橋下徹「天皇制維持のために必要なこと」
2019年01月16日 PRESIDENT Online
天皇陛下のお言葉をきっかけに、多くの国民の支持のもと実現することになった天皇譲位。
しかし振り返れば、保守系の政治家や評論家の間では、天皇譲位を否定するような見解が少なくなかった。
大多数の国民の意識との乖離はなぜ起きたのか。
橋下徹氏がずばり読み解く。
プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(1月15日配信)から抜粋記事をお届けします――。
■自称保守インテリは国民大多数が支持する陛下の「人間の部分」を無視するな
NHKが年末年始にかけて放送していた天皇・皇室関連の番組を録画していたものを最近観た。
こういう番組を観ると、受信料の払いがいがあると感じる。
番組では、天皇陛下の国民への想い、大変な「おつとめ」のご様子を観ることができた。
天皇制を国民が受け入れ、支え、これからの存続を願い、そして国民が陛下や皇室を慕っている理由が詰まっていたと感じた。
天皇制に反対する者はどんなことがあっても反対するだろうが、国民大多数の想いは、天皇陛下の真摯に国民を想う気持ちへの相互反応である。
これが日本国憲法下の現代における、天皇制の現実だと思う。
かつては天皇と国民(まだ国民という概念がなかったときから)は身分制度によって明確に分けられたり、天皇は神そのものと位置付けられたりしたこともあった。
このときには、万世一系、脈々と繋がる天皇制の制度自身に強烈な権威が存在した。
そこでは天皇の人間性というものが捨象される。
つまり、天皇から臣民・国民への具体的な想い・行為の中に、臣民・国民が敬慕の念を抱くという明確な関係がなかった。
臣民・国民は、ただただ天皇の権威にひれ伏すだけだった。
しかし今は、陛下のお人柄や「おつとめ」「被災地お見舞い」などの具体的な象徴としての行動が、国民の陛下に対する敬慕の念の柱になっていることは間違いない。
この点、日本の国柄として天皇制をことさら強調する、いわゆる保守政治家・保守論客に限って、陛下のお人柄や具体的行動を無視し、天皇制という制度だけを重視する。
すなわち陛下の人間性を全く無視するんだよね。
そういえば、天皇譲位の賛否が議論されたときには、この保守政治家・保守論客たちは譲位そのものに反対し、「陛下が被災地お見舞いなどの行動が負担となっていると言われるのであれば、そんなことはなさらずに、ただただその地位に就いて下さればいい」など主張していた。
陛下の国民への想いなど不要だと言わんばかりだ。
本だけを読み漁り、頭の中だけで抽象論をこねくり回して、国民の実際を顧みない自称インテリによくあるパターンだ。
国民主権というものを採用した現代日本社会において、国民からの支えを完全に無視した制度など成り立たない。
現代社会を良いか悪いかどのように評するにしても、国民の納得性を無視した天皇制は成り立たない現実を認識すべきだ。
そのような意味で、国民の敬慕の念の発生源である「おつとめ」や「被災地お見舞い」などの「象徴としての行為」を果たすことが困難となりつつある今上天皇が譲位されることは、当然のことであり、本来なら国民の声を基にした日本政府や国会の方から、もっと早くに譲位の制度を設けるべきだったと思う。
頑なに譲位に反対するインテリたちは、陛下の「人間」の部分に全く配慮しない頭でっかちな連中だ。
■保守政治家は本当に「天皇制維持」を第一目標と考えているか?
この日本独特の天皇制は、僕は今後も維持すべきだと思う。
ところが、「日本の国柄の柱は天皇制だ」と強調するいわゆる保守政治家・保守論客の連中に限って、本気で天皇制を維持しようとしているのか疑問だよ。
これは安倍政権も同様だ。
保守政治家・保守論客は「男系男子の天皇」にこだわる。
確かに、今上天皇に至るまで男系男子で繋がってきたのだから、これを今後も守るのは当然だという見解はもっともである。 これまでも8人10代(2人は2度天皇に就く重祚)の女性天皇が存在するが、全て男系男子天皇が即位されるまでのワンポイントリリーフ的な存在で、男系の女性天皇であり、その後男系男子に皇位が継承されている。
ゆえに男系男子による万世一系は崩れていない。
このようなものは日本にしか存在せず、世界に誇れるものだ。
しかし現在、男系男子による天皇制を今後も維持できるかどうかが非常に危うくなっている。
それは男系男子による天皇制を維持するにあたって必要不可欠な「ある大前提」について誰もが口を閉ざしているからだ。
特に、男系男子による天皇制維持を声高に叫んでいる保守政治家・保守論客たちがダンマリを決め込んでいる。
■男系男子天皇制維持と側室制度はワンセットだ
男系男子による皇位継承を維持しようと思えば、とにかく天皇に子供をたくさん作っていただくしかない。
これは天皇制に限らず、男子相続にこだわる「家」の維持や個人事業継承でも同じである。
特に養子を認めず、縦の血のつながりを絶対とする天皇制においては、天皇の配偶者が多産であることが必要不可欠となる。
そうなると必然、複数の配偶者が必要となり、男系男子による皇位継承には側室制度がワンセットとなる。
これは否定しがたい事実である。
歴史を振り返ってみても、天皇に限らず、将軍家や男子の相続にこだわる商家などでは、将軍や家長が側室を抱えるのは当然のことであった。
しかし大正天皇は側室を抱えられなかった。
以後昭和天皇、今上天皇も同じく一夫一婦である。
奥さんが一人で、男児を必ず産む、ましてや複数の男児を必ず産むことを前提にするなんて無理な話である。
僕のところはありがたいことに7人の子供を授かった。
それでも男児は3人。
もちろん妻は一人だよ!
奥さん一人で、男系男子相続を続けるというのはほんと不可能なことを強いることになる。
だからどうしても複数の「奥さん」が必要になる。
ゆえに、男系男子による皇位継承には側室制度がワンセットである。
このことをまずは当然の大前提としなければならない。
ところが男系男子による皇位継承を天皇制の核心と位置付ける保守政治家・保守論客に限って、事実婚というものを認めない。
側室制度というのはある意味、事実婚制度でもあるのだから、事実婚を認めないということは側室制度を認めないことに等しい。
もう完全に矛盾しちゃってる。
もちろん、今の世の中で側室制度を全面的に肯定できる政治家やインテリは皆無だろう。
国民感情はもとより、今後即位される天皇陛下も、側室制度は否定されるだろう。
だからこそ、側室制度を大前提とする男系男子による天皇制の維持が危うくなっているのに、政治家は天皇制維持のための議論を進めない。
男系男子にこだわる政治家やインテリたちは、天皇制を絶対に維持したいと思っているのか。
それとも男系男子が維持できなければ、天皇制がなくなってもいいと考えているのか。
確かに、いわゆる保守政治家や保守論客の中には、さっきも述べたけど天皇制という「制度」だけにこだわる冷徹な者も多く存在し、そこでは陛下の人間性は全く考慮されない。
男系男子による天皇制という「制度」を守ることしか考えず、男系男子による天皇制でなければ、守る価値も意味もないと考えている者もいるだろう。
そのような者は、場合によっては天皇制はなくなっても仕方がないと考えているのかもしれない。
しかし、これは多くの国民感覚と乖離していると思う。
今の国民は、天皇制の「制度」だけに敬慕の念を感じているのではない。
あくまでも陛下自身に敬慕の念を感じている。
(略) (ここまでリード文を除き約2900字、メールマガジン全文は約1万1400字です)
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本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.135(1月15日配信)を一部抜粋し、加筆修正したものです。
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