大阪入れ替えダブル選挙の暴挙に出た維新。橋下徹も政界復帰か?
2019/03/22 ハーバービジネスオンライン
◆「選挙の私物化」。ダブル選挙に踏み切った松井知事
大阪府知事・市長のダブルクロス(入れ替え)選挙の構図が確定した。
維新と公明が決裂した大阪都構想法定協議会の翌3月8日、松井一郎・大阪府知事(維新代表)と吉村洋文・大阪市長(維新政調会長)が記者会見。
松井知事が市長選に吉村市長が府知事選に入れ替わりで出馬することを表明した。
4年前の大阪府知事・市長の公約である大阪都構想の再住民投票が、公明党の方針変更で実現困難となったとして「このままでは死んでも死に切れない」松井氏は強調。
「公明党に騙された」と批判しながらダブル選挙に踏み切ったのだ。
これに対して自民党は、府知事候補に小西禎一・元大阪府副知事、市長候補には今夏の参院選候補だった柳本顕・元大阪市議を擁立。
公明党も府本部レベルながら両候補を推薦すると、立憲民主党も3月16日に自主支援の方針を決定。
共産党も支援を検討している。
◆菅官房長官と松井知事の「蜜月関係」
今回、自民党と野党が連携して維新と対決することになったが、辺野古新基地阻止のために保革が手を結んだ沖縄県知事選に似た「中央(官邸)」対「地方(自治)」という構図ともいえる。
地元記者は「菅官房長官と松井知事の“蜜月関係”がカギ」とこう解説する。
「1月中旬に原田稔・創価学会会長と佐藤浩副会長と谷川佳樹主任副会長の3人が大阪入りし、会合を持って大阪都構想をめぐる対応について話し合いをしました。
菅義偉官房長官と親密な佐藤氏は維新との対決、つまり法定協議会での決裂に否定的だったようです。
しかし谷川氏は『決裂やむなし。維新と戦うべき』と主戦論を訴え、原田会長も同調したと聞いています。
そして3月1日に公明党府本部と創価学会の幹部が大阪で会合を開いて決裂容認の方針を確認、大阪ダブルクロス選に突入することになったのです」
◆「終わった話」を蒸し返す愚
松井知事が橋下徹・前大阪市長と面談を重ねる菅官房長官と、公明党に影響力を持つとされる佐藤副会長の2人は、去年2月の名護市長選6月の新潟県知事選や9月の沖縄県知事選などの重要選挙に関わってきたが、大阪でも動いた可能性があるというのだ。
地元記者はこう続けた。
「これまで菅官房長官は公明党と維新の両方に寄り添いながら、飼い慣らしてきました。
創価学会の組織力を有する公明党と国政選挙や地方選挙で連携する一方、維新からも与野党対決法案での国会審議や改憲論議での協力を引き出してきたのです。
公明党が妥協して住民投票が実現した2015年と同様、今回も菅長官・佐藤副会長コンビが維新と公明の決裂回避に動いたのは間違いないでしょう。
しかし、今回は決裂回避とならなかった。
前回は橋下市長(当時)が『総選挙に鞍替えをして、公明党現職の選挙区から出る』と啖呵を切っていましたが、今は政界引退中で維新のパワーダウンは否めない。
国政選挙でも議席を減らし続ける落ち目の維新に対して、公明党府議や市議が主戦論に傾いて『いま維新と手打ちをしたら統一地方選が戦えない』と妥協を拒否したようです」
2015年は中央の菅官房長官と佐藤副会長の思惑通りに決裂回避で住民投票実現となったが、同年11月に「否決なら辞任」と明言していた橋下市長が辞任(政界引退)、維新のパワーダウンで地元の公明党を抑えきれなかったというわけだ。
「しかもダブル選挙の大義名分である大阪都構想への住民の関心も低くなってしまった。
2015年の住民投票で一度否決され、『大阪都構想はもう終わった話』と冷めた目で見ています」(地元記者)
それでも2017年のダブル選挙で再度の住民投票実施を掲げて当選した松井知事と吉川市長は、諦めようとしていない。
法定協議会で、府議会と市議会での過半数確保のカギを握る公明党が消極的姿勢に転じたのを見た維新は、住民投票への協力を記した「密約」を暴露したが、逆に公明党の態度硬化を招いて全面対決に至ってしまったのだ。
◆大阪万博&カジノ誘致を餌にしたい維新
そんな維新が追い風にしようとしているのが、2018年11月23日の2025年の大阪万博開催決定だ。
博覧会国際事務局の総会が開かれたパリで開催決定を祝った松井知事は11月25日に帰国した際、「吉村市長と僕だからできた。
これを制度にするのが大阪都構想だ」と大阪都構想実現に意欲を示した。
しかし開催決定の翌24日、共産党の辰巳孝太郎参院議員(大阪選挙区)は、ツイッターでこう批判した。
「これで大阪は万博を口実にした、カジノのための巨額インフラ投資等を行おうとするだろう。
カジノ企業は高笑い。
カジノ単体では巨額インフラ整備等を正当化するのは無理があるからこそ万博の誘致があった。
万博オフィシャルパーにカジノ企業5社が名を連ねている事が全てを語っている」
地元住民の関心が薄れた大阪都構想を、万博誘致の熱気で蘇らせようとする松井知事。
これに対して辰巳議員は「万博はカジノ関連の巨額インフラ投資の口実」と指摘した。
実際、大阪万博では会場整備に1200億円超(国と大阪府市と民間が負担)、運営費に800億円、交通インフラ整備も700億円以上と試算されている。
松井知事と吉村市長は2017年9月1日、トランプ大統領の大口献金業者で米国カジノ大手の「ラスベガス・サンズ」のアデルソン会長と非公開で面談。
カジノ面積上限規制に懸念を表明したと報じられた。
すでに吉村市長は「(カジノ建設候補地である)夢洲への鉄道延伸費用200億円負担がカジノ業者選定の条件」という方針を打ち出している。
これには、甘いカジノ規制(面積上限撤廃や貸金業規制法の特区扱いなど)と引き換えに海外カジノ業者に200億円ものインフラ整備費を負担してもらおうとする狙いが透けて見える。
否定的な見方もある万博開催を拠り所にして大阪都構想実現を正当化することに対しては、当然、賛否が割れても不思議ではないだろう。
◆橋下氏がお得意の前言撤回で政界復帰の可能性も!?
そこで筆者は3月8日の記者会見で松井知事に対して、カジノと一体の大阪万博のマイナス面について質問したが、「そうならないように対策を講じる」と回答した。
また「菅官房長官とどんな話をしたのか」とも聞くと「一国の官房長官と大阪都構想のことについての話はしていない」と働き掛けを否定した。
さらに政界復帰が取り沙汰される橋下氏への「支援依頼はしない」と強調する松井知事に対して、「大阪都構想について、橋下氏と最後にいつどういう会話をしたのでしょうか。
橋下氏も公明党への怒りを露わにするコメントをしていましたが」とも聞いたが、松井知事は「橋下氏は私人」「今年に入って食事をしたり、話をしたりしているが、大阪都構想について最後にどんな話をしたのかは覚えていない」と具体的内容を話すことは控えた。
『文藝春秋』1月号で赤坂太郎氏は「大阪万博誘致成功も橋下の背中を押す。もしダブル選挙となれば、ミクロの『大阪万博』とマクロの『改憲による統治機構改革』を掲げて戦う名分が立つからだ。
橋下の持論である『強い野党』を、もう一度つくり直す好機が到来するのだ」と政界復帰の可能性が高まりつつあるとの見立てを紹介していた。
大阪ダブル入れ替え選挙だけでなく、官邸からしてみれば「御用野党」として動いてくれる都合の良い存在であり、日本の政治になぜか影響を与える橋下氏の動向が注目される。
<取材・横田一> ジャーナリスト。
小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」に関する発言をまとめた『黙って寝てはいられない』(小泉純一郎/談、吉原毅/編)に編集協力。
その他『検証・小池都政』(緑風出版)など著書多数