時点で日本全国の警備会社数は9548社で、警備員数は55万2405人。
ここ数年、わずかではあるが増加傾向にあり、警備業界の拡大は続いているといっていいだろう。
日本の警備会社の草分け的存在である「日本警備保障」(現・セコム)が設立されたのは1962年、高度経済成長期の中盤だった。
日本人の働き方が大きく変化し、自営業者と家族従業者が減少、代わりに被雇用者が増えて、サラリーマンが一般化した時代だ。
当時の警備業務の実態について、田中氏はこう説明する。
「当時の主な警備業務は、オフィスビルや工場などの施設警備と巡回警備でした。
しかし、守衛や宿直は専門的な警備技術を体得していない人がほとんどで、警備体制は脆弱。
そこにビジネスチャンスが潜んでいたのです」(田中氏、以下同)
警備会社の存在が注目されるようになったのは、1964年の東京オリンピックで、選手村などの警備に当たったことによる。
さらに翌年にはテレビドラマ『ザ・ガードマン』が大ヒットしたことで、警備業という仕事の知名度は急上昇したといわれている。
「人や財産を守る」警備員なのに、
約4割が高齢者という矛盾
現在、日本の警備会社の業務は警備業法第2条で、大きく4つに分けられている。
施設を守る1号警備業務、
不特定多数の人や車両を誘導する2号警備業務、
貴重品や危険物を運ぶ3号警備業務、
依頼者の身辺を守る4号警備業務だ。
前述のように、警備業界の規模は拡大し続けているが、課題も多いという。
警備業務の目的は「人の生命、身体、財産などを守る」ことだが、現状では警備員の約4割が高齢者であると田中氏は指摘する。
「なぜ高齢者が多くなるかといえば、『守衛の系譜』と『年金問題』が挙げられます。
もともと施設警備を担っていた守衛は、多くが定年退職者の再雇用。
高齢の人でも対応できる業務内容が想定されていたので、警備員へ置き換えられても、ほぼそのまま存続しています。
また、年金だけでは生活できない高齢者が急増していますので、人手不足が深刻な警備会社がその受け皿になり、雇用せざるを得なくなっているのです」
また他の業界に比べて、労働条件が劣悪といわれており、契約内容や会社によって細かな違いはあるものの、長時間労働、昼夜逆転の生活を強いられている警備員も少なくないという。
「約9割の警備会社が中小企業で、つい5年ほど前の調査では、主に交通誘導の警備業務を行なっている警備員の約半数が社会保険未加入という実態も明らかになりました。
人手が足りてないため、休暇も取りづらく、心身の健康を害する警備員も潜在的にも多いと予想されます。
給与水準には徐々に改善の兆しが見えつつありますが、改善すべき点は多い」
田中氏が指摘するように、警備業界は企業規模、給与水準、健康状態の格差が大きい。
この格差をいかにして解消していくかが問われていくことになる。
AIやロボットの進歩だけでは
警備員はますます窮地に
「将来的にはAIや警備ロボットなどの技術の進歩によって、そもそも警備員の存在すら不必要になるのではないか」と思われる読者もいるかもしれない。
このもっともな疑問について田中氏は以下のように答える。
「AIや警備ロボットの方が人を雇うよりもコストが安くなれば、人的警備の淘汰が進むことが予想されます。
ただ、警備会社の多くは中小企業のため、コスト面からAIや警備ロボットを導入できない可能性が高い。
もし一部業務で導入したとしても、それらのコストと同等になるように警備員の給料を下げることが予想され、生活に困窮する人が続出することもあり得るし、当然ながら警備の質の低下も避けられません」
田中氏によれば、現在、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、AIや警備ロボットを活用した警備方法が試行されているが、警備員の専門性を伸ばそうとする動きは見られないという。
これまで警備業界では、業務別教育を行なって警備員の専門性を向上しようと取り組んできた。
ところが現在は、AIや警備ロボットにばかり熱心に取り組んでおり、警備員に対してはこれまでとは真逆の方策を取っているというわけだ。
このままでは、「専門性が低くて貧しい警備員」と「高性能なAIや警備ロボット」の二極化が進むことは避けられないと田中氏は危惧する。
ちまたでは「AIに仕事を奪われる」ことが話題となっているが、警備業界はその最たる業種の1つともいえる。
多くの他業種と同様、合理化が進む時代にあって、警備ビジネスも大きな転機を迎えているのかもしれない。