2019年09月16日

政府の認知症予防は危険だらけ

政府の認知症予防は危険だらけ
症状を進行させコミュニティを分断させる恐れも
2019.09.05 ヘルスプレス

 6月18日、政府は認知症施策推進大綱を発表した。
「予防」と「共生」を2本柱の目的として掲げ、高齢社会のなかで認知症になっても希望を持って日常生活を過ごせる社会を目指すことを目標としているものだ。
 ニュースで報道されていたこともあり、私が普段訪問している長屋の高齢者も、「やっぱり認知症に気をつけないと」と語っていた。

しかし、このような感想を聞くたびに、私は高齢者が安心に暮らせる社会から離れていくと感じる。
今回の大綱も、本当に認知症患者の希望につながるかは疑問だ。

運動不足の改善で認知症は改善できない!?  
そもそも認知症の予防方法が確立していない。
確かに認知症の予防は世界中で注目されており、2017年には世界保健機関(WHO)が、「認知症グローバル・アクションプラン」を策定し、認知症のリスクを軽減するために生活習慣への介入を推奨している。
 しかし、どのような介入がよいかはエビデンスが確立していない。

 この大綱でも、認知症の予防に関しては「運動不足の改善」「社会的孤立の解消」「生活習慣病」が挙げられているが、いずれもこの大綱がターゲットと定めている団塊の世代に対して介入することで認知症が予防できるかどうかはまだ結論が出ていない。

 例えば、運動は運動量が多い人は認知症のリスクが低いという観察研究はこれまでにも多いが、運動不足の人に運動をさせることで認知症リスクが下がるかどうかは結論が出ていない。
 英国サセックス大学のヤング(Young)氏による12報のランダム化試験のメタアナリシスによると、認知機能が正常な55歳以上の被験者に対して有酸素運動による介入を2か月から6か月間行っても、認知機能の改善は認められなかった*1。

 英国の35〜55歳の公務員を約30年にわたって調査した「Whitehall II Study」のコホートを用いて運動量と認知症の関係を調査した研究によると、認知症と診断された患者は診断から9年以内に運動量が低下していた*2。

 このことから、運動量の低下は認知症の前駆症状である可能性も示唆されている。
もしそうであれば、運動不足に陥った高齢者に介入しても認知症予防には効果がない可能性もある。

高齢者の糖尿病に介入してももはや手遅れ!?  
また、生活習慣病の中でも糖尿病を例に挙げると、2006年に『Lancet Neurology』に発表されたシステマティックレビューにおいても65歳未満での糖尿病は認知症のリスクになると言われている*3。

 高血圧、糖尿病などの生活習慣病は、長期間続くことで認知機能に影響を及ぼすと言われている。
このため、これらの改善は中年期に行っておくことが認知症予防に効果的だ。
 一方で、高齢になってからの糖尿病が認知症に与える影響はそれより小さい。
 スウェーデンの双子データベースを用いた研究によると、65歳未満に糖尿病を発症した人では認知症リスクが約2倍になっていたが、  65歳以降に糖尿病を発症した人は、そうでない人に比べて認知症リスクに統計的な差がなかった*4。

 現在すでに65歳を超えている団塊の世代では、もはや介入しても間に合わない可能性すらある。

大綱は利権争いと競争の歪み、天下り先の量産しか生み出さない
 今回発表された大綱は当初「認知症患者の6%の減少」と数値目標までついていた。
この数値は、5月16日似開催された「認知症施策推進のための有識者会議」で示された数値が根拠となっている。
 まず、10年間で認知症の発症年齢を1歳遅らせることを目標としている。
すると、10年間で有病率が1割低下する計算となるため、6年間で6%の減少、という目算となる。

しかし、上述のとおり認知症の予防方法が分かってもいない現在、認知症の発症年齢をどのように遅らせることができるのか不明だ。

このように予防方法が確立していない中であえて認知症の予防を政府が掲げることで生まれる懸念が2つある。  

1つ目は、政府の後押しによってできる利権と競争の歪みである。
例えば、「認知症施策推進のための有識者会議」資料によると、認知症予防は、住民サービスへの参加率向上、認知症予防に関するエビデンス収集の推進、民間サービスの評価・認証の検討、などが案として上がっている。
 民間サービスの評価・認証という単語で思い出すのは厚生労働省所管の独立行政法人である医薬基盤・健康・栄養研究所が審査を行う特定保健用食品(トクホ)だ。
 トクホ認証を受けていると健康に良いような印象を与えるが、トクホ認証の人工甘味料入りの飲料は、たとえカロリーゼロであっても健康には良くない。
 当初は健康に良い食品を分かりやすくするなどの目的でできた制度も、認証が形骸化すると消費者への利益はない。
残るのは、各省庁所管の独立行政法人、つまり天下り先だけだ。

 認知症予防サービスも、エビデンスが曖昧なだけに、このような歪な査定が行われる可能性が高い。
 例えば認知症テストの点数が上がるゲームソフトが認証を受けたとしても、そのゲームをした高齢者が運動不足から寝たきりになるのでは誰も救われない。
 むしろ現在のように予防方法が確立していない状態では、多くのプレイヤーが様々な試みを行い、うまくいったものを広めるのが理想的だ。

 例えば製薬会社のエーザイは、他の製薬企業が撤退するなか、社運を懸けて新認知症薬の開発を行っている。
 たとえ新薬の開発に成功したとしても認知症への効果や副作用の検証、費用対効果など専門家からの厳しい評価にさらされ、さらには特許切れ、他の新薬の出現など様々なリスクがある。
新薬の成功のためには、フェアだが激しい競争に生き残らなければならない。
 また様々な地域でNPOや福祉事業者などが認知症予防を目的としたサービスを行っている。
運動、認知機能トレーニング、食事、社会サービスなど、様々な側面からの介入があるが、現時点では認知症の予防効果がはっきりと証明されているものはない。
 これら単体のサービスの有効性もそうだが、個人に最適な組み合わせの評価など、効果の検証の道は長い。

 政府の役割は、フェアな競争の維持、効果の検証と公開であって、どのようなサービスが広まるかは競争に任せるのが適切だ。

認知症予防の煽りがコミュニティの分断を招く  
2つ目は、予防を煽ることで生まれるコミュニティの断絶だ。
私の経験では、認知症予防に対して積極的なコミュニティほど、認知症のような症状が出てきた高齢者をコミュニティから排除する傾向がある。
「認知症が怖いから予防しないと」と大勢が語って、みんなでラジオ体操をするなど健康維持に熱心な長屋の住民では、認知症の住民が出てきたときに「あの人は前から違ったから」「生まれも違う地域だから」と、自分たちのコミュニティのメンバーとして捉えるのではなく、自分たちとの差異を強調して元から違ったように捉えようとする発言が多くなった。

 一方で、仲良くお話しする程度はするが、運動などの健康維持には積極的ではない長屋もある。
 ここでも最近認知機能が下がってきた高齢者がいるが、その高齢者は「ばっちゃん、またぼけてるなあ」と言われはするが、部屋には毎日誰かが出入りしてニコニコと生活している。

 政府によって予防を煽ることは、「健康でなければいけない」という思い込みを招く。
 認知症やその他の疾患で健康を損ねた状態になった人をみると、「そういえばあの人は運動してなかったね」「甘いものが好きだったから」と自分と違うところを見つけてコミュニティの外に追い出してしまいやすい。

最も介入が必要な軽度認知機能低下が放置される危険性  
そうなると、認知症対策もうまくいかない。
ベルリン自由大学のサンク(Zankd)氏らの報告によると、認知症に関して最も不安が強くなり、尊厳を損ねるのは、認知症の前段階として知られる「軽度認知機能低下」の状態の人だ*5。

一方でこの段階の人は、適切な介入を行うことで認知機能が改善する可能性があると期待されている。
つまり、最も介入が必要な人だ。
しかし、認知症予防が喧伝される社会では、認知機能低下を指摘されるとコミュニティから疎外される懸念があるため、不安を共有することもできない。  
こうして本当に介入が必要な人が不安を誰にも伝えられないまま適切な介入が行われず、さらに認知機能が低下するという悪循環を生む可能性すらある。

「健康な人」と「そうでない人」の間で断絶がおきかねない  
今後、政府の取り組みにかかわらず、認知症の予防に取り組む高齢者は増える。
そのとき、高齢者コミュニティ内で「健康な人」と「そうでない人」の間で断絶が起きることを私は恐れている。
 人は誰もが老い、健康を損ねる。

高齢社会においては、特に健康状態の多様性が生まれる。
そこでは、安心して病気になることができる社会こそ、政府が目指す姿ではないだろうか。

 まとめると、現在の政府が行っている認知症対策は、将来の成長分野の健全な競争を阻害し、さらに高齢社会の分断を招く危険がある。
 需要のある認知症の予防分野は民間部門の競争に任せ、民間部門では支援できないような高齢者が幸福な生活を送ってもらえるように環境を整備する――。
これが高齢社会での国のあり方ではないだろうか。
      (文=森田知宏)

参考文献
1. Young, J., et al., Aerobic exercise to improve cognitive function in older people without known cognitive impairment. Cochrane Database Syst Rev, 2015(4): p. CD005381.
2. Sabia, S., et al., Physical activity, cognitive decline, and risk of dementia: 28 year follow-up of Whitehall II cohort study. BMJ, 2017. 357: p. j2709.

3. Biessels, G.J., et al., Risk of dementia in diabetes mellitus: a systematic review. Lancet Neurol, 2006. 5(1): p. 64-74.
4. Xu, W., et al., Mid- and late-life diabetes in relation to the risk of dementia: a population-based twin study. Diabetes, 2009. 58(1): p. 71-7.
5. Zankd, S. and B. Leipold, The relationship between severity of dementia and subjective well-being. Aging Ment Health, 2001. 5(2): p. 191-6.
医療バナンス学会発行
「MRIC」2019年9月3日より転載(http://medg.jp/mt/
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「術後うつ」にならないために知っておくべき注意点

「術後うつ」にならないために知っておくべき注意点
2019年09月06日 NEWSポストセブン

 大病が見つかったら、すぐに手術や治療を受けることが肝要だ。
ただし、適切な処置が行なわれたとしても、術後・退院後に意外な落とし穴が潜んでいることがある。
それが「術後うつ」「退院うつ」のリスクだ。

 NPO法人うつ・気分障害協会代表理事の山口律子氏は、術後うつを発症する患者は少なくないと指摘する。
「大病の手術の後は、経験したことのない不安や体力の衰えを感じることがあります。
とくに高齢者の場合、術後は本人が思っている以上に心身にダメージを受けている。
手術は成功したはずなのに思うように動けない、寝つきが悪い、前よりも疲れやすくなった、といったことがストレスになり、うつ状態になってしまうことがあるのです」

 そんな術後うつ、退院うつにならないために、あらかじめ注意できるポイントがある。
銀座泰明クリニックの茅野分・院長(精神科医)がアドバイスする。
「手術や治療の前に、術後に痛みが伴うケースなどの情報を詳しく聞いておくこと(インフォームド・コンセント)が重要です。
 例えば、この手術の場合、患部の痛みはどれくらいの期間続くのか。
完全に治るまでにどのような痛みが出るのか。
痺れや麻痺などの後遺症が出る確率はどのくらいあるのか。
こうした情報を聞いておくことで術後への心構えができますし、それ以外の異変が生じた際に本人も家族も気づきやすくなります」

 あらかじめ肉体的ストレスの少ない「低侵襲手術」を受ける選択肢もある。
医療経済ジャーナリストの室井一辰氏が語る。
「手術によって切除する場所が少なく、刺激も少ない手術のことを全般的に『低侵襲手術』と呼びます。

 例えば、大腸がんや胃がんなどに対しては、『腹腔鏡手術』が行なわれる機会が増えました。
お腹に小さな穴を開けるだけなので、従来の開腹手術と比べて体への負担がかなり軽くなったといえます。
 心臓疾患なら『カテーテル』を使った手術、ヘルニア関節手術では『内視鏡手術』が、より低侵襲の手術です。

 また、腹腔鏡手術をロボット支援の下で行なう『ダヴィンチ手術』は、より複雑で細やかな手技が可能になり、3次元の精確な画像情報を取得できるため、より安全かつ侵襲の少ない手術が可能になります。
 最先端治療のため保険適用外となる病気も多かったのですが、近年では胃がん、肺がん、直腸がんなどの患者数が多い疾患への保険適用が進んでいます」

 治療の選択では、「術後うつのリスク」よりも「治療の効果や必要性」を優先すべきことは言うまでもないが、治療の先に待つ“思わぬリスク”の存在を知っておくに越したことはない。

     ※週刊ポスト2019年9月13日号
posted by 小だぬき at 00:00| 神奈川 ☀| Comment(0) | うつ病について | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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