2019年05月20日

煙たがられる「頑固者」に誰もが傾いていくワケ

煙たがられる「頑固者」に誰もが傾いていくワケ
年を重ねたベテランが陥りやすい「落とし穴」
2019/05/19 東洋経済オンライン

保坂 隆
: 聖路加国際病院診療教育アドバイザー

精神科医で、聖路加国際病院診療教育アドバイザーを務める保坂隆氏は、先頃刊行した著書『精神科医が断言する 「老後の不安」の9割は無駄』において、定年前後のシニア世代に向けた「生き方のヒント」をわかりやすく語っている。
その内容は、働き盛りの40代・50代にとっても“ハッとさせられる”内容が多い。
そこでこの記事では保坂氏に、「世の40代・50代がシニアになる前に知っておいたほうがいいこと」について教えていただく。
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「頑固なベテラン」にならないための大事な考え方
40代や50代の、いわゆる「ベテラン」世代の人たちが「これからの自分」をイメージしたとき、いったいどんな自分が思い浮かぶでしょうか。
「経験を積んで、歳を重ねるごとに性格もおおらかに、穏やかになっていたい」と思うのが一般的かもしれません。

ただ、実際に周辺を見まわしてみると、他人の言うことになかなか耳を貸さない、頑固な人も少なからずいるのではないでしょうか。
人は年齢を重ねるにつれ、新しい発見や出会いがしだいに少なくなっていくのと同時に、「自分の地位や立場を守りたい」という思いがより強くなって、本来は頭の柔らかい人でも、つい保守的な考え方に傾きがちです。
さまざまな経験を重ねてきたばかりに、自分の考えや流儀にかたくなにこだわるようになって、その思い込みがさらに強くなると、自分の周囲に見えないバリアを築いて孤立するケースさえあります。

とくに男性の場合は、社会的地位や肩書きにこだわる傾向が強く、日頃から現実的な考え方をする女性と比べて、頑固になる度合いが高いかもしれません。

過去の成功体験は「捨て去る」
年齢を重ねるごとに頑固になっていくのは、実は「脳の老化」と密接な関係があります。
人は、歳をとると脳が次第に活力不足となり、情報処理速度もだんだん遅くなってきます。
そうなると、他人を理解して、自分も理解してもらい、相互のコミュニケーションをとるという努力が煩わしくなってくるのです。

人間は誰しも、お互いを理解してコミュニケーションをとるために、想像以上に膨大なエネルギーを必要とします。
脳が柔軟な若い頃ならエネルギーは十分にあり、脳のあらゆる回路を通して情報を発信し、相手の発信する情報もきちんと受け止め、理解を深めていきます。

でも、歳を重ねてエネルギーが足りなくなってきた脳にとって、コミュニケーションの構築には以前よりも負担がかかるようになります。
そこで、エネルギーを使ってわざわざ煩わしさを感じるよりは、「自分自身が正しいと感じるバリア内」にいて、相手を理解することを放棄してしまったほうがずっとラクで心地がいいため、だんだん「頑固者」になっていくというわけです。

アメリカの著述家で、『道は開ける』『人を動かす』などの自己啓発書の著者でもあるデール・カーネギーは、「頑固を誇るのは小人の常だ。
にっこり握手して自分の過ちを認められる人こそ大人物である」と語っています。

このカーネギーの言葉にもあるように、自分を頑固者にならないようにするために大事なことは、まず自分がこだわっている「成功体験」をリセットすること。
これまでに経験してきたさまざまな栄光や成功にこだわる気持ちこそが不要な固定観念を生むのですから、いったんそれを白紙に戻し、日頃から、「新しい成功体験を作り上げよう」と意識することです。

一見すると単純なことのようにも思えますが、シンプルなことでつまずいてしまうのも人間というもの。
まずは心を空っぽにして、自分のメンタルを軽くすることこそが、「頑固頭予防・解消」への第一歩といえるでしょう。

肉を食べることと脳の相関関係
さて、先ほど「自分が正しいと感じるバリア内にいて、相手を理解するのを放棄したほうがラク」と述べましたが、それに関連し、歳を重ねるごとに若い頃のような意欲がなくなって、「何となくやる気が出ない」「何かを始めようとするモチベーションが湧かない」といった思いを抱いている人は多いはずです。

しかし、ともすれば他人からは「怠けグセ」と思われ、自分では「歳のせい」として片付けてしまうことも少なくないようです。
実はこの現象も、脳の老化が原因で起こっているのかもしれません。

「やる気」や「意欲」が湧くのは気分の問題だろうと思いがちですが、それは脳がコントロールしている領域です。
人間の「意欲」や「やる気」を高める役割の主役は「ドーパミン」という脳内物質です。
脳内にドーパミンが足りていれば気持ちも意欲的になりますが、不足するとやる気が起きない状態になります。

では、このドーパミンの増やし方について、自分にとって一番身近な「食」の面からみたときはどうなのか。
これも単純なことにも思われるかもしれませんが、その答えは「ドーパミンの主原料であるたんぱく質を十分に取ること」です。
たんぱく質は食事で体に取り込まれ、消化酵素によってアミノ酸に分解されますが、ドーパミンをつくるためにはたんぱく質をたっぷり取らなくてはなりません。
ところが、体力の衰えを多少なりとも意識する年齢になると、肉類をあまり食べない人も多くなり、たんぱく質が不足した状態になりがちです。

しかし、肉類を食べるのが最も効率のよいたんぱく質の取り方ですから、カロリーや脂質のことも考え、適度は運動などでカロリー過多にならないよう心がけながら、上手にたんぱく質を取るよう日頃から心がけましょう。
また、ドーパミンをはじめ、脳内の神経伝達物質の合成にはさまざまな栄養が関わっていて、たんぱく質と同時にそれらも取っていくことが大切です。
たとえばビタミンには、脳の血流をよくしたり、脳神経の働きを改善する作用があり、動脈硬化の原因となるホモシステインや活性酸素を除去する働きもあります。

現在のシニア世代の20%はビタミンB12不足ともいわれています。
シニア世代はもちろん、まだシニアの領域には達していない40、50代の人たちもまた、魚介類やレバーなど、ビタミンB12の多い食品を積極的に取りたいものです。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☀ | Comment(4) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする