私は一度でも麻生太郎を絶賛した人間を信用しない
2019年07月01日 SPA!(倉山満)
◆私は一度でも麻生太郎を絶賛した人間を信用しない
私は安倍内閣を積極的に支持している時から、この人物を重用するのに反対し続けてきた。
「老後2000万円問題」で炎上中の、麻生太郎副総理兼財務大臣である。
国民は冷静である。
普通の人間は、最初から「年金だけで生活が安泰だ」などと信じていない。
その証拠に、自民党の支持率も下がったが、騒ぎに同調した野党の支持率も下がった。
上から目線の、麻生太郎の態度が反感を買っているのである。
私は一度でも麻生太郎を絶賛した人間を信用しない。
一時期は「俺達の麻生」という流行語が生まれ、いやしくもプロを名乗る言論人でも絶賛する人間がいたが、正気ではない。
麻生太郎。
昭和15(1940)年、福岡県の麻生財閥の御曹司として生まれる。
母方の祖父は吉田茂。
吉田の妻は大久保利通の孫娘である。
親戚系図をたどれば皇族にも行きつく。
華麗な閨閥だ。
妻は鈴木善幸の娘である。
麻生が「大久保利通の玄孫」「吉田茂の孫」として生まれたのに本人の意思は関係ないが、「鈴木善幸の息子」だけは自分で選んだ。
ちなみに鈴木善幸は「暗愚の宰相」と呼ばれた首相である。
麻生の父・太賀吉は、麻生セメントの社長で、吉田茂のスポンサーでもあった。
麻生は庶民とかけ離れた生活を送っており、「麻生の為に小学校が作られた」だの、初出馬の際の第一声が「下々の皆さん」だったとか、逸話には事欠かない。
吉田の命令でイギリスのロンドン大学に留学したが、初日の授業で国際政治の現実を知った気になってしまう。
その思い出を自民党の学生部に来て滔々と語って、その場にいた学生全員からバカにされた御仁である(その学生の一人が私である。詳細は不毛なので省略)。
麻生は、昭和54年の総選挙で初当選。
1回の落選を経験しながらも、13回の当選を数える。
派閥は、岳父の鈴木が幹部・領袖を務める宏池会に所属。順調に出世の階段を歩む。
宏池会の分裂に際しては、加藤紘一を嫌い、分派した河野洋平派に所属。
河野の庇護下で、党幹部と大臣を経験していく。
河野からの派閥禅譲は平穏に行われた。
これでは、麻生も河野洋平にだけには頭が上がらない。
河野の前では、さすがの麻生も直立不動らしい(側近の言)。
◆鳩山由紀夫の民主党でもいいから、麻生太郎の自民党はイヤ
政治家として飛躍的に力を付けたのは、小泉純一郎内閣の時だ。
小泉内閣5年間で、麻生は常に大臣か自民党政調会長の要職で遇された。
総務大臣でありながら、郵政民営化には反対だったが、郵政解散では唯々諾々と従っている。
自民党総裁選に挑戦すること4度。
小泉純一郎・安倍晋三・福田康夫に3連敗したが、4度目で勝利した。
なお、安倍・福田の両内閣は内閣改造の1か月後に退陣しているが、その両内閣で幹事長を務めたのが麻生である。
安倍内閣は参議院選挙で大敗し、福田内閣は、ねじれ国会で苦しんだ。
衆議院の任期切れが迫る中、民主党への負けを最小限に減らそうと、比較的人気のある麻生太郎が自民党総裁(つまり総理大臣)に選ばれた。
麻生も早期総選挙のつもりだった。
ところが、麻生が首相に就任した直後、リーマンショックが発生する。
日本には何の関係もない事件のはずだった。
ただし、日本以外の主要国の経済を直撃する大事件である。
世界各国はデフレを恐れて金融緩和に走りつつ、日本に財政援助を求める。
日本とて長期デフレに苦しみ、小泉内閣の景気回復も終わっていたので、それどころではなかったのだが。
通貨発行量を、米国が2倍、中国が3倍にする中、日本は1.05倍しか増刷しなかった。
案の定、円高が進行、デフレが悪化した。
リーマンショックで各国が通貨発行競争をする中、無為無策で世界一地獄を見たのが日本だった。
それでいて、IMFには1000億ドルもの巨額の資金援助をしている。
これでは「世界のキャッシュディスペンサー」と笑い者になるのも仕方ない。
麻生は後年になっても「金融なんかいくら緩和しても仕方ない(お札を刷っても意味がない)から、世界が驚くような財政出動をさせた」と自慢している。
度し難い…。
地獄絵図の日本経済の中、麻生は「未曽有」を「みぞゆう」と読み間違えたり、「カップラーメン400円」などと浮世離れした発言をしたり。
自民党の支持率は激落ちし、「鳩山由紀夫の民主党でもいいから、麻生太郎の自民党はイヤ」と思わせるに至った。
当然だ。
民主党政権は確かに「悪夢」だったが、その「悪夢」を生み出したのは、麻生太郎その人だ。
民主党政権最大の罪は、「自民党の方がマシだ」と思わせたことだ。
いかなる愚か者でも、たとえ犯罪者でも、民主党の悪口さえ言っていれば飯が食える時代が到来した。
そうした時代のヒーローが麻生太郎である。
いわゆる「ネトウヨ」は、「自民党政権を潰したのはマス“ゴ”ミだ!」「マスゴミは、中国・韓国の手先だ!」「マスゴミの謀略で、麻生政権は潰された!」等々、聞くに値しない言説を垂れ流す。
政界で民主党政権の失政を憂えた人の大半は、安倍晋三の復活を推した。
麻生太郎を担ぐ保守政治家など皆無だった。
だが、孤立無援の安倍晋三は、小なりとはいえ派閥の領袖であった麻生太郎の力を頼りにする。
幸運にも恵まれ、安倍は首相に返り咲いた。
その論功行賞で麻生は副総理財務大臣の地位を得た。
安倍内閣は、アベノミクスと言われる金融緩和政策を軸にした景気回復政策を行い、高い支持率で長期政権となった。
ただし、消費増税によりアベノミクスの効果は減殺され、いまだにデフレは脱却できていない。
そして今また、消費増税を行おうとしている。
◆このままだと国民だけが地獄に落とされる
6年を超えた安倍内閣において、常に金融緩和に反対し、消費増税を押し付けてくるのが麻生である。
なぜ、このような人物を一貫して副総理・財務大臣に据え続けるのか?
理由は、簡単である。
国民を舐めているからである。
いかなる失政を行おうが、相手が枝野幸男である限り、絶対に選挙に負けないからだ。
ならば、ややこしいが恩人の麻生を切ってまで国民に尽くす必要はない。
このままだと国民だけが地獄に落とされる。
その麻生が「老後2000万円問題」で失策をした。
とにもかくにも、麻生を討て! その結果、安倍内閣がどうなるかなど、考えるな! 増税阻止、最初で最後のチャンスだ!
【倉山 満】 憲政史研究家
’73年、香川県生まれ。
’96年中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程を修了。
在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤職員として、’15年まで同大学で日本国憲法を教える。
’12年、希望日本研究所所長を務める。
同年、コンテンツ配信サービス「倉山塾」を開講、翌年には「チャンネルくらら」を開局し、大日本帝国憲法や日本近現代史、政治外交について積極的に言論活動を展開。
ベストセラーになった『嘘だらけシリーズ』など著書多数