2019年07月16日

ニセ科学「ホメオパシー」の実践が危険な理由

ニセ科学「ホメオパシー」の実践が危険な理由
毒物の「ヒ素」でさえ薬にしてしまう謎理論
2019/07/15 東洋経済オンライン

名取 宏 : 内科医

今年2月、参議院議員の山本太郎氏が、日本母親連盟を批判する際に取り上げたことでも注目を集めた民間療法「ホメオパシー」。

ヨーロッパ発祥の民間療法の実践が危険な理由とは?

 同療法に詳しい内科医の名取宏(なとり ひろむ)氏が解説する。
みなさんは「ホメオパシー」という言葉を聞いたことがありますか? 
ヨーロッパ発祥の民間療法の一種なのですが、日本では主に妊婦さんや出産後のお母さん方のあいだでホメオパシーが使われています。
助産師から勧められたり 、母親同士のネットワークで広まったりしているようです。
みなさんも子育て中に「自然療法のホメオパシーを始めたんだけど、子どもの免疫力が上がって副作用もなくて、薬にも頼らなくてすむし本当にいいよ。やってみない?」と声をかけられることがあるかもしれません。

ホメオパシーの利用者は、子どもに対しては化学物質を避け、できるだけ安全で安心なものを使いたいと考えている人に多いようです。

「ヒ素」が薬になる独自理論

ホメオパシーには、毒物を薄めると毒を打ち消す薬になり、しかも薄めれば薄めるほど効果が強くなるという独特の考え方があります。
ヒ素が毒物であることは、みなさんご存じですね。
そのヒ素を水やアルコールといった液体に溶かし、10倍や100倍に薄めて振り混ぜることを何十回も繰り返し、最終的にその液体を砂糖玉に染み込ませたものが、ヒ素の毒に効くという理屈です。
この砂糖玉を「レメディ」と言います。
レメディは錠剤に似ていて、いかにも薬という形をしていますが、薬効成分は含まれていません。

物質としてのヒ素は何度も繰り返し薄められているため、ヒ素のレメディには残っていません。
元の成分は含まれていないため、安全だというわけです。
元の成分が残っていないのになぜ効果を発揮するのかというと、ヒ素の情報が水に記憶されているのだそうです。
水の記憶は「バイタルフォース」や「波動」といった一見科学的に思える用語で説明されることもあります。
でも、効果だけあって副作用はないようなよいものであれば、病院でも使われているはずではないでしょうか。

日本でホメオパシーを利用している医師は、きわめて少数です。
「ホメオパス」と呼ばれるホメオパシーの「専門家」がいるにはいますが、民間のホメオパシーの団体が独自に認定した資格にすぎず、国家資格ではありません。
「水の記憶」や「波動」にも科学的根拠はありません。
ホメオパシーの理論で言えば、ヒ素のレメディはヒ素中毒に効くはずですが、実際にはヒ素中毒に対してではなく、不安や焦燥感に使われています。
ヒ素中毒が、不安や焦燥感といった精神症状を引き起こすからでしょう。
よく言えば柔軟で、悪く言えばいい加減です。

ヒ素だけでなく、ほかにもじつに多種類のレメディがあります。
アロエ、ベラドンナ、毒グモ、ヒゼンダニ、犬の乳、亜鉛、硫黄、水銀など。変わったものでは、ベルリンの壁のレメディや般若心経のレメディがあります。

民間療法というより「加持祈祷」のたぐい

般若心経のレメディがいったい何に効くというのでしょうか。
ホメオパシーの理論によると、般若心経のレメディは般若心経によって生じる症状に効くことになりますが、あるホメオパス(ホメオパシー治療を行う者)のブログによれば、成仏していない霊の憑依(ひょうい)や生霊に使うのだそうです。
もはや民間療法というより加持祈禱の類ですね。

生霊に効かすつもりなら、生霊を何度も繰り返し薄めたレメディを使わなければならないはずですが、さすがに材料の生霊が手に入らなかったのでしょう。
また、レメディは結構お高いです。
例えば、小ビンに入った般若心経のレメディはネットショッピングのサイトで税込2052円で売られていました。
ホメオパシーでは症状に合わせてレメディを選んで使うので、多種類のレメディを準備しなければなりません。
よく使う種類のレメディがセットになったものは1万円以上の値段がついています。

ホメオパスに相談すると、これまたお金がかかります。
保険はききませんので全額自費です。
値段が高くても、効けばまだいいでしょう。
でも、これらのレメディに効果はありません。
薬に効果があるかどうかは、その薬と似たニセの薬と比べてみることで証明できますが、臨床試験でレメディに似せたニセの薬と比較したところ、差がないことがはっきりわかっています
※1 Shang A et al. Are the clinical effects of homoeopathy placebo effects? Comparative study of placebo-controlled trials of homoeopathy and allopathy., Lancet. 2005 Aug 27-Sep 2; 366 (9487): 726–32.)。
レメディには薬効成分は残っていませんから当然です。

レメディに特別な効果がなくても、効いたように誤解することはあります。
例えば、不安に効くとされるヒ素のレメディを飲んで、不安がやわらぐこともあるでしょう。
レメディに特別な効果がなくても、単になんだか薬っぽいものを飲んだことが安心感をもたらすのです。
あるいはレメディを使ったあとに風邪が治ったとして、単に自然治癒しただけなのにレメディが効いたと誤認することもあります。

つまり、ホメオパシーは、いわばおまじないのようなもの。
転んで膝を擦りむいた子どもに、「いたいのいたいの、とんでけー」と言ってあげると泣き止むのと同じです。
薬効成分が含まれていないレメディには副作用はありません。
おまじないとしてはよくできています。
ホメオパシーがヨーロッパにおいて伝統的な民間療法として残ってきたのも、こうした理由があるのでしょう。
おまじないですから、ベルリンの壁でも般若心経でもなんでもありなのです。
おまじないとしてだけ使用されていれば、ホメオパシーの問題点は高価であることくらいでした。
しかし、残念なことに、おまじない以上の効果が信じられているせいで、子どもに実害が生じています。

「ワクチンが毒」という謎理論

インターネットでは、さまざまなホメオパシーの体験談が語られています。
例えば、中耳炎の子どもに対して母親がホメオパシーによる治療を続け、2週間以上も高熱が続いたケースでは、祖父母から「孫を殺す気か」と言われて総合病院を受診し入院となりました。
ホメオパシーは単なるおまじないだとわかっていれば、数日も熱が続けば病院を受診するでしょうに。

この事例は、子どもに必要かつ適切な医療を受けさせていないので、児童虐待の一種である医療ネグレクトとみなされます。 ホメオパシーは「ワクチンは毒だ」という主張と結びついていることもあります。
ホメオパシー団体の言い分によると、「ワクチンの成分を薄めたレメディによって病気が治った。
よって、ワクチンは病気の原因に違いない」ということのようです
※2 日本ホメオパシー医学協会の予防接種に対する見解)。

しかし、先に述べたとおり、レメディによって本当に病気が治ることは証明されていません。
レメディを使ったことによる安心感や、レメディが効くに違いないという思い込みから、病気が治ったと誤認しただけだと私は思います。
実際には、ワクチンはさまざまな病気を防ぎます(※3 Facts for Parents: Diseases & the Vaccines that Prevent Them)。

レメディそのものは、ただの砂糖玉なので安全で無害ですが、「ワクチンは毒だ」という考えは有害です。

ホメオパシーの有害な考えが引き起こした死亡事例もあります。
赤ちゃんは出血を予防するビタミンKが不足しがちなため、本来は生後すぐにビタミンKのシロップが与えられます。
しかし、ホメオパシー団体の指導者は、「ビタミン剤の実物の投与があまりよくないと思うので、私はレメディーにして使っています」
「ホメオパシーにもビタミンKのレメディーはありますから、それを使っていただきたい」などと言っていました(※4 由井寅子 『ホメオパシー的妊娠と出産』 ホメオパシー出版)。

2009年、ビタミンK欠乏症による出血で生後2カ月の赤ちゃんが亡くなるという事件がありました。
その赤ちゃんは、ホメオパシー団体に所属している助産師によって、本物のビタミンKではなく、ビタミンKのレメディを与えられていたのです。
ビタミンKのレメディはただの砂糖玉ですから、ビタミンKの代わりにはなりません。

医療関係者でさえ信じていた

ホメオパシーの指導者たちも、助産師もホメオパシーがおまじないであることをわかっていなかったのです。
この事件は民事訴訟になり、助産師側が和解金を払うことで和解が成立しました。
でも、いくらお金をもらっても、赤ちゃんの命は戻りません。
この事件を受け、日本学術会議は「ホメオパシーに頼ることによって、確実で有効な治療を受ける機会を逸する可能性があることが大きな問題」「医療関係者がホメオパシーを治療に使用することは認められません」という会長談話を発表しました(※5 「ホメオパシー」についての会長談話)。

しかし、残念ながら、医療従事者であるはずの助産師の中には、ホメオパシーを使用している人もいます。
日本助産師会は「助産師がホメオパシーを医療に代わるものとして使用したり、勧めたりすることのないよう、継続的な指導や研修を実施し、会員への周知徹底」を図っています。

もしみなさんが、助産師からホメオパシーを勧められたとしたら、その助産師は日本助産師会の指導に反しているものと思ってください。
ホメオパシーを使用していた助産師は、自然な出産にこだわりがあったようです。
ホメオパシーが受け入れられる背景に「自然は安全で、薬や注射は不自然で危険」という思い込みがあると思います。

中耳炎が治らないのになかなか病院を受診しなかったり、ワクチンを否定したりするケースも、そうした考えが背景にあります。

自然が本当に安全なのか、よく考えてみましょう。
医学が発展するまでは、たくさんの子どもたちが死んでいました。
死亡統計がとられるようになった明治時代には、1年間における乳児死亡率は1000人あたり約150人でした。

ホメオパシーが危険なシンプルな理由

現在の日本の乳児死亡率は1年間において1000人あたり約2人。
つまり、1歳になるまでに1000人の赤ちゃんのうち2人くらいが亡くなるということです。
これは歴史的に見ても、現代において他国と比較しても大変少ない数です。

明治時代の日本では、現代の日本と比べて、約75倍もの赤ちゃんが亡くなっていました。
江戸時代には、子どもの半数が成人するまでに死んだといいます。
その死因の多くが天然痘(てんねんとう)や麻疹といった感染症でした。
天然痘も麻疹も、今ではワクチンで予防できる病気です。

本来の「自然」は、多産多死です。
現在の日本の社会では子どもが亡くなることが珍しくなったためか、自然が本来安全ではなかったことが忘れられています。

「自然は安全」という誤解に基づいて適切な医療を遠ざけるからこそ、ホメオパシーは危険なのです。
posted by 小だぬき at 00:00| 神奈川 ☁| Comment(0) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする