何もしない人より"失敗する人"がいい理由
2019年05月07日 PRESIDENT Online
■松永安左エ門に言われた一言
誰かが偉くなるとか、社長になるとか、人の将来なんて見た目だけではわからないものです。
スポーツの場合、素質の有無は早いうちにわかりますが、それでも素質がある人が必ず成功するとは限りません。
ビジネス界だって、「あれ? あいつ、社長になっちゃったよ……」というようなケースは少なくないのです。
ただ、私の目ではわからないものが、女性にはわかることもあるようで、芸者さんなどは「この人は見込みがあるかも」と一瞬で見分けます。
私は貧乏だった頃、某店の女将に可愛がられて、10年ぐらい未払いのまま飲ませてもらっていました。
最後は柿の種しか出てこなくなりましたが(笑)、1999年に国内市場より先に米国ナスダック市場で株式を公開したら、「そろそろ払える?」とさっそく電話がかかってきました。
私は酒ばかり飲んできた行儀の悪い人間ですから、目の前の相手が偉いとか偉くないとか、気にしたことがありません。
そのわりに、なぜか世間的に有名なおじいさんたちから可愛がられてきました。
学生時代、「電力王」と呼ばれた実業家、松永安左エ門さんと飲んだことがあります。
そのとき松永さんから
「若いうちはあまり肩書のある人間と会うもんじゃないよ。お互いつまんないんだから」と言われました。
話題が合わないし、若いほうは緊張するだけ。 なるほどと思ったものです。
そのくせ、30代になると偉い人たちと飲むようになりました。
NECを日本最大のパソコンメーカーに育てた関本忠弘さん(元相談役)とは、2人でジンを1本空けて、酔っ払って言い合いになりました。
ホンダ創業者の本田宗一郎さんには「おまえ、生意気なことを言うな」とポカッとやられました。
殴っておいて「これも愛情だ」などと言うので、「愛情はいらないから、痛いのは嫌だ。僕はホンダの社員じゃない」と文句を言ったものです。
若くして亡くなられましたが、東京電力の副社長だった山本勝さんにも、大変お世話になりました。
山本さんは若い人を可愛がり、私が素人ながら通信事業を始めたときにも「面白い」と見にきてくれた方です。
豪胆でいて気配りは万全、私も含め多くの人から尊敬を集めていました。
みなさん、私のような生意気な若造に、よく我慢してつきあってくれたと思います。
■いい子だけど、ちょっと弱い
運というのは大事なもので、偶然や運がないと大会社の社長になどなれないでしょう。
私は、自分は運の悪い人間だと思っています。
運が悪いからインターネットなどをやってきたので、「日本が世界から遅れちゃいけない」と思って立ち上がったものの、なかなか理解されず、それでもやっと仕組みができたのでやめようと思ったら、それもできなくてずるずる続けてきました。 ただ私の昔の仲間には、世の中で知られるようになった人が大勢いて、「もしかすると自分は人に運を与えるタイプなのかな」と思ったりします。
ただ、今の若い人を見ていると、運不運の前に努力しない人が多いと思います。
人間は努力の結果で変わるもの。
大成するためには、変わっていく要素がいります。
優秀な人でも、自分の殻にはまってしまうと伸びません。
逆に見かけがチャランポランでも、そういう精神を持った人もいます。
自分を変える努力ができたうえでの運であり、成功なのです。
人間は本気で努力するときには余裕がなくなり、目が吊り上がってきます。
上に行く人は、必ずそういう経験をしています。
そこは、傍から見ていてもわかりますね。
今のIIJの社内にも、失敗ばかりしているけれども、「こいつ、面白いな」と思う人がいます。
会社としては失敗するより成功してもらうほうがいいわけですが、私は「失敗する人は、何もやらない人よりはるかに見込みがある」と思っています。
何もしなければ、何も起きません。
何か1つ、自分の持っているものを活かせればいいのです。
そういう人を我慢して見守ってやるのが、上の人間の役割です。
一方で「いい子だけど、ちょっと弱いな」という人もいます。
仕事はやればやるほど増えていくもの。
そこを耐えてやり切るか、自分に甘えてしまうかです。
今の日本は、まだ長期雇用の慣習が残っていて、ホワッとしていても生きていける国かもしれません。
それでも向上心のある人は、本気で突っ走って壁を乗り越え、一皮剥けて変わっていくものです。
▼鈴木流 一流の条件
●殻を破ろうとしているか
●失敗しているか
●甘えずに仕事をやり切るか
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鈴木幸一(すずき・こういち) IIJ会長(CEO)
1946年生まれ。早稲田大学文学部卒業。
日本能率協会等を経て92年、インターネットイニシアティブ企画(現IIJ)設立。
94年IIJ社長。
2013年より現職。
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