安倍御用言論人のウソ「消費増税延期」説を信じるな
2019年05月13日 SPA!(倉山 満)
◆にわかに「消費増税延期」などと観測気球が
統一地方選と衆議院の補欠選挙が終わった。
統一地方選では、全体的に自民党は堅調だった。
地方議員は、地元と密着しているかが重要であり、個人の日常活動が問われる。
一方で、政党の力量が問われる選挙が国政選挙だ。
大阪と沖縄で行われ、0勝2敗。
さらに、大阪府知事と大阪市長選挙も行われ、0勝2敗。
自民党は他の全政党と包囲網を組みながら、日本維新の会に完勝を許した。
維新は、大阪府議会では過半数、市議会でも圧倒的多数の第一党を獲得した。
ここまで含めると、0勝4敗である。
明らかに、安倍自民党の驕りに対する、有権者の不満のマグマが渦巻いている。
そして永田町には、またぞろ解散風が吹き始め、「消費増税延期を公約に、衆参同日選挙」だの、「延期ではなく、減税」だのと観測気球が上がり始めた。
沖縄と大阪は、もともと自民党が劇的に弱い地方なので、「予定通りの敗戦」のはずなのだが、誰が何のために流しているのだろう? と訝かしむかもしれないが、答えは簡単だ。
安倍御用言論人が商売のために流して、世を惑わしているだけだ。
◆安倍御用言論人のウソ
だいたい、そういう風説を流す安倍御用言論人を見ろ。
一人残らず、詐欺師の顔をしている(苦笑)。
そういう輩に限って、「4月までに増税延期を決断しなければ、増税は確定する。
しかし、それまでは安倍首相が増税を決断したなどと決めつけるな」と言いふらしていた。
そうして、批判を封殺してきた。
2017年衆議院選挙、2018年自民党総裁選挙、そして今年度の予算には増税分の財源を盛り込んでいる。
安倍首相は自ら「今度こそ消費増税をやり抜く」と何度も言い切っている。
本人がやると言っているのに、安倍御用言論人がこれまでの支持者をつなぎ留めようと嘘を振りまいているのだ。
しょせん、そいつらも商売だから大人の態度で冷ややかな目で見ればいいではないかとも思うが、知らない人は騙されるだろう。
◆なぜ自民党は増税をしたいか?
では、なぜ自民党は増税をしたいか?
最大の理由は、財務省に逆らえないからだ。
財務省は、国家の意思である予算を握っている。
仮に逆らえば容赦なく税務署が飛んでくる。
何より、自民党の政治家は政治の素人の集団なので、財務官僚に作文を書いてもらわねば何もできない。
自民党議員が、どれほど頭が悪いか。
彼らは勉強熱心である。
どんなに勉強しても成績が上がらない受験生のように。
自民党の議員は朝早くから、それこそ6時や7時から「朝食会」と称して、熱心に勉強している。
そこで何をしているのかと言われれば、官僚の話を聞いているのである。
官僚が間違えたり嘘をついたりしたら、どうするのか?
そもそも官僚とは、ポジショントークから逃れられない生き物である。
ご説明している本人が信じていない内容も、役所の立場として仕方なく熱弁している場合も多々あるのだ。
だからこそ、政治家は官僚に会う前に自分で勉強して「頭を作って」いなければならないのだ。
ところが、自民党は官僚機構をシンクタンクとして重宝している。
本場の欧米では、官僚機構の情報に対抗できる民間人の知見を集積するからシンクタンクなのだが、官僚から情報を貰って喜んでいる自民党は、絶望的に頭が悪い。
◆政官財、それぞれの劣化
政治家にとって、増税の最大のデメリット(リスク)は、選挙で負けることだ。
しかし、自民党には守護神がいる。
野党だ。
昔は、社会党。今は民主党が、名前を変え分裂しながら自民党を支えてくれている。
この体たらくの安倍内閣を倒せないなら、もはや自民党政権は永久に続くようなものではないか。
マトモな野党が存在しない以上、自民党議員であり続ける限り、落選はない。
ならば、財務省からおこぼれを貰って後援会や業界にバラまいたほうがいい。
こんなことを続けてきたので、今や支持者から「補助金をとってこい」「増税に反対なんかすると、予算貰えないじゃないか」と文句を言われるようになる有り様だ。
これを「政官財の鉄のトライアングル」と呼ぶ。
業界人は自民党に政治献金をし、当選させる。
政治家は当選させてもらった見返りに、財務省から予算を貰ってくる。
今や、「財務省>自民党>業界」の力関係が確立してしまった。
理由は三者ともに劣化したが、特に罪が重いのが財界人だ。
まず政治家など、ここで取り上げるだけ時間の無駄だ。
選挙が忙しくて政治ができない人たちなのだから。
しょせん官僚は人に使われるのが仕事だ。
使いこなせないほうが悪い。
◆製造業や中小企業までが増税賛成…死にたいのか?
かつて、政治家や官僚が誤りそうになった時、厳しく意見を述べるのが財界人の役割だった。
実際、識見を持った財界人がいた。
絶頂期には、「財界四天王」と呼ばれる人たちがいた。
別名、「小林中(あたる)と三人の子分たち」である。
その三人の子分とは、桜田武経団連会長(日清紡社長)、永野重雄商工会議所会頭(富士製鉄社長)、水野成夫経済同友会幹事(産経新聞社長)。
いわゆる経済三団体の長である。
そして小林自身は、日本開発銀行やアラビア石油などの社長も頼まれて務めたが、「一介の素浪人」を名乗っていた。
愛国財界人なので、権力者に己の信じた正しいことを伝えるのが使命と心得ていたからだ。
吉田茂内閣末期。
造船疑獄で吉田首相は政権に見苦しくしがみついていた。
これを見かねた小林は三人の子分を引きつれ、退陣勧告に赴いた。
20歳以上も年上で恩人の吉田に向かって、「アンタ、老害だからやめろ」と言いに行ったのだ。
ほどなくして、吉田は身を引いた。
池田勇人に対しては、「お前の政治資金など全額みてやるから、高度経済成長をやれ!」と要求した。
池田も心得たもので、喜んで飛びついた。
池田自身も財界人や官僚、学者などあらゆる人の話を聞き、自身が勉強して高度経済成長が日本に必要だと確信していたからだ。
小林に言われるまでもなく、反対派の政治家や官僚を説得していった。
ところが今や、この状況で製造業や中小企業の経営者までが増税に賛成だ。
死にたいのか?
自分の仕事もわかっていないのか?
今の日本がダメな国なのは、金持ちに識見がないからだ。
これからは教養がある人間が金を儲けて、正しく使うしかない。
【倉山 満】
憲政史研究家 ’73年、香川県生まれ。
’96年中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程を修了。
在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤職員として、’15年まで同大学で日本国憲法を教える。
’12年、希望日本研究所所長を務める。
同年、コンテンツ配信サービス「倉山塾」を開講、翌年には「チャンネルくらら」を開局し、大日本帝国憲法や日本近現代史、政治外交について積極的に言論活動を展開。
ベストセラーになった『嘘だらけシリーズ』など著書多数