2019年03月24日

自衛隊の「武器・弾薬・燃料・人員」は十分か?

自衛隊の「武器・弾薬・燃料・人員」は十分か?
2019年03月23日 SPA!(小笠原理恵)

◆防衛予算は外側を増加させ中身は常に削減
 アメリカの軍事力評価機関であるグローバル・ファイヤーパワー(Global Firepower)社が発表した最新の世界各国の軍事力比較(2019 Military Strength Ranking)によると、
ランキング1位は米国、2位がロシア、3位が中国となり、我が国は昨年の8位から順位を上げて6位となりました。
この比較は装備品を中心とした比較であり、実際に装備体系や作戦遂行能力で比較すれば、自衛隊のレベルはもっと上だと考えられます。

 確かに日本は世界有数の軍事大国であり、対中国やロシア相手では厳しくとも、北朝鮮や韓国には引けを取らない強い軍隊を持っているような気がします。
我が国の自衛隊も自衛官も優秀なのです。
 しかし、この数字を見て安心してはいけません。
実はこの数字に全く反映されていない重大な要素があるのです。
それが武器・弾薬・燃料・人員といったロジスティクスの問題です。

 旧日本軍も零式艦上戦闘機など当時としては長大な飛行能力を持ち、優れた機動力を持った装備品を多く保持していました。
旧軍では前線の搭乗員は交代がないため疲弊し切ったまま戦わざるを得ず、物量・要員・休養において十分な米軍機に圧倒されてしまいました。
結果として優秀な装備品や訓練された優秀な人材を失い、多大な損害を出しました。

 このようにわずかしかいない人材に休養を与えず、無理な運用を続けるやり方は、現在の自衛隊にも引き継がれているように思えます。
自衛隊も武器・弾薬・燃料・人材が足らない状態を長年我慢してきました。
 かつて旧日本軍は「断じて行えば鬼神も之を避く」と檄を飛ばしましたが、実際の現場では食料、弾薬、基地を構築するための資材を渇仰していました。
後方支援がなければ壊滅することは明らかだったのです。

根性や努力という精神論では戦争には勝てないことは前の大戦で証明されていますが、兵站や人員・後方支援を軽視する我が国の姿勢は今も変わっていません。
 あれほど手痛い敗戦を経験したにも関わらず、自衛隊に対する予算の充当は、正面装備の調達を重視せざるを得ないため、今なお弾薬・燃料や修理費等については必要最小限とされています。
「そんなんじゃ、ツライ!」と思います。

 現政権になってから防衛予算は少しずつ増えてきており、銃砲弾薬類の不足については、価格も安く大量生産可能なのでかなり改善されました。
しかし、問題は魚雷やミサイルなどの高額の弾薬です。
以前この連載で「自衛隊員の実弾射撃訓練の回数は、クレー射撃の選手よりも少ない」という悲しい現状をレポートしたことがありますが、ミサイル攻撃や魚雷発射などの訓練についてはさらに回数が限られます。

◆武器弾薬人員めぐる惨状  
月刊『正論』4月号に元一等海佐の星山良一氏が「防衛予算増やせども・・・武器弾薬人員めぐる惨状」という驚くべき内容の記事を寄稿しています。
その中で「訓練弾すら十分に充当できない現状を考えれば実弾が十分に満たされているかについては疑念を抱かざるを得ない。
仮に充足されていたとしても、ミサイルや魚雷などは定期的に分解整備する必要があり、その分を含めた予備弾が確保されていなければならない。

現政権になって防衛関係費は増額されているものの、F-35やイージスアショアなど正面装備にかかる経費が増えているため、艦艇修理費などの後方経費は毎年削減されている。」と記されています。

 さらに、「弾薬庫における保管数には、換爆量と保安距離等に関する規則による限度がもうけられている。
弾薬庫の数が昔と大して変わらない現状からは、必要十分な弾薬が備蓄されているとは考えにくい」という具体的な恐ろしい現実も書き記されていました。
 実際に、弾薬庫建造については多数の計画はあったものの、政府の予算削減・合理化の流れの中で計画は次々中断されています。
また、予定地候補にできそうな防衛省の土地建物もどんどん売り払われています。
このまま国の土地の売却が続けば、基地や駐屯地との補給ラインが整った場所が残っているでしょうか。
我が国には「国有地を売却して、国庫の黒字化に努めるべき」という感覚がありますが、それは一方で国家存亡の危機に国防や救助に使える候補地を減らすことにもつながっているのです。

◆「火薬類取締法」という厳しい法律
 また、我が国には弾薬保管に関し「火薬類取締法」という厳しい法律があります。
自衛隊もこの法律に則った弾薬備蓄庫を作らないといけません。
つまり、相応する広さの土地と予算がなければ弾薬数を増やすための保管場所すら作れず、入れ物がなければ備蓄する弾も買えないということです。
 たとえば、宮古島に陸上自衛隊が配備されましたが、弾薬庫建設に対して反対運動が起こっています。
住民への同意を得て弾薬庫を作るにはかなりの歳月がかかります。
いくら自衛隊が優秀でも備蓄する弾薬庫がなく、弾が無ければ何もできません。

国防力には十分な備蓄が不可欠なのです。
 なお、この「火薬類取締法」は自衛隊の弾薬輸送時にも適用されます。
高速道路などで自衛隊車両が「火薬類取締法」で定められた危険物のしるしをつけて弾薬を運んでいる姿を見かけますが、平時には問題ないでしょうが、有事にはこれは敵にとっては絶好の「マト」となります。
テロリストが我が国を狙っているなら、このことには気づいているはずです。

◆テロの危険性も高まる
 天皇陛下の譲位に伴う行事や東京オリンピックなど、我が国には外国の賓客をお迎えする行事が目白押しです。
それらは重要な国家行事であり、経済効果とともに外交上の大きな進展をもたらすことが期待されますが、反面、テロ等の危険性も高まるでしょう。
 自衛隊の「武器・弾薬・燃料・人員」の問題は簡単に解決できるものではなく、毎年毎年備蓄できる環境と相応の予算を積み重ねて初めて可能になるものです。

 旧日本軍の悪しき伝統であったロジスティクス軽視を、今も我が国が引きずっていることを悲しく思います。
朝鮮半島情勢はなお流動的であり、在韓米軍の機能が日本に移ってしまうことも十分あり得るのです。
対馬海峡が防衛線となったその時、我が国は自国を防衛できるのか、そのための後方支援がこんな有様でいいのかととても不安です。
 歴史を振り返って反省し、学ぶことはいつの時代にも必要です
我が国が次の御代を迎え、さらに繁栄するためには私たちの子供達が暮らす我が国を守らなくてはなりません。
考えてないといけない課題はまだまだ山積しているのです。


小笠原理恵】 国防ジャーナリスト。
「自衛官守る会」顧問。関西外語大学卒業後、報道機関などでライターとして活動。
キラキラ星のブログ(【月夜のぴよこ】)を主宰
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☔ | Comment(2) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする