過剰な自慢、こき下ろし、敵対心…職場の「困った人」3つの対処法
2019.2.7 ダイヤモンドオンライン
舟木彩乃:ストレス・マネジメント研究者
純粋な親切心から伝えたはずなのに敵意を持った言葉として捉えられた、きちんと説明したはずなのに「え!そこですか?」というところにこだわられた…など、まともな会話が通じない「困った人」があなたの職場にもいませんか。
そんな「困った人」への対処法を解説します。
(ストレス・マネジメント研究者 舟木彩乃)
「なんかおかしい…」という人たち
私はこれまで8000人以上の方にカウンセリングをしてきたのですが、最近、関わってしまうと“厄介な人”や“困った人”についての相談が増えてきたように感じます。
それは具体的には次のような人たちです。
皆さんの周りにいませんか?
・過剰に自己アピールする、自慢話が多い
・異様に他人をこき下ろす
・純粋な親切心から伝えた言葉が敵意をもった言葉と受け取られた
・きちんと説明したはずなのに、“え、そこですか?”というところにこだわる
実際のカウンセリングのケースをいくつかご紹介したいと思います。
◎ケース1:持田さん(仮名):50代女性で専業主婦
持田さんは、とても控えめな印象を与える方です。
もともと大手企業で一般事務職に就いていましたが結婚を機に退職、ブランクは20年以上ありますが、また仕事をしたいと思っています。
「仕事に復帰したい」と思うようになったのは、友人からある会合の司会をお願いされて引き受けたところ、自分の存在価値が実感できたことがきっかけだそうです。
しかし、持田さんが仕事を再開することについて夫が賛成してくれない、というのが相談内容でした。
私は、持田さんが仕事に復帰したいという気持ちを大事にしながらも、そのことが原因で夫婦関係がこじれないようにするにはどうしたらいいか、話し合っていく必要があると思いました。
しかし、このテーマで話を進めていくと、おとなしい印象であった持田さんがイライラしだし「カウンセラーさんは今まで、いろいろな人とお話ししているはずですよね?
私と話していて、他の人とは違う“なにか”に気がつきませんか?」と、やや強い口調で言ってきました。
特段、持田さんの“何か”に気づくこともなかった私は、「それは何か教えていただけますか?」と返しました。
持田さんは、せきを切ったように「学生時代の就職活動では有名テレビ局のアナウンサーの最終試験まで残っていた」という類いの話をし始め、「私は、理路整然と人にものを伝える才能や技術があるわけですが、今まで話していてそれに気がつかなかったですか?」とかなり強い口調で私に言ってきたのです。
持田さんが私に伝えたかった一番の内容は「自分は見ての通り、人に物事を伝える技術や才能がある。
だから人前で話す仕事が向いている」ということでした。
持田さんは、いくら話をしても自分の“技術や才能”に気づかず、称賛もしなかった私にいら立っていたのです。
カウンセリングにくる方の中には、持田さんのように、相談するというより他人から称賛や承認を得るために来た、という人もいるのです。
職場の同僚や上司に相談する人も同じようなタイプの人が少なくありません。
◎ケース2:橋口さん(仮名):30代男性・課長職、同期Aさんに困っている
次にご紹介するのは、「困った人」に困っていた橋口さんのケースです。
橋口さんは、大手企業に勤める会社員で、最近、課長に昇進したばかりです。
橋口さんの会社生活における悩みの種は、橋口さんの課に異動してきた同期入社のAさんでした。
同期入社の橋口さんがAさんの上司ということになります。
注意するとキレたりする
Aさんは、仕事で大きな実績を残しているわけではありませんが、橋口さんよりも学歴が高く、自信に満ちあふれているところがあるそうです。
たまに、橋口さんがAさんに仕事のことで指摘すると、「そういうやり方は効率悪そうだね(笑)」などと皮肉を言ったり、時にはキレだすようなこともありました。
また、自分がどんなに優秀であるかを、橋口さんをはじめ周りの人間に認めさせることに執着しているところもありました。
自分が注目され称賛されるためには、平気で“ウソ”までつくということでした。
ある日、橋口さんの部署で全体会議があったのですが、そのときの内容は新規事業を具体的に進めるための話し合いでした。
この新規事業はもともと橋口さんのアイデアで、社内でとても高い評価を得て予算がついたものでした。
しかし、Aさんは全体会議の場で突然「いやー、本当によかったな、橋口!俺のアドバイスを聞いておいて損はなかっただろう?」と、まるでAさんのおかげで橋口さんのアイデアが高い評価を得たようなアピールをしだしたのです。
Aさんと、一切そんな会話をした覚えのない橋口さんは、驚きのあまりその場で何も言えなかったそうです。
厄介なのは、Aさんの経歴やあまりに堂々とした口調から、会議に出ていた人がAさんの言葉をそのまま信じてしまったことでした。
それ以降も、Aさんは橋口さんの“手柄”を取るような言動が続き、注意するとキレたりしていました。
周囲はAさんがまるで橋口さんの陰のブレーンであるかのような印象を持ってしまい、橋口さんは非常にやりにくいと困っていました。
困った人の正体
ケース1の持田さん、ケース2で橋口さんを困らせているAさん、この両者は一見違うタイプに見えるかもしれません。
根底に“病理的な自己愛”
しかし、両者には共通して「自分は称賛されるべき特別な人である」という思いがあります。
その共通の思いを掘り下げていくと、そこには「強い劣等感」が潜んでいます。
そのため、彼らは他人からの評価には非常に敏感です。
自分の能力が周囲から評価されてプライドを維持できているときは“万能感”にあふれていますが、人から称賛されずにいたり批判されたりすると、根っこにあった“強い劣等感”が顔を出して過剰反応するのです。
心理学では、これを「自己愛的怒り」といい、自己防衛本能の1つとされています。
本当に優秀な人であれば、周りから認められているため、過剰な自己アピールや自慢をする必要はありません。
できない人ほど自慢話が多くなり、周りから見ると“イタい人”となっているケースはよくあります。
“強い劣等感”は、さらに掘り下げると、その根底に“病理的な自己愛”があります。
“病理的な自己愛”とは、自分自身が思い描く「100点満点の自分」と「とりえのないダメな0点の自分」という両極端に自分が分裂していて、“等身大の自分”がいない状態です。
こういう人は本来の自分を受け入れることができないため、ちょっとした挫折や失敗であっても過度に恐れるという脆弱(ぜいじゃく)性があるのです。
“困った人”への対応方法
ここまで紹介してきた心理的メカニズムが分かれば、少しはモヤモヤ感は晴れるものの、“困った人”の周囲の人は大変な思いをしなければなりません。
困った人への3つの対処法
周りは“困った人”にどのような対応をすればよいでしょうか。
対処する方法は、あなたと“困った人”との関係によっても大きく変わってきますが、ケース2の橋口さんとAさんのように、職場で関わらざるを得ない場合の対処法を3つお伝えしたいと思います。
◎対処法 1.
日ごろから“困った人”について、上司や同僚などに相談をしておきましょう――これにより“困った人”の手柄横取り発言の信憑(しんぴょう)性が低くなります。
2.“困った人”の背景には、“強い劣等感”があることを意識しましょう――その上で、“困った人”の感情に引きずられて頭ごなしに否定するのではなく、冷静な対応を心掛けましょう。
3.“困った人”と2人だけのやり取りは避けましょう
――ミーティングやメールなど2人だけでやり取りするのではなく、必ず信用のおける第三者を入れておき、いざというときの“証人”をつくっておきましょう。
“困った人”の持つ“病理的な自己愛”の原因はとても深いところにあり、簡単に直るものではありません。
そのため、親切心からであっても過度に親しくしたり、逆に突き放したりせず、冷静な一貫した態度で接することが重要なのです。
※本稿は実際の事例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため個人名は全て仮名とし、人物像や状況の変更などを施しています。ご了承ください。