実感がないのは当たり前 「いざなぎ景気超え」のマヤカシ
2018/12/15 日刊ゲンダイ
景気回復を実感しないのは「感性」の問題なのか。
いや、違うだろう。
内閣府の景気動向指数研究会(座長・吉川洋立正大教授)の景況感には驚きを禁じ得ない。
2012年12月を基点とする景気回復が17年9月まで続き、高度成長期に4年9カ月にわたった「いざなぎ景気」(1965年11月〜70年7月)を超え、戦後2番目の長さになったと認定したのだ。
来年1月まで続けば戦後最長となり、6年1カ月に及んだ「いざなみ景気」(02年2月〜08年2月)を抜くという。
「いざなぎ景気」を支えたのは、個人消費の拡大と企業の旺盛な設備投資だった。
自動車、クーラー、カラーテレビの「3C」の普及が購買欲を刺激し、65年度から70年度を平均した実質成長率は10.1%に上った。
賃金もぐんぐんアップした。
振り返って、足元はどうだ。
12年度から17年度の平均実質成長率はわずか1.2%。
7〜9月期の国内総生産(GDP)改定値は、物価変動を除いた実質で前期比0.6%減、
年率換算で2.5%減だった。
前期比0.3%減、年率1.2%減とした速報値から大幅な下方修正だ。
生活実感に近い名目GDPも前期比0.7%減、年率2.7%減に引き下げた。
経済アナリストの菊池英博氏はこう言う。
「第2次安倍政権発足以降、国民生活は確実に苦しくなっている。景気回復の実感がないのは当然です。
厚労省のデータによると、13年から17年までの実質所得(1世帯当たりの平均所得額)は5年で80万円減収している。
その内訳は3%分の消費増税で60万円。
アベノミクスによる異次元緩和で円安が進み、輸入物価高で20万円。
円相場は2012年の80円台から120円に値を下げた。
円安は40%も進み、実質的な円の切り下げです。
この5年間で名目GDPは492兆円から546兆円に膨らみましたが、そのうち32兆円は算出方法の変更による底上げです。
実態は20兆円の増加で、年間成長率はわずか0・8%。ゼロ成長です。
“いざなぎ超え”はまったくのデタラメ。
詐欺的統計と言っていい」
■実質賃金プラスは1回だけ
安倍首相は「有効求人倍率は1倍を超えた」
「250万人の新たな雇用を生み出した」と何かと胸を張る。
確かに、雇用者はこの5年間で370万人増えたが、そのうち正規社員は26%。
非正規社員が73%も増加し、雇用状況は不安定化している。
正規社員の所得の3分の1程度とされる非正規社員が増えれば、所得水準は下がる。
実質賃金指数は12年の104.8から17年は100.5にダウン。
4.1%も下げている。
この5年間で実質賃金がプラスになったのは16年の1回だけ。
実質可処分所得は減る一方なのだ。
恐るべき政府のイカサマPRに加えて、安倍官邸に近い大メディアは、
〈「いざなぎ超え」 戦後2番目に〉
〈景気「いざなぎ」超え 内閣府認定、来月で戦後最長〉などの見出しを打ってアベノミクスの“成果”を盛んにヨイショ。
官邸を徹底的に忖度した提灯報道をジャンジャン流している。
麻生財務相は14日、閣議後の記者会見で“いざなぎ超え”にもかかわらず、賃金が上昇しない状況について問われると、「上がっていないと感じる人の感性」の問題だと強弁した。
言うに事欠いて、一国の財政を担うトップが何のデータも根拠も示さずに、感覚でモノを言うのだから空恐ろしくなる。
“いざなぎ超え”なんて、ちゃんちゃらおかしいのだ。
GDP底上げでもマイナス成長へ転落危機
目端の利く外国人投資家は日本経済をとうに見限り、一斉に逃げ出している。
東京証券取引所によると、12月第1週(3〜7日)の投資部門別株式売買動向(東京・名古屋2市場、1部、2部と新興企業向け市場の合計)は海外投資家が4週連続で売り越していた。
売越額は前週の2101億円から約3倍増の6001億円。
2月第1週の6446億円以来の大きさだった。
11月第2週1369億円↓同第3週1967億円↓同第4週2101億円という経過をたどり、その額は週を追うごとに膨らんでいる。
「日本は実質的にマイナス成長に突入している。
海外の投資家は日本経済をそうみていて、日本市場から手を引いているのです。
日銀がETFの大量購入で株価を支えているいまのうちに、売ってしまおうということ。
官製相場でなければ、日経平均株価はとうに2万円を割ってもおかしくない。
安倍政権は算出方法の変更でGDPに化粧をしていますが、その数字でさえ今年はマイナス成長に転落する可能性があります」(菊池英博氏=前出)
来年以降の日本経済は惨憺たるありさまとなりかねない。
キーワードは米国のトランプ大統領、フランスのマクロン大統領、中国の習近平国家主席。保護主義と新自由主義をめぐり、対立は深刻化している。
マクロンは燃料税引き上げに端を発したデモで求心力をさらに失い、政権はガタガタ。
これに一枚噛んでいるとみられているのが、トランプだ。
地球温暖化に関心のないトランプはパリ協定から離脱。
一方のマクロンはトランプに強硬な態度で臨み、国内で燃料税引き上げを図り、ルノーの打ち出の小づちである日産自動車の現地生産を進め、さらに利益を吸い上げようとしている。
米国の自動車産業を守るために海外メーカーの現地生産を推し進めるトランプにとっては、マクロンは目の上のたんこぶ以外の何ものでもない。
その矢先に起こったのが、日産のカルロス・ゴーン前会長の電撃逮捕劇だった。
経済評論家の斎藤満氏は言う。
「ゴーン逮捕に動いた東京地検特捜部は伝統的に米国と関係があり、安倍政権をアゴで使うトランプ政権の意向が働いたという指摘がある。
その一方で、安倍政権はフランスの意向をくみ、臨時国会で水道法改正を通し、水道民営化を着々と進めています。
八方美人なアベ外交は“個人的な信頼関係”をかたってうわべだけのつき合いを重ね、金銭供与でつないでいるだけの“良好な関係”にしか見えない。
どの国からも信頼されず、外交で相手にされないリスクが高まっています」
■日米通商協議でGDP2%喪失
トランプに押し込まれた日米通商協議が来年1月中旬から本格化する。
米通商代表部(USTR)が開いた対日貿易に関する公聴会に参加した自動車メーカーや業界団体は、米・メキシコ・カナダ協定(USMCA)よりも強力な為替条項や自動車輸出の数量規制を要求。
輸出制限には具体的数字も飛び交っていて、阿達雅志国交政務官が講演で「最大100万台という要求もあった」と交渉の内幕を明かしていた。
「17年の日本車対米輸出は174万台。
年間7兆円に上る対米黒字の8割を自動車分野が稼いでいます。
それが半分に落ち込めば、GDPの1%が吹き飛んでしまう。
現地生産を進めるといっても、対応できるのはトヨタ自動車やホンダくらいでしょう。
自動車産業は非常に裾野が広く、関連企業は20万社に上るともいわれます。
ヘタをすればGDPの2%を失いかねない。
トランプ大統領のさじ加減ひとつで、一気にマイナス成長へ転落です」(斎藤満氏=前出)
拳を振り上げた中国包囲網から一転、安倍は中国との関係改善を図っているが、米中貿易戦争のあおりで雲行きは怪しくなっている。
中国国家統計局によると、小売売上高や工業生産はいずれも伸びが鈍化。
その影響は日本経済にも表れ始めている。
12月の日銀短観では米中新冷戦の懸念から、3カ月後の見通しを示すDI(業況判断指数)はプラス15と4ポイント悪化した。
米中関係をさらにこじれさせているのが、米国の要請を受けたカナダによる華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟CFOの逮捕劇だ。
米国は次世代通信5Gの覇権争いで、中国を敵視。トランプがそれに拍車を掛け、同盟国にファーウェイの締め出しを求めると、安倍政権も追従。政府調達から排除を決めた。
「民間企業も中国排除に追随する姿勢です。
今月上旬に起きたソフトバンクの大規模通信障害はファーウェイCFO逮捕との関わりがあるとされ、ソフトバンクはファーウェイと関係を築いているために狙われたという見方がある。
現状ではソフトバンクだけの問題とみられていますが、他の日本企業にも波及するとの不安が広がっている」(金融関係者)
来年10月には消費税が10%に引き上げられる。
14年の8%増税の例を引くまでもなく、経済停滞は避けられない。
政治的思惑も絡んで世界経済が大きな岐路に立つ中、何の処方箋もなく、“いざなぎ超え”と大はしゃぎするだけの安倍政権にこの国を任せていていいのか。