2019年02月28日

モノの所有が段々「時代遅れ」になっていく理由

モノの所有が段々「時代遅れ」になっていく理由 「共有」「シェア」「つながり」が新たな価値だ
2019/02/27 東洋経済オンライン
石山 アンジュ : 内閣官房シェアリングエコノミー伝道師

1つの企業で定年まで働き、貯めたお金で家や車、その他たくさんのモノを所有し、社会保障に守られて一生を終える――。
そんな「幸せ」のロールモデルはすでに崩壊した。
これからの時代では、組織にもお金にもモノにも依存しない生き方が求められる。

そんな中で今、注目を集めているのが「シェアリングエコノミー(共有経済)」という概念。
なぜ今、シェアが注目されているのか? 
シェアが生み出す価値とは?
 内閣官房シェアリングエコノミー伝道師・石山アンジュ氏の著書『シェアライフ』の内容を一部抜粋し、再構成のうえお届けします。
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今、シェアリングエコノミーが注目されている理由
民泊にライドシェア、フリマアプリにクラウドソーシング……近年、世界中で「シェア」の概念に基づくサービスが広がり始めています。
なぜ今、シェアが注目されているのか? 
それには2つの背景があります。

1つは、インターネットの登場とテクノロジーの発展によって、個人間でのやり取りが、簡単にできるようになったことです。自分が持っているものと相手が必要としているものを「見て」知ることができる。
時間や距離という制約を越えて、複数の人との貸し借りや売買、その他のやり取りが一瞬で可能になる。
さらに、位置情報の活用や決済システムの進化などにより、個人間でのやり取りは現在進行形で、よりスムーズに、便利になってきています。

もう1つは、個人のあいだでも社会のあいだでも、シェアという思想への共感が広がりつつあること。
拙著『シェアライフ』でも詳しく解説していますが、現代では、「組織中心」から「個人中心」の社会へとパワーシフトが起こり、「豊かさ」の概念が物質的なものから内面的なものへ変化しています。
そんな中で、個人間の信頼関係を大切にすることで成り立つシェアが共感を呼ぶのは、必然的といえます。
このような背景から、「シェア=新たな社会をつくるもの」としての可能性が注目されているのです。

従来の私たちの生活は、基本的には、企業がつくったものを買い、所有し、消費する「BtoC(Business to Consumer)」のモデルで成り立ってきました。
これに対して、シェアリングエコノミーは、「CtoC(Consumer to Consumer)」というモデルを可能にしました。
個人が使っていないモノやスペース、時間や知識、スキルまで、あらゆるものが商品になり、個人がサービスの提供者となることができます。
さらに、自分たちで値段を決めたり、あるいは無償で譲り合ったりと、企業ではなく個人の裁量に基づいてやり取りできるのです。

個人と個人が生み出す新しい経済の形
このCtoCモデルをサービスにしたのが、「プラットフォーム」と呼ばれる、個人間のシェアを仲介する場を提供する企業です。
2008年ごろからアメリカを中心に始まり、一気に広がりました。

例えば、宿泊場所を提供したいホストと宿泊したい人を結ぶ、民泊シェアプラットフォーム「Airbnb」や、
自家用車を有効活用したいドライバーと、乗せてほしい人をつなぐライドシェアプラットフォーム「Uber」などが代表例です。
その勢いはアメリカにとどまらず、ヨーロッパや韓国、中国、東南アジアなど世界中に広がっています。
日本ではまだまだ「シェアプラットフォーム=海外のサービス」という認識が強いですが、私が事務局長を務めている「シェアリングエコノミー協会」に属するシェアサービス企業は約280社、そのうちの9割以上が日本の企業です。

日本発のシェアサービスも、これからますます普及・発展していくだろうと考えられます。

シェア時代には「信頼」がカギ
これまでのBtoCモデルでは、企業の評判や、国や業界が定めたサービス水準の指標などで、サービスの提供企業を信頼することができました。
一方、個人間、とくにインターネット上でのやり取りでは、「何をもって提供者を信頼できるのか?」ということが課題になります。
そのための新たな方法が「レビューシステム」。
いわば個人間の「食べログ」評価のような機能です。

これまで相手と実際に会って相乗りをしてもらったり、宿泊場所を提供したりしたことのある人がつけた評価やコメント。
これによって、「信用できるかどうか?」が可視化され、次にやり取りする人が判断材料とすることができるようになりました。
逆に言えば、どんなにお金があって社会的地位が高くても、信頼を獲得できなければ、シェアというコミュニティーや取引への参加は難しくなります。

シェアという概念では、この「信頼」をどう捉え、私たち一人ひとりがどう再定義できるかがカギになります。

シェアが生み出す新しい価値
――それは、「これまで価値だと思われていなかったことが、価値になること」です。
例えば、住む人を失い何十年もそのまま放置されていた空き家や廃校などを、民泊やゲストハウスとして生まれ変わらせるなどの事例があります。
「企業が利益のために行う事業」という視点だと、需要が小さすぎてサービス価値として見なされなかったようなニッチな物事。
それが、それを必要としている人と、それを活かせる知識や経験を持っている人とがプラットフォームを通じて出会うことで、新しい価値を生み出せるようになりました。

また、個人に視点を向けてみると、個人としてサービスを提供できるようになったことで、「自分でも気づかなかった得意なことや経験が、誰かのためになり、価値として交換できる」ようになります。
例えば、一般の主婦の方などが他の家庭の家事を行うシェアサービス「タスカジ」では、これまで家庭のためにやっていた整理整頓法を、依頼された家庭で実践したところ、大変喜ばれ、口コミが反響を呼び書籍を出版するなどの事例もあります。

制約からの自由、所有しない幸せ
家事や子育て、介護もそうですが、今、家庭の中にあって収入にならないと思われている仕事だって、本来は誰かのためになる価値であるはずです。
シェアプラットフォームによって、そのような価値を「見える化」すれば、やっている本人も必要としている人も、その意義を確かめ合うことができます。
シェアすることで、あらゆる制約から解放され、もっと身軽に、不自由さを感じずに生きていくことができる。
私はそう考えています。

家、車、洋服……これまで私たちは、生活に必要な「よりよいモノ、より質の高いモノ」を得るために一生懸命働いてきた。けれど、その結果、自由な時間は減り、捨てられないモノが増え、それが自分を不自由にしていることに気づきはじめているのではないでしょうか。
「今すぐ海外に住みたいのに決められない……」
「今すぐ会社を辞めたいのに、辞められない……」
今の生活を維持するために所有してきたモノは、今の生活を変えたいときには心理的・物理的ハードルになってしまうのです。
しかし、生活においてあらゆるモノを共有すれば、好きな時間に好きな場所で好きなだけ利用したり、一時所有したりすることができる。
毎日の生活をシェアに変えることで、モノを所有することでの不自由さや、自分を制約しているものから解放され、もっと自由に、新たな豊かさを得ることができるのです。
新たな豊かさとは「つながり」 そして、シェアすることで生まれる最も大きな価値は「つながり」です。

つながりが、お金や社会的ステータスのような、これまで個人の資産とされてきたものと同じ価値をもつ時代がきたのです。私はこれを「つながり資産」と呼んでいます。
つながりを資産だと捉える考え方は、「社会関係資本=ソーシャルキャピタル」ともいわれています。
アメリカの政治学者ロバート・パットナムは、人々が他人に対して抱く「信頼」、それに「お互いさま」「持ちつ持たれつ」といった言葉に象徴されるような「互酬性の規範」、人や組織のあいだの「ネットワーク(絆)」を「ソーシャルキャピタル」と呼び、個人にも社会にも利益をもたらすものであると提唱しています。

現代のような先行き不透明な時代において、確かな安心を買える資産こそ、「つながり」です。
何かあったら手を差し伸べてくれる人が思い浮かぶこと
――明日、もし地震が起こっても、泊まらせてくれる家や、助けてくれる人のつながりがあること、信頼できて気軽に頼れるコミュニティーがあること――
そのようなつながりを増やしていくことが、これからの時代を生きる上での重要な資産になるのだと確信しています。
そして、その「つながりをどれだけ貯められるか」が、これからの新たな「豊かさ」の指標になるのではないかと私は考えています。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☁ | Comment(0) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする