2019年09月30日

「がん検診」現役医師が教えるデメリットの数々

「がん検診」現役医師が教えるデメリットの数々
「不十分なエビデンス」に基づいた検診の弊害
2019/09/28 東洋経済オンライン
名取 宏 : 内科医

日本人の死因のトップである「がん」。
早期発見ができるよう「がん検診」に行く人もいるでしょう。
ですが、必ずしもすべてのがん検診が効果的とは言えません。
「がん検診のさまざまなデメリット」を、内科医の名取宏氏が新刊『医師が教える 最善の健康法』より解説します。
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日本人の死因のトップは悪性新生物、いわゆる「がん」です。
ですから、健康で長生きするには、症状のない早期のうちに発見するため、なるべく多くのがん検診を受けたほうがいいと考える人もいるでしょう。

ところが、がん検診もさまざまで、確かにがん死を減らすことが証明されているがん検診はあるものの、中には利益が明確でないものもあります。

がん検診は「無害」ではない
それでも、「検診を受けるだけなら何も害はない。少なくとも損はしないのだから、たくさん受けたほうがいい」と思うかもしれません。
しかし、「検診には害がない」という考えは間違っています。

薬やワクチンに害(副作用)があることはよく知られていますが、検診の害についてはあまり知られていません。
医師でもよくわかっていない人もいます。
医師などの専門職向けに書かれた検診の教科書の序文には、「すべての検診には害がある」とあります(※1 Angela E. Raffle and J. A. Muir Gray著,Screening: Evidence and Practice, Oxford University Press)。

これまで、また現在も不十分なエビデンスに基づいた検診が行われ、結果として検診が害をもたらしていることに注意を促すためです。
序文はこう続きます。
「いくつかの検診は利益もあり、その中には妥当な費用で実施でき、害よりも利益が上まわるものもある」。
検診を受けるなら、害だけがある検診を避け、利益が害に勝るものを選んだほうがいいでしょう。

がん検診の害には、さまざまなものがあります。
最もわかりやすい害は、「偽陽性(ぎようせい)」でしょう。
がん検診の1次検査では、がんの疑いのある人を広く拾い上げ、精密検査で確定診断をします。
この1次検査の結果、がんが疑われて精密検査を受けたけれど、最終的にはがんではなかった場合を偽陽性といいます。

デメリット2:過剰診断
がん検診は、1次検査で大量の偽陽性を生み出します。
そして、精密検査では、がんの疑いのある組織を採取するなどすれば痛みを伴い、出血や感染といった合併症を起こすことがありますし、最終的にがんではなかったとしても「がんかもしれない」と言われて結果が出るまでの間、不安になります。
中には、がんではないという精密検査の結果が出ても、そちらのほうが間違っていることを恐れ、ずっと不安なままの人もいます。

「過剰診断」も、がん検診の害の1つです。
過剰診断とは、「治療しなくても症状を起こしたり、死亡の原因になったりしない病気を診断すること」です。
無症状でがんと診断され、治療を受けた人の中には、治療をしなくても一生症状が出なかった人がいます。
過剰診断は珍しいものではなく、例えば検診で乳がんと診断された人の20〜30%が過剰診断です(※2 Bleyer A and Welch HG., Effect of three decades of screening mammography on breast-cancer incidence., N Engl J Med. 2012 Nov 22;367(21):1998-2005.)。

甲状腺がんは過剰診断が起こりやすく、韓国では甲状腺がん検診が盛んに行われたため、がんと診断される人が15倍になりましたが、その多くは過剰診断でした(※3 Ahn HS et al., Korea’s thyroid-cancer "epidemic"−screening and overdiagnosis., N Engl J Med. 2014 Nov 6;371(19):1765-7.)。
甲状腺がんや前立腺がんの一部のように治療をせずに経過観察するがんもありますが、多くの場合、がんと診断されると治療もされます。

過剰診断は「過剰治療」につながります。
「腫瘍マーカー」は意味がない では、具体的ながん検診を例に挙げていきましょう。

まず、PSA(前立腺特異抗原)以外の「腫瘍マーカーによるがん検診」はおすすめしません。
採血だけで測定できる腫瘍マーカーは、その手軽さのためか、がん検診によく利用されますが、利益は明確ではありません。

一般的に腫瘍マーカーはがんが進行しないと上昇せず、早期発見に向いていないのです。
保険適応となる腫瘍マーカーの使い方は、治療の効果判定、がんの手術後に再発していないかを調べるフォローアップ、画像で見つかった腫瘍の性質を知るための質的診断などを目的としたものです。

無症状の人からがんを見つけ出す検診目的では、全額自費になります。
数千円を払って、意味のない検査を受けるのは馬鹿馬鹿しいです。

「有効な検診」と「無効な検診」の差
例外的に、前立腺がんの腫瘍マーカーである「PSAによるがん検診」は、「前立腺がん死を減らすという研究結果」と「前立腺がん死を減らさないという研究結果」の両方があって議論があるところですが、日本では公的に推奨されていません。

アメリカ予防医学専門委員会(USPSTF)の推計によると、55〜69歳の男性1000人がPSAによる前立腺がん検診を受けると、10年間で100〜120人が偽陽性となり、精密検査を受けます。
場合によっては前立腺から組織を採取する生検が必要になり、一定の割合で出血や感染といった合併症が起きます。
一方で、利益は0〜1人の前立腺がん死の予防です(※4 Moyer VA et al., Screening for prostate cancer: U.S. Preventive Services Task Force Recommendation statement., Ann Intern Med. 2012 Jul 17;157(2):120-34)。
「前立腺がんで死ぬのだけは嫌だ」という人以外には、あまりおすすめしません。

医療機関によっては、「卵巣がん検診」「膵臓がん検診」「子宮体がん検診」も行われていますが、それらのがんにかかるリスクが家族歴などからきわめて高いことがわかっているといった個別の事情がない限り、おすすめしません。
卵巣がん検診はランダム化比較試験が行われましたが、がん死を減らすことは示されませんでした(※5 Buys SS et al., Effect of screening on ovarian cancer mortality: the Prostate, Lung, Colorectal and Ovarian (PLCO) Cancer Screening Randomized Controlled Trial., JAMA. 2011 Jun 8;305(22):2295-303.)。

卵巣はお腹の奥のほうにあり、がんと確定診断するためには手術が必要になります。
偽陽性の場合に害が大きいことも、卵巣がん検診がすすめられない理由の1つです。

膵臓がん検診、子宮体がん検診も同様です。
国際的にがん検診が有効とされているがんは、「子宮頸がん」「乳がん」「大腸がん」ですが、これらはいずれも病変が体表面かそのすぐ近くにあり(消化管粘膜は、医学的には体表面)、確定診断のために組織を採取しやすいといえます。

「リキッドバイオプシー」の有効性
腫瘍マーカーよりも早期にがんを発見できる手法として、「リキッドバイオプシー」と呼ばれるものもあります。
リキッドとは「液体」、バイオプシーとは「生検」のこと。
血液や尿などの液体中のがん細胞の核酸を検出する「マイクロRNA検査」、がんにかかると血液中のアミノ酸濃度のバランスが変化することを利用した「アミノインデックス検査」、尿中に含まれる微量のがんのにおいに線虫が反応することを利用した「N‐NOSE検査」があり、よく新聞などで「血液1滴でさまざまながんを診断できる夢の診断法」などと紹介されます。

リキッドバイオプシーの欠点
しかしながら、これらの検査はすべて研究段階です。
がんを発見することはできても、まだ「リキッドバイオプシーを利用したがん検診」が「がん死」を減らしたことを証明したという臨床試験はありません。
将来に期待です。

検査によって利益が得られるというエビデンスはないのに、リキッドバイオプシーを用いたがん検診を提供している医療機関もあります。
保険適応はありませんので自費です。
腫瘍マーカー検査よりも高価で数万円ほどかかりますが、利益が証明されていないことや偽陽性の害に関する説明はされていません。
がん検診には害がないという誤解を利用して、お金儲けをしているように見えます。

公的機関が行っている進行中の研究に協力するならともかく、ビジネス目的の医療機関でこうした検査を受けることはおすすめしません。

さらに複数の臓器のがんを1回の検査で発見できると称するリキッドバイオプシーには、偽陽性のときに際限なく検査を行われかねないという欠点もあります。
さまざまな臓器のがんを発見できる点が長所だとしても、これは欠点にもなりうるのです。

「偽陽性の割合」は想像以上に高い
さて、ここで問題です。
どの臓器だろうと、今後1年以内に発症するがんをすべて発見できる検査があるとしましょう。
がんではない人を誤って陽性としてしまう確率は5%とします。

60歳前後の日本人のがんの罹患率はだいたい10万人当たり1000人です。
60歳前後の日本人が、この検査によるがん検診を受けた場合、陽性と判定された中での偽陽性の割合はどれくらいでしょうか。
5%じゃありませんよ。

仮に10万人が検査を受けると、本当にがんである1000人に加えて、がんでない9万9000人のうちの5%で、4950人が検査で陽性となります。
検査で陽性と判定される人は、1000+4950=5950人です。
つまり、検査で陽性と出た人の中の偽陽性の人の割合は、4950÷5950=約83%ということになります。
多くの方が思っていたよりも、偽陽性の割合はずっと高いのではないでしょうか。

どのような検査でも一定の割合で不正確な結果が出ます。
がんの人よりもがんではない人が圧倒的に多いので、がん検診で多くの偽陽性が生じるのは仕方がないことです。
それでも公的に推奨されているがん検診では、精密検査は特定の臓器だけを対象に行えばすみます。

肺がん検診だと胸部CT、大腸がん検診だと大腸内視鏡検査といった具合に、臓器ごとに精密検査を行えばいいのです。
一方、複数の臓器のがんを発見できる検査で陽性になった場合、全身を調べる必要があります。
胸腹部CT、腹部エコー、上部消化管内視鏡、下部消化管内視鏡、女性ならマンモグラフィーに乳腺エコー検査、脳腫瘍を心配するなら頭部CTに頭部MRIも追加し、全身PET検査まで行う人も出てくるかもしれません。

「カネ目当て」の医療機関もある
さまざまながんを一度に発見するような検査は、「がんではない人を正確にがんではないと判定する能力」が極めて高くないと実用的ではありません。
そして現在のところ、そこまで正確なリキッドバイオプシーは存在しません。

偽陽性が多く、検査がたくさん必要になると、検査を行う医療機関にとっては金銭的な利益になるということも指摘しておきます。
ただし、誤解してほしくないのですが、がん検診がすべてダメだと言っているわけではありません。

利益が害を上まわるがん検診もあります。
やみくもに検診を受けるのではなく、利益と害について理解したうえで、有効な検診を選んで受けましょう。
また、検診はあくまでも症状がない人が受けるものです。
がんを疑うような症状がある場合は、早めに病院を受診してください。
posted by 小だぬき at 00:00| 神奈川 ☁| Comment(0) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする