「普通の家庭の子」の精神が追い詰められるワケ
7年間、うつを経験した医師が語る実際
2019/02/28 東洋経済オンライン
宮島 賢也 : YSこころのクリニック 院長
最近、小中学生の間で、うつなど「心の不調」が増えているようだ。
ネットやSNSの普及による情報化が進んで、対人関係に代表される「大人と同じストレス」に遭遇しやすい世の中になったことに、その一因があるとも考えられている。
この記事では、今の小中学生を取り巻く生活環境をふまえながら、新刊『うつぬけ精神科医が教える 心が折れない子を育てる親の習慣』を著した精神科医・宮島賢也氏に、子どもの心を守るために「親はどう行動すべきなのか」を教えていただく。
この宮島医師自身、かつて7年間うつを患っていたという経験を持つ。
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「ごく普通の家庭」で育っているのに…
「うちは子どもに愛情を注いで育ててきたつもりだ」
「自分で言うのもなんだけど、わが家はいい家庭だと思う」。
お子さんのことで悩みながらも、このように考える親御さんは少なくありません。
では、虐待があるわけでもない、夫婦ゲンカが絶えないわけでもない、いわゆる「ごく普通の家庭」で愛されて育ったお子さんでも、「心が折れてしまう」ことがあります。
いったいなぜでしょうか。
「母原(ぼげん)病」という言葉があります。
これは、母親の育児が原因で、子どもの病気や問題を引き起こしてしまうことを言います。
もちろん、お母さん方を責めるつもりはありませんが、子どもを愛しているのは事実でも、子どもを「囲ってしまう」ような愛し方に問題があるのです。
これは知り合いから聞いた話ですが、客船に乗っていた際、日本人の親と外国人の親の、子どもへの接し方の違いに驚いたと言います。
日本人の親は、子どもが船上で遊んでいると、危ないところに行かないようつねにそばにいる。
一方、外国人の親は、子どもを自由に遊ばせ、本当に危ないときにだけ、さっと駆けつけるのだそうです。
私は、子育てもこれに近いと思っています。
本当に危険なときは当然守るべきですが、危ない目や嫌な目に遭わないようにいつも先回りしたり、問題が起きたときに親のほうで解決したりすると、「生きる力が弱い子」にもなりかねません。
親自身が「親に愛されていなかった」
痛い思いや失敗を経験して、人は「生きる力」を育んでいきます。
例えば、公園で子ども同士が遊んでいてケンカをしても、最近はすぐ親が介入してしまいます。
おもちゃを取った取られたという程度のことでも、すぐに親が「謝りなさい」と言ったり、「だめでしょ!」と注意したりする。
なかには子どもに代わって謝ってしまう親御さんも。
もちろん、事の状況次第で解決策も変わるでしょうが、親の過度な介入は、子どもの「心の成長」の機会を奪うことになります。
では、本当に親御さんの育て方に問題があるのかというと、そうではありません。
実は「親御さん自身の育てられ方」に問題の根源があったりするのです。
クリニックで親御さんに話を聞くと、ご自身が「親に愛されていなかった」という方が多いと私は感じています。
愛されていなかったといっても、虐待や放任などだけではなく、親に育てられていくなかでそう思い込んでいった、というものです。
例えば「母はいつも兄ばかりかわいがっていた」とか「父はいつも怒ってばかりいた」というようなこともそうでしょう。
一言でいうと、親御さん自身も忘れている「過去の記憶」が、自分自身の子育てに影響しているのです。
過去の記憶は、コミュニケーションにおける1つのパターンになっていきます。
無意識に自分が親にされていた接し方を繰り返していることもあれば、逆に、親にされたことが嫌だったから、自分は子どもに同じことをしたくないと思っている場合もあります。
でも、どちらのパターンも親御さんが自分の親から影響されていることに変わりはなく、過去の記憶が蓄積した結果です。
親を反面教師にしている場合も、親にされたことをひっくり返しているだけ。
一見、愛にあふれているような子どもへの接し方も、実は、親御さん自身の「過去の記憶」の影響を受けているのです。
子どもを追い詰める「ダブルお母さん」
ところで最近、「2人のお母さん」がいるご家庭が目につくようになりました。
これまでは、「教育ママ」という言葉もあるとおり、子どもの塾や受験について調べたり、勉強に干渉したりといった、いわゆる「教育熱心」なのは母親がメインだったと思います。
私自身、母親が教育熱心すぎて、子どもの頃に苦しんだ経験があるのでよくわかるのですが、最近は「教育熱心な父親」も増えてきました。
それが「ダブルお母さん」現象です。
家の中に口うるさいお母さんが2人いる、そんな状態です。
子どもが家にいるとき、母親だけでなく父親もあれこれ干渉してくるとなると、子どもは家での居場所を失っていきます。
子どもに選択の余地がない状態にさせている
家に帰りたくないお父さん「フラリーマン」も最近話題になっていますが、フラリーマンは、家に居場所がなくても職場や外に居場所があります。
でも、子どもは家にも外にも居場所はなく、心が満たされない状態が続きます。
「ダブルお母さん」がいるご家庭は、両親が子どもによく接している分、周囲からは「いい家庭」に見えることもあります。それどころか、親御さんも「わが家はいい家庭」だと思っている。
でも、肝心な「子どもの心」は置き去りです。
子どもは親の「言葉以外の部分」を察している 「過保護」の親とその娘をユニークに描いた『過保護のカホコ』というテレビドラマがありましたが、親の過保護が「過干渉」までいくと、子どもの決定権はほとんどなくなってしまいます。
親が先回りしてなんでも決めてしまう。
あるいは、それしか選択できないような提案をしている場合も。
「こうしなさい」とは言わなくても、「こうしたほうがいいよね」「そっちがいいんじゃない?」と提案しているようでいて、結果的には子どもに選択の余地がない状態にさせていることがあるのです。
もちろん、「親の言うことを聞いてよかった」というお子さんもいますが、なかには自分の気持ちを押し殺し、ため込んでしまうお子さんもいます。
でも、たまったものは、いつか爆発します。
自分自身で爆発する子もいれば、ため込んだまま大人になり、自分自身の子育てのとき、そのお子さんのトラブルとなって爆発する場合もあります。
子どもは言葉以上に、親の言葉以外の部分を感じ取っています。
「私はなんでも子どもに決めさせている」と言う親御さんもいますが、「自分で決めていいんだよ」と子どもに言いながら、目つきや雰囲気で「選択肢はこっちしかない状態」にしていることもあるのです。
言葉に出さなくても、子どもは敏感に「こっちを選んでほしいんだろうな」という親の思いを読み取ります。
親が想像する以上に、子どもは親の気持ちを察しているのです。
親子の関係は、短く見積もっても10〜15年はあります。
その間、子どもは親の背中を見て育っていく。
ですから、口では言わないことも無意識のうちに感じ取りますし、すべて子どもの「潜在意識」の中に入っていきます。
子どもが何歳であっても、過度な干渉はおすすめしません。
小さい頃から干渉しすぎると、一見しつけはうまくいくかもしれませんが、親の顔色をうかがう子どもになってしまいます。どんなに小さな子どもでも、何もわからない人として扱うのではなく、生きる力を持っている1人の人として、自分の人生を自分で決めていくためのサポートをしていくことが大切だと私は思います。