2019年01月22日

同調圧力に押し潰されない4つの方法

日本人論の名著『「空気」の研究』が教える
同調圧力に押し潰されない4つの方法
2019.1.21 ダイヤモンドオンライン
鈴木博毅
:ビジネス戦略コンサルタント・MPS Consulting代表

集団に「空気」が醸成され、強力な同調圧力になったとき、その空気を破壊するにはどうすればいいのか。
40年読み継がれる日本人論の決定版、山本七平氏の『「空気」の研究』では、空気を打破する4つの起点が書かれている。
会社、学校、ネット…あらゆる集団に巣食う「日本病」を打破するヒントを紹介する。
15万部のベストセラー『「超」入門 失敗の本質』の著者・鈴木博毅氏の新刊、『「超」入門 空気の研究』から、内容の一部を特別公開する。
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空気に操られないための「4つの起点」とは?
 これまで見てきたように、日本人の思考と行動は「空気」という見えない圧力によって支配されています。
山本七平氏はそれを「妖怪」と呼びました。
 日本のあらゆる集団に現れ、多くの意思決定を操作しながら、過去には戦争や企業の不正、学校でのいじめなどにも猛威を振るってきました。

 では、集団の空気に操られず、個が空気を壊すにはどうすればいいのでしょうか。
『「空気」の研究』では完全に整理されていませんが、同書で指摘されている空気を破壊するための4つの起点をまとめてみましょう。

【空気打破の4つの起点】
[1]空気の相対化
[2]閉鎖された劇場の破壊
[3]空気を断ち切る思考の自由
[4]流れに対抗する根本主義(ファンダメンタリズム)
 この4つをそれぞれ順に解説していきます。

世の中の「隠れた前提」を見抜く
[1]空気の相対化
 空気とはすなわち「前提」です。
山本氏は、まず空気を相対化せよとしています。
 まず最初に空気を対立概念で把握する“空気(プネウマ)の相対化”が要請されるはずである。

「空気の相対化」というのは、少しイメージするのが難しいかもしれません。
例として、次の文章を相対化してみましょう。

(例文)「水不足のため、この地域では新たなダムの建設が必要とされている」

 この文章には、隠れた前提が複数あります。
例えば、水不足が本当であるか否か、また仮に水不足だとしても、その解決策がダム建設で本当に正しいのかなどが挙げられます。
 しかし、水不足だと判断する条件が不明な上に、事実の確認はなされていません。
また、水不足を解消できる、「他の選択肢」を一切無視した前提だと言えます。
 AならばBである、という前提は、二つの基本的なポイントに疑問を持つべきです。

【疑問 1】「本当に現状はAなのか?」
【疑問 2】「Aの場合でも、B以外の選択肢もあるのでは?」

 先の文章は、成立条件を明示しないのに、隠れた前提が絶対化されているのです。
 空気の相対化は、歴史を学び、歴史観的に物事を判断することでも養われます。
歴史上、AならばBであると一時的に絶対視されたことが、時代の変化で、あっけなく覆っていることが多々あるからです。

「あっけなく覆る」「みんなが一時的に正しいと盲信したことが、実は大きな間違いだった」事例を、数多く学ぶほど、前提を相対化する思考が身に付きます。
 この世界に溢れている、あらゆる前提を健全に疑う習慣を身に付けることです。

○○はAである、といかにも当然のように提示される前提が実際に真実であるか否かを、その前提が成立する条件、しない条件を基に常に考えるべきなのです。

外の光を入れるか、自ら外に出る 
[2]閉鎖された劇場を破壊する
 空気が醸成され、強力な同調圧力となるには、閉鎖された劇場の要素が不可欠です。
多くの人を一つの情況(物の見方)に閉じ込めるとしても、力の範囲には限界があるからです。
 学校のいじめの問題は、クラスという閉鎖空間と固定された人間関係が重要な引き金の一つとなっています。
 また近年、スポーツ界でのセクハラ、パワハラ事件が相次ぎ、大きく報道されています。
これもコーチや上層部が権力を握り、選手の選考などに大きな影響を持ちながら、閉鎖的なネットワークで機能していることが問題を大きくしています。

 このような場合、対処は大きく二つあるでしょう。
一つは、閉鎖された劇場の扉を開けて、外の光を劇場の中に差し入れる。
これにより、閉鎖された場が白日の下にさらされることになり、空気の支配を崩壊させる。  
二つ目は、自らが閉鎖された場を見限り、そこから出て新天地を目指すことです。

 内藤朝雄氏の書籍『いじめの構造』には、いじめ発生の構造に着目した、以下のような対策が提示されています。

【[1]学校の法化】
加害者が生徒である場合も教員である場合も等しく、暴力系のいじめに対しては学校内治外法権(聖域としての無法特権)を廃し、通常の市民社会と同じ基準で、法にゆだねる。
その上で、加害者のメンバーシップを停止する。

【[2]学級制度の廃止】
コミュニケーションを操作するようないじめに対しては、学級制度を廃止する。  

一つ目の「学校の法化」とは、学校内を聖域化せずに、暴力には警察を呼ぶことを当たり前にすることです。
こうすることで、加害生徒が教室の閉鎖性を悪用して「自分たちに都合のいい前提」を構築して支配させないようにする。  加害者が生徒であれ教員であれ、暴力に対しては警察を呼ぶのがあたりまえの場所であれば、「これ以上やると警察だ」の一言で、(利害計算の値が変わって)暴力によるいじめは確実に止まる(中略)、いじめは基本的に「やっても大丈夫」「やったほうがむしろ得だ」という利害構造に支えられて蔓延し、エスカレートしているからである。

2番目の「学級制度の廃止」は、クラスという単位で同じ人間関係を長期間強制される仕組みを変えることで、いじめの発生する根源的な構造を破壊することです。
 学級や学校への囲い込みを廃止し、出会いに関する広い選択肢と十分なアクセス可能性を有する生活圏で、若い人たちが自由に交友関係を試行錯誤できるのであれば、「しかと」で他人を苦しませるということ自体が存在できなくなる。

『いじめの構造』を書いた内藤氏は、大学の教室では「しかと」をする者は、単純に相手から付き合ってもらえなくなるだけだ、と指摘しています。
嫌な相手から去る自由がある場だからです。

 前提に従わない者への同調圧力には、必ず範囲の限界があります。
あらゆる劇場には外側があることを私たちは常に理解し、外の光を入れるか、劇場を見限るべきなのです。

過去の延長線上で考えない 
[3]空気を断ち切る思考の自由
 空気=前提とは、ある種のしがらみであることもあります。
 多くの知識や、過去の経緯などへの理解が、思考の自由を妨げるのです。
ある意味で前提となる古い知識や体験が、創造的な発想や選択を不可能にしてしまう。
 このような拘束は、累積した人間関係でも生み出されます。
関係者が多いプロジェクトほど、失敗が明確になっても撤退が難しい「空気」を生んでしまうのです。

 一方で、山本氏は本当の創造について次のように語っています。
 あらゆる拘束を自らの意志で断ち切った「思考の自由」と、それに基づく模索だけである。

──まず“空気”から脱却し、通常性的規範から脱し、「自由」になること。
 創造的な発想や選択は、拘束としての前提もしくは「水」としての通常性からは生まれません。
これらは、過去の延長線上に、思考を閉じ込めるからです。
 そのため、前提による思考の拘束を消すため、まったくしがらみのない第三者ならば、現状をどう考えるかをイメージすることも効果的です。

 僕らがお払い箱になって、取締役会が新しいCEOを連れてきたら、そいつは何をするだろう?
 上の言葉は、インテルのCEO、アンディ・グローブが、競争力を失った半導体メモリ市場から撤退を決断するとき、自ら掲げた問いです。
 インテルはメモリ生産にすでに膨大な投資をしていました。
そのため、過去の経緯という前提に縛られ続けたら、撤退がさらに遅れて致命傷になっていたかもしれません。
 グローブは、空気の拘束を消す問いをつくり、適切な決断を促すことができたのです。

最も譲れないことは何か? 
[4]流れに対抗する根本主義(ファンダメンタリズム)
[3]は空気=前提をできる限り排除した形で考えることでした。
 一方で、排除できない前提に対して、打破する力を強化することで突破することも、山本氏は提示しています。

『「空気」の研究』第3章では、「根本主義(ファンダメンタリズム)」というキーワードが頻繁に出てきます。
詳しくは次項で解説しますが、これは共同体、集団、民族の最も譲れない原点を基に、現状の拘束に対抗することを意味します。

 15世紀に行われた宗教改革で有名なマルティン・ルター。
世俗の権力すら握っていた当時の教皇の権威に、彼は「聖書」を譲れない原点として抵抗しています。
空気を断ち切る方法.jpg
 根本主義(ファンダメンタリズム)の利用は、集団の「最も譲れない原点」を基に、ある種の前提や既存の流れを打破する行動なのです。
 この根本主義は、個人の人生でも意味を持つ場合があります。
 日常では人生を支える多くのものが「どれも大切」に思えます。

しかし、一大事が起きたとき、あなたは何を最も重要なものと考えるか。
 仕事が重要でも、健康を失えば二度と職場復帰はできません。
何が自分たちにとって一番大切なことか。最も譲ることができない根本は一体何か。
 この問いと、それに続く思考と決断は、人生における些末なことを発見して、さまざまな拘束から私たちを解放してくれる効果を発揮するのです。

(この原稿は書籍『「超」入門 空気の研究』から一部を抜粋・加筆して掲載しています)
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☀ | Comment(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする