日本の「野党」が絶望的なほど情けない根本理由
個人主義のお子様軍団になっている
2019/06/30 東洋経済オンライン
筒井 幹雄 : 東洋経済 記者
岡田 憲治,専修大学教授
特定秘密保護法成立、解釈改憲、森友・加計学園問題、自衛隊日報隠蔽……。
国家よりも個人を重視し、多様性と経済的再分配をよしとする野党・リベラル陣営は連戦連敗だ。
国政からPTA活動まで、行動する政治学徒が自戒から著した提言の書。『なぜリベラルは敗け続けるのか』を書いた専修大学の岡田憲治教授に詳しく聞いた。
野党の論理は赤軍と同じ
――なぜ必敗なのでしょうか。
与党が圧倒的な議席数を持ってますから。
与野党伯仲なら、審議拒否で定足数未達、開会できずという戦術を採れますが、今は委員会開催の与野党交渉すらできない。与党のやりたい放題で、逆に予算委員会100連休です。
――状況を変えるには「大人にならなければいけない」?
「ちゃんと大人の政治をやろうよ」です。
リベラル陣営の多くは、正しいことがゴール。
例えば、「多様なライフスタイルに寛容になれ」と非寛容に主張する。
政治とは、自分の信条の純度を上げることで、ピューリタン化しちゃう。
究極は「純度の下がった」メンバーを粛清した連合赤軍です。
――連赤まで行きますか。
論理は同じ。
膨大な資金と労働をつぎ込んだ原発の即時撤廃なんて、大人が乗れる話じゃない。
ところが、現実的な話をした途端、「脱原発って言っていたのに、原発ムラに取り込まれたな」(苦笑)。
多くの人が、会社なんかでは大人として振る舞っているのに、政治ではそれができない。
政治的成熟という言葉を聞くと口をぽかんと開けている。
かつての自分です。
――自分の気持ちが大事。
大事にするあまり、選挙で棄権する人もいますね。
棄権は黙認と同じということが、わかっていない。
「マジで安倍とか応援したくないし〜」「だな」「でも立民(立憲民主党)もねえ。
自分に正直に今回は棄権するわ」となると与党は大喜び。
敵の嫌がることをやるという発想がない。
仮に共産党が大嫌いだとしても、与党候補を落選させる可能性があるなら共産党に投票すべき。
鼻をつまんで、よりましな地獄に投票、です。
――参議院選挙が目前です。
立民の枝野代表はパリテ(編集部注:候補者数など政治における男女均等)が争点だと言う。
子どもの学校のPTA会長をやっていて驚くのが、ママたちの能力の高さ。
女性が政治の半分を占めれば、世の中、劇的に変わります。
その意味でまったく正しい。
ただ、「パリテ!」とか「脱原発! 安倍政治を許さない!」と叫んで、参院選の32ある1人区で25勝できるかというと、できませんよ。
パリテが響く人は、それがなくても立民に投票する人です。
仕事上の取材で最近よく地方に行きますが、そこで長年自民党に投票している人に話を聞くと、彼らの関心は「正しさ」にはない。
不安です。 立場が違っても信頼し合う関係がない
――不安? 1人区はほとんどが田舎。
東京の大学出て、大企業に勤め、親のこともあって帰郷した40代。ずっと自民支持、気がつけば商店街は寂れ、このままじゃ地域がダメになるのでは、という不安。
ここで「大丈夫ですよ」と語りかけるのが政治です。
正しいことをいくら言われても安心はできない。
もっと銭金の話をして、こうした人の7〜8%に野党統一候補に賭けてみようと思わせないといけない。
――「経済は社会の下部構造」と唱えた人に近い割に経済を語らない。
戦後、自民党が所得倍増だなんだと言って、企業を通じた所得再分配に成功し、さらに持ち家政策や断続的所得減税で豊かさの底上げがなされた。
野党も貢献しているが、経済政策での成功体験を記憶していないのでしょう。
だから、「消費増税反対、法人増税を」なんて言う。
法人税率が上がるとなったら大企業は租税回避に動きます。
少子化は教育充実のチャンス、消費増税分は国債償還ではなく、特定財源にして教育につぎ込む、くらい言わなきゃ。
田中角栄が日陰の人たちに日を当てたように。
――経験も含めて人材の問題?
政策・即戦力、「看板」が幅を利かすようになって、人材は与野党問わず多様性がなくなってきた。
懐かしい社会党の幹部、久保亘は、苦労人で県教組から参議院議員になり、誠実な人柄ゆえ自民党から共産党まで「くぼたん」と呼んで慕う人が多かった。
立場は違っても信頼し合う関係。今は、全体的にガキになっている。
――首相の大人げない言動も、つとに指摘されるところです。
カミソリ後藤田が残した本が『情と理』。
情、です。
彼がいちばん警戒したのは、人の気持ちに寄り添えない人間。
今、安倍さんに警告を発しているのは小泉、山拓、亀井静香など自民党の爺さんばかり。
政党が大人の集団じゃなくなり、広告代理店と無教養で人の気持ちがわからない学校秀才による政治に見えているのでしょう。
それでも、組織としては自民党のほうが大人。
大臣の失言が続いても、「バカな連中は放置」とせずに、失言防止マニュアルを作っちゃう。
不倫騒動の今井絵理子も、統一地方選の「どさ回り」応援演説にあえて行かせて鍛える。
これで安倍さんが引退して、もっとソフトなリーダーが「脱原発」なんて言ったら、もう永久政権ですよ。
野党は仲間を減らし続けている
――自民党は仲間を切り捨てない。
小異を捨てて大同につき、仲間を増やし、政策を実現するのが政治。
わがリベラル陣営は、政党も支持者もピューリタン化で仲間を減らし続けている。
選挙の際に、野党の党首がひとごとみたいに「皆さんの関心が高まらない」。
そうじゃない、ガチンコの戦いならみんな投票に行きますよ。
有権者の選択肢を奪うことは万死に値します。
前回の衆院選で得票数では与党を上回っていたのに、野党は候補者乱立を繰り返している。
自民公認、公明推薦の候補に対し野党候補が複数いたら、最初から勝負あり。
有権者は、勝つ気があるのかと心が折れます。
――ずっと子どものままですか。
自治体の首長経験者には、大人になる必要性を感じている人はいるが、それに費やされる膨大なコストにたじろいでいる。
希望があるとすれば、私が住む東京の世田谷区のようなケース。
社民党出身の保坂展人が直近の区長選挙で自民党支持層の3割をまとめ当選した。
スローガンは「せたがやYES!」とポジティブで、彼は人の話をよく聞くようになった。
世田谷区議選は自公が6人も減らしていますよ。
地方自治は民主主義の学校。
こんなところにヒントがあるのではないだろうか。
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岡田憲治(おかだ けんじ)/1962年生まれ。
立教大学法学部卒業、早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了。
政治学博士。現在専修大学法学部教授。
専攻は現代デモクラシー論。
『権利としてのデモクラシー』『ええ、政治ですが、それが何か?』など著書多数、多媒体で活発に発言。