2018年12月29日

水道民営化をすれば水道代が安くなるという幻想

水道民営化をすれば水道代が安くなるという幻想
2018/12/28 HARBOR BUSINESS Online

 先日、極右系フェイクニュースをリツイートしているような人物から「水道を民営化をすれば行政の無駄を省き、画期的なアイディアで水道代を値下げできる」という主張を受けました。
一般的に「ネトウヨ」と呼ばれるジャンルの人なのですが、とにかく「水道民営化をすれば水道代は下がるんだ」という主張をしており、140文字のTwitterで一生懸命返信を試みたのですが、文字数に制限があると、なかなか伝えたいことが伝えられないので、このたび、しっかりと記事を書くことで納得していただこうと思いました。

 敢えてお名前などは伏せさせていただきますが、水道を民営化して水道代が下がることは「100%ない」と断言してしまってもいいほど、水道代が下がる理屈がありませんので、今から丁寧に解説させていただきます。

世の中には「水ジャーナリスト」と呼ばれる専門家たちもいて、僕はそういった方々の勉強会などに参加して知識を得ていますので、ぜひそういう専門家の意見も合わせて読んでいただけると幸いです。

◆水道料金が既に高い所は民営化の対象ではない
 事の発端は、こんなに水道料金が高い場所があって格差が激しいのだから、水道民営化をして料金を下げた方がいいじゃないかという話をされたことです。
町が破産をした北海道夕張市では月の水道料金が20立法メートルあたり6841円。
一方、水道料金が安い兵庫県赤穂市では、たったの853円だというのです。

 確かに、自治体によって水道料金は大きく異なり、全国一律じゃないのは不平等のようにも思えます。
しかし、水道料金が高い地域ではどうしてそんなに高いのか。べつに市役所がボッタクっているわけではなく、それだけコストがかかっているので、水道料金が上がるのはある意味、仕方がないことであると言えます。
 料金が高いところを見てみると、ほとんどが北海道に集中していることがわかります。
どうして北海道の水道代がこんなに高いのかと言うと、「北海道はでっかいどう」なので、各家庭に水道を引っ張るのにコストがかかります。
東京のように人口が密集しているところでは1kmの水道管をいくつもの家庭が利用することになりますが、隣の家まで3kmあると言われると、3kmの水道管を誰も利用しないということも平気であるのです。

 まず水道管1kmあたりの利用客が少ないので、人数で割った場合に高くなってしまうという問題があります。
さらに、北海道は冬になると水道管が凍ることも珍しくありません。
凍った水は膨張し、水道管を傷め、破損の原因になります。
東京よりもメンテナンスが必要になるという意味でも、北海道の水道代が高いのには理屈があるのです。

つまり、べつに市役所の職員が怠けていたから値段が高くなったわけではないということです。
 そして、民営化によって水道料金を安くすると言うなら、ぜひとも水道料金が6000円を超えるような可哀想な自治体でやってほしいわけですが、実は、水道民営化の法律ができても、北海道夕張市をはじめ、そもそも水道料金が高くて困っているような地域では水道は民営化されません。
理由はすこぶるシンプルで、「めちゃくちゃ手間がかかる割に儲からないから」です。

 あなたがビジネスをする時に「Aなら手間もかからずドル箱で儲かりますが、Bだと手間と時間ばっかりかかって全然儲かりません。さあ、どっちにしますか?」と聞かれて、Bを選ぶ人なんていないはずです。
「大阪市と夕張市、どちらで水道事業をやりますか?」と聞かれて、夕張市でやりたいという企業はありません。
 大阪市の人口は約270万人、夕張市の人口は約8600人です。
ましてや夕張市は破綻しているので行政サービスが十分ではなく、少子高齢化と過疎化が鬼のように進んでおり、これからますます人口が減っていくことが予想されます。
 人口が減るということは水道を利用する人が減るということになりますので、これから期待できる売上も減るということになります。
誰がどう考えても水道事業を請け負うとしたら大阪市だと思います。
夕張市は財政破綻している特殊な街ですが、このように少子高齢化が進んでいて、利益が期待できない街は日本中にたくさんあります。
そして、こういう街こそ水道代が高騰するリスクがあり、抜本的な改革が必要なのです。
しかし、企業は儲からない街には来てくれないので、過疎化が進み、水道のメンテナンスができなくなりつつある街は水道民営化の対象にならないのです。

◆「民間ならば無駄のない経営ができる」という幻想
「行政の仕事は無駄だらけだけど、民間企業なら無駄のない経営ができる」というのは完全なる幻想です。
 行政はその会計を非公開にすることはできません。
請求があれば情報を開示する義務があり、何にどれだけお金がかかっているのかをチェックされる運命にあります。
もちろん、無駄なものにお金がかかっていることもあるかもしれませんが、それらは原則として住民がチェックでき、「これが無駄だ」と指摘し、改善させることができます。

 これが民間の会社になってしまうとどうなるのか。
何にどれだけお金がかかっているのかを開示する義務は基本的にありません。
「そこらへんは自治体と契約する時にうまいこと開示するように義務づける」という人もいるかもしれませんが、企業も企業でそこらへんはうまいことやるのです。

 日産のカルロス・ゴーン会長がうまいことやって退職後にも巨額の報酬をもらおうとしていたのと一緒です。
行政だと絶対にあり得ませんが、キャバクラ代を接待交際費として領収書を切ってもらうこともできるようになります。
また、民間企業の場合には、働かずにお金を儲ける「投資家」という存在が入ってくることもコストを高くする原因になります。
株式を上場して企業の価値を高めれば、株価が高くなり、株主の資産も大きくなります。
株主配当を奮発すれば、ますます株価は上がり、株主の資産はもっともっと大きくなります。
利益を配管などのメンテナンスに使うのではなく、株主配当に使って、金持ち同士みんなでウマウマするという現象が起こるのも民間企業の特徴です。

つまり、民間企業なら無駄のない経営ができるというのは、「メンテナンスにかかる費用を最小限にするに違いない」という極めて部分的な話をしているに過ぎず、それ以外の「本質的な無駄」の部分を完全に無視していると言えると思います。

◆行政サービスを採算だけで判断する愚かさ
「過疎地の買い物難民のためにドローンを使った物資の供給などを提案したり、試行錯誤しているのも民間企業である。
採算性の薄いところに新しい切り口で提案できる能力は行政より民間の方が高い」という話もされました。
 ドローンには競争性があり、水道民営化には25年から30年の独占契約が結ばれることを考えると競争性がなく、ドローンと水道はまったく異なるのですが、ドローンの会社がどうして試行錯誤をしているのかと言えば、それは彼らが「ドローンに将来性を感じていて、きっと物資を運ぶためにドローンが活用される社会が来るはずだ」と考えているからです。

 もちろん、本当にそんな世の中が来たら、今から取り組んでいる企業には既にノウハウを蓄積されているわけですから、ライバル会社に差をつけ、先行者利益でバクバクに儲かる可能性を秘めています。
 つまり、彼らはボランティアのためにやっているのではなく、将来の利益のためにやっているのです。

 この「選挙ウォッチャー」という仕事も、今はまったく儲かりません。
もっと読んでくれる人が増えてもいいと思うのですが、選挙を面白いと感じてくれる人がまだまだ少ないため、ビジネスとして成立しているとは言い難い状況です。
しかし、儲からないのに、それでもやり続けている理由は、この仕事が世の中に必要だということもあるのですが、将来的にめちゃくちゃ儲かると考えているからです。
将来の利益のことを考えれば、今の苦しさは耐えるに値するものだと考えているのです。
 このように「採算性が薄いのにやる」ことには何らかの理由があって、理由もないのに採算性の合わないことをやっている人は、よほど何も考えていない人です。

また、ドローンを使ってどのようなビジネスをするのかを考えるのは行政の仕事ではありません。
行政は「利益」を考えるところではなく、市民や国民に何をしたら有益であるかを考えるところであり、それは図書館のように運営だけを見たら赤字になるようなことでも、市民や国民のために有益であると考えればやるところです。

 そのうち「図書館を作るなんて税金の無駄だ!」と言い出すバカタレが出てくるんじゃないかとヒヤヒヤしていますが、行政サービスにおいて「採算が合うか合わないかだけを見る」というのはバカのすることです。民間企業が新しい切り口を提案するのは、いつも「儲かるから」であることを忘れてはなりません。

◆自治体が「選べる」から大丈夫?
 今回の水道民営化は、確かにコンセッション方式を「選べる」という話なので、自治体が拒否したら水道民営化にはなりません。
しかし、「だから大丈夫だ」という話にはなりません。
 ほぼ100%と言っていいほど地獄を見ることが明らかなのが水道民営化なのです。
これは「室内にガスを充満させても火をつけなければいいだけだから大丈夫」と言っているに過ぎません。
本当に望ましいことは室内にガスを充満させないことなので、そもそもガスを充満させなければ爆発は起こりません。
火をつけたらアウトというところまで持っていくこと自体がナンセンスなので、水道民営化法案なんて通さない方がいいに決まっているのです。

しかも、水道を民営化したい企業はアイディアを持っているわけではなく、商売させてもらいたいだけです。
商売させてもらうためにいろいろなプレゼンをするでしょうけど、それでみんなが幸せになるかと言ったら幸せになんかならないのです。
 だいたいマイナンバーカードを作る時だって「情報漏洩が起こるから危険だ」と言っていた人たちはたくさんいましたが、「情報漏洩は絶対に起こらない」と言いながら、作業が忙しいから別の下請け会社に振ってしまう例が多発。
その中には中国の企業もあって、ファーフェイが問題になっている以上にヤバい事態を自分たちの手で作り出しており、握られてはいけない個人情報がとっくの昔に中国に流出した可能性もあるのです。
こんなにバカなんですから、水道民営化でハッピーになるはずがありません。
そもそも守らなければならないものを民間企業に委託すること自体が極めて愚かな行為なのです。

◆「民間企業に任せれば解決」って話ではない
 行政に任せていて水道代の格差が是正できるかと聞かれたら、都会と田舎では水道代にかかるコストが全然違うし、水道の水を引っ張ってくるための川が近いかどうかによってもコストが変わってくるので、そもそも全国の水道代を一律にするというのは非常に難しいでしょう。
 しかし、これは民間企業に任せたからといって解決するものではありません。

 民間企業に任せて水道代が高くなり、北海道夕張市のような水道料金の高い地域との格差はなくせるかもしれませんが、これではまったく意味がありません。
本当なら水道料金の高い地域を低い地域に合わせることで格差を解消しなければならないのに、高い所に合わせるぐらいだったら下手に民営化しないで水道料金を安いままに据え置いた方がよっぽど生活しやすくなるからです。
それに、水道料金の地域格差をなくすために水道を民営化するのではなく、水道事業を担う人たちも利益を得るのが目的なわけで、そのために彼らを儲けさせるために民営化することが目的なので、何をどう考えても水道料金が安くなることは絶対にないのです。

◆「採算の取れているところで利益を貪られる」
 採算が取れないエリアでは民間企業が参入することはないので行政が継続します。
民間企業が入ることで水道代が安くなるというなら、採算が取れないエリアほど民間企業に入ってほしいのに、採算の取れている所に民間企業が入るので意味がないのです。
「すべてを民営化しなさい」というわけではないからいいじゃないかと言いますが、そもそも愚かな選択肢を提案されているわけで、そんな選択があること自体がナンセンスなのです。

 採算の見込めない所では民間企業が参入しないのだから心配ないじゃないかと言いますが、採算の取れている所に民間企業が入って収益を貪ることが問題なのです。
その問題点に気付かずにネットでカラんでいる人がいるのですから、こういう人たちのせいで何も考えない人たちがなんとなく水道民営化に賛成してしまい、結局、僕たちの水道代が高くなるということは知っておいていただきたいところです。

◆明確に「悪手」な水道民営化
 今回はネトウヨの質問に答える形で水道民営化についての問題点をまとめてみることにしました。
これからもネトウヨの皆さんが「水道民営化をすればバラ色の未来が待っている」ってな話をしてくると思いますが、どれもキッチリと「それは嘘だ」ということを説明していきたいと思います。

「水道民営化=悪」というイメージを振りまいていると言っている人もいるのですが、明らかに「悪手」なのです。
それは諸外国ではすでに「再公営化」の流れになっていることからも明らかです。
 何か一つでも国民にメリットがあればいいですが、水道事業をする企業が儲かる以外のメリットは何もありません

何の解決にもなっていないので、一つ一つ丁寧に説明していく必要があると思います。
水道民営化の問題はいろいろと真っ黒なので、竹中平蔵の思惑通りに事を進めないためにも、みんながしっかりとした知識を持つことが必要です。

<取材・文/選挙ウォッチャーちだい(Twitter ID:@chidaisan)>
ちだい
選挙ウォッチャーとして日本中の選挙を追いかけ、取材活動を行う。
選挙ごとに「どんな選挙だったのか」を振り返るとともに、そこで得た選挙戦略のノウハウなどをTwitterやnote「チダイズム」を中心に公開中。
立候補する方、当選させたい議員がいる方は、すべてのレポートが必見。
posted by 小だぬき at 09:26 | 神奈川 ☀ | Comment(2) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

マスコミはなぜ”弱い者いじめ”に加担するのか?「メディアスクラム」恐怖の実態

マスコミはなぜ”弱い者いじめ”に加担するのか?
「メディアスクラム」恐怖の実態
2018年12月28日 デイリー新潮 編集部

 企業の不祥事、政治家の醜聞、芸能人の熱愛騒動、「時の人」の動静……すべてが消費の対象となる「ネタ」に過ぎないのが情報社会の宿命だ。
世間の反応がメディアの肩を押し、報道がひとり歩きを始め、ターゲットになったら最後、世間が飽きるまで追いかける……。
いわゆる「メディアスクラム」だ。

 福岡県の小学校に教員として務めていた川上譲さん(仮名、事件当時46歳)も、壮絶な体験をした被害者だ。
その発端は、受け持ちの児童の保護者との会話のなかで、何気なく口にした一言だった。
「アメリカの方と血が混ざっているから、裕二君(仮名)はハーフ的な顔立ちをしているんですね」

 児童の母親が「私の祖父がアメリカ人」だというのに答えての、他愛もない会話……だったはずなのだが、その後に
朝日新聞が〈小4の母『曾祖父は米国人』 教諭、直後からいじめ〉と報じ、恐怖の「メディアスクラム」が始まる。

メディアスクラムの恐怖とは
 記事はこう続く。
〈児童の親は、家庭訪問の際、教諭に、母親の曾祖父が米国人であることを話したのを境に態度が変わったとしており、差別意識が背景にあると主張〉
ーー川上さんには児童をいじめた記憶も事実もないし、ましてや彼をよく知る人間によれば、人種差別意識など持ちようもない大人しい人柄なのだが、西日本新聞、読売新聞、毎日新聞、地元テレビ局や週刊誌が次々と後追い報道を行った。

〈男児の両親は「息子は『死ね』と言われ、飛び降り自殺までしかけたことも分かった」として刑事告訴も辞さない構え〉(西日本新聞)
〈「死に方教えたろうか」と教え子を恫喝(どうかつ)した史上最悪の「殺人教師」〉(週刊文春)  

これらの報道を受け、川上さんは研修センター通いをさせられた上、教育委員会から停職6カ月の処分を受ける。
それは川上さんにとって、事実上の退職勧告とも言えるものだった。
脅迫状や嫌がらせの電話も数知れずという状況が、苦境に追い打ちをかけた。

児童の両親は川上さんに対して約1300万円の賠償を求める民事訴訟を起こすのだが、その先には思いもよらぬ展開が待ち受けていた。
裁判の過程で、こうした報道がすべて児童の母親の嘘に基づいたものだったことが判明したのだ。
児童にアメリカ人の祖父がいるということすら確認できなかった。

この悪夢のような事件を取材し、『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』にまとめたノンフィクション・ライターの福田ますみさんはこう語る。
「私も先入観を持って現場に入ったんです。
さまざまな報道を見て、『ひどい話だ』と思いながら、取材を始めました。
でも、現場で話を聞くと、どうも話が違う。首をひねりながら取材を続けるうちに、それまではメディアの取材に応じてこなかった川上さん本人から、長時間話を聞くことができました。

ちょうど川上さんが、校長や学校には自分を守る気がないんだ、自分の潔白は自分で証明しなければと痛感したタイミングだったんです。
その意味では、わたしがメディアスクラムに加担せずにいられたのは、たまたま幸運だったからだと思っています。
 メディアは、わかりやすい構図を求めがちです。
そして、その構図にあてはまる弱者には疑いの目を向けないことが多い。

この事件のケースでも、疑ってかかるのはどうしても教師や学校の側になってしまいました。
どうも変だと思った記者もマスコミにいなかったわけではないんですが、一度報道してしまうと、なかなか軌道修正できないんです。
多少バランスのとれた冷静な報道に変化する社もありましたが、論調をがらっと変えるのはなかなか難しいようです」

 残念ながら、こうしたメディアスクラムは、誰の身にも起きうるのが実情だ。
先の事件では、川上さんは10年にわたる裁判の結果、停職が取り消される幸運に恵まれたが、10年という時間はあまりに長い。
件の記事を書いた記者たちも、裁判の経過などには無関心だった。

 自分の身は自分で守るしかないのだろうか。
いや、報道を鵜呑みにしないことで、わたしたち「世間」の側がネタとして消費するのではなく、守れる人もいるはずだと信じたいものである。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☀ | Comment(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする