2019年09月04日

恐るべき消費税ムダ遣いの歴史 ガラガラの温泉施設まで作っていた

恐るべき消費税ムダ遣いの歴史
ガラガラの温泉施設まで作っていた
2019/09/03 マネーポスト  

1989年に導入された3%(当時)の消費税は、「高齢化への対応」と「財政再建」のために使われるはずだった。
しかし実態は、巨額のカネがホテルや農道空港建設などの公共事業に使われていた。

なぜ、「社会保障」の財源が公共事業に化けていったのか。
 消費税が創設された平成元年はバブル経済真っ盛り。
霞が関では、各省庁が新税の税収を当て込んで全国にスキー場やゴルフ場、マリンリゾートなどを大規模開発する総合保養地域整備法(リゾート法)をはじめ、農道(空港、橋)、スーパー堤防やダム、空港整備計画など巨大事業を用意した。

 そこに政治家にとって税収を社会保障や財政再建ではなく、公共投資に回す格好の口実が飛び込んでくる。
米国からの「外圧」だった。
 折から日米経済摩擦が激化し、時の海部内閣は日米構造協議(1990年)で米国政府から「日本は内需拡大のために毎年GDPの10%(約46兆円)を公共事業に使え」という要求を突きつけられた。
国の税収の大半を公共事業にあてなけなければならない、とんでもない金額である。

 だが、地元に公共事業をバラ撒きたい自民党の政治家たちは飛びついた。
その中心が「自民党のドン」と呼ばれた金丸信・副総裁だ。
公共事業に君臨する建設族のボスであり、1988年の消費税国会では、衆院税制特別委員長として消費税法案を成立させた人物でもある。
 日米構造協議のさなか、金丸氏から時の橋本龍太郎・蔵相に電話が入る。
「おい、せっかくのアメリカからの要求だ。500兆円くらい出せよ」  ドンの指示だった。

 当時、大蔵省ナンバーツーの財務官として日米構造協議を担った内海孚(まこと)氏の証言である。
「米国は非公式協議でGDPの10%という要求を出してきた。私は抵抗しました。
しかし、米国側はアマコスト駐日大使が水面下で金丸さんにアプローチしていると伝えられていました。
どうやら大使は『金丸さんのところに行けば、公共事業が広がる』というアドバイスを得ているようでした。
そして金丸さんが橋本大臣にそういう電話をしてきた。
 橋本大臣は断わったんですが、政治決着で公共事業拡大が決まった。

海部首相とブッシュ大統領の会談で、向こう10年間で道路や港湾など430兆円の公共投資を行なうことを約束しましたが、私たち大蔵省は公共事業については意思決定に加わることができず、そんなおかしな判断には一切関わっていません」

 その後、米国の“もっと増やせ”という要求で日本政府は200兆円追加し、公共投資基本計画の総額は630兆円(13年間)に修正された。
当然、消費税収だけでは全く足りず、国債もバンバン発行していく。
「ジャンジャン使っちゃった」
 そこにさらなる税収横流しの追い風が吹く。

1993年に細川内閣が登場すると、GATTのウルグアイラウンド貿易交渉で日本はコメの一部輸入自由化を受け入れた。
 政権を失って野党になっていた自民党はこれを猛烈に批判し、翌年、自社さきがけの村山(富市)連立政権で与党に復帰すると、米自由化で影響を受ける農家を支援するという名目で農水省だけで6兆100億円のウルグアイラウンド対策予算を組んで大盤振る舞いを始めたのだ。
 当時の農水省ガット室長でウルグアイラウンド交渉にあたった山下一仁氏が振り返る。
「私の使命はコメの関税化(自由化)を防ぐこと。
コメについては当時の国内消費量の8%の80万トンを関税ゼロで輸入するというミニマムアクセスを受け入れた。
しかし、輸入量と同量のコメを飼料用や援助米として処分することにしたので、国内の生産を減らす必要はない。
 米農家に影響は全くないものでした。

しかし、村山政権になると自民党は巨額の対策費を実現させた。
影響がないのに対策が打たれたのだから、この対策費にはいかなる理屈も正当性もなかった」
 6兆円は政治家と役人、自治体の“つかみ金”となった。

必要のない農道、林道、遊歩道などの農業土木事業だけでは使い切れず、農村地帯では何億円もかけて温泉を掘削し、全国20か所以上で公営の温泉ランド建設ブームが起きた。
 自民党OBの谷津義男・元農水相が振り返る。

「自民党は票が欲しかったから、農協の要求、農家のいうことを聞いて金目が先にありきだった。
6兆100億円の予算を取ったとき、あまりに巨額だったから、これはまずいぞ、何に使うんだと党内で大議論になったんだが、大丈夫だろうとジャンジャン使っちゃった。
 使い途を市町村に任せたら、農家の人が体を休めることができるとか理屈をつけて温泉まで掘った。
これをいうと怒られるかもわからんが、ウルグアイラウンド対策費はほとんど役に立たなかったんだよ」

 栃木県の那須塩原温泉街のさらに奥、車で20分ほど山を登った自然公園「箱の森プレイパーク」にある日帰り温泉「遊湯センター」もそのひとつだ。
入り口に「農林漁業特別対策事業」の看板がある。
 お盆期間中に取材で訪ねると、広い公園には親子連れが1組、温泉の利用客はいなかった。
受付で話を聞いた。
「いい温泉なんですがいつもガラガラです。
利用者は多い時期で月に50〜80人くらい。
地元の農家の人が農作業を終えた後に浴びに来るなんて聞いたことがありません。
ここは山奥であまり知られていないし、地元の人は那須塩原温泉街に行きます」

 総務省が集計している国と地方自治体の公共投資を合わせた「行政投資額」の実績値をみると、日本が米国に公約した期間にぴったり630兆円使われていた。
 これではいくら消費税率を上げても税収を社会保障に回せない。
借金が膨れあがるはずである。


週刊ポスト 19年09月06日号
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☔ | Comment(6) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする