「先に診察室に呼ばれる患者」の知られざる特徴
待ち時間を少なくするためにできること
2019/10/28 東洋経済
平松 類 : 医師/医学博士
病院は待たされるというイメージがある方が多いと思います。
しかも、ほかの健康そうな患者さんが先に呼ばれたり、簡単な治療でもやたら待たされることもあり、病院がどのように運営しているのか、ますますわからない感じがします。
『知ってはいけない 医者の正体』の著者の平松類氏は現役の医者。
巨大な総合病院である大学病院から、街角にある小さな診療所まで全国各地の病院に勤務し、延べ10万人以上の患者さんと接してきたことから、患者からの「医者にすごく聞いてみたい質問」に数多く答えてきています。
そんな平松氏が、私たちがよく抱く疑問について解説します。
先に呼ばれる患者に共通すること
外来で呼ばれる順番が前後するのはなぜでしょうか?
「病状により前後します」と書いてありますが、「どう見ても自分より調子がよさそう」なのに先に呼ばれる人がいて腹が立つこともあります。
それはいくつか理由があります。
先に呼ばれる患者さんでとくに多いのは、「ぱっと見では異常はないが、実は重症な人」。
例えば、普通に見えるけれども、実は脳に出血が溜まっていて、「このままだと意識を失う可能性があるので手術が必要」といった人などです。
時間がかかる人も、先に呼ばれがちです。
検査がいくつか必要で、先に診察をしてから検査をしたいという事情があります。
前回待たせすぎた患者さんも、早く呼ばれることが案外多くあります。
例えば、「何時間も待たせて検査だけしたら、怒って帰ってしまった。なので次回の診察は、早い」ということです。
感染症の人も、早く呼ばれます。
そのまま待たせておくと、人にうつしてしまうからです。
咳をしていなくても、感染症の人はいます。
待っていることを忘れられていることもある
とはいっても、「だから黙って待っていましょう」と言いたいわけではありません。
心配なのは、「私は忘れられていないのか?」ということだと思いますが、実は、忘れられることもあるのです。
病院は、医療ミスには神経質に考えますが(それでもゼロではないですが)、予約・待ち時間やお金のミスに関して、実はあまり深刻に考えていないところが多いです。
周りの人がどんどん呼ばれているが自分が呼ばれないときや、1時間以上も何の検査などもないときは、「それは仕方ないことだ」と思わず一言、「私、忘れられていませんよね?」と確認することは必要です。
ちなみに、「あと、どれくらいかかります?」という質問は、大抵「何とも言えない」と言われるか、適当な数字が返ってくるだけです。
なぜならば、質問された側も全体像をほぼ把握していないから。
それに「1時間で診察できる」と答えておきながら、実際は2時間になったら、職員の側としては困ります。
仮に、余裕を持たせて長めの時間を言ったとしても、「そんなに待つのか!?」と怒られるのも嫌だという心情です。
ずっと待合室で待っているのが嫌な場合は、
「1時間ぐらい外出していいですか?」
「トイレに行ってきていいですか?」というように具体的にお願いしたほうがいいです。
すると職員は答えやすいですから。
「院長の知り合い」であっても口にしてはならない
「院長の知り合いだ」というと優遇してくれると思っている人が、たくさんいるようです。
これ、完全にデマです。
そもそも優遇するといっても、せいぜい待ち時間を早くするぐらいで、治療を優遇することはありません。
なぜなら、どの人に対しても、医者ができる最大限の医療を行っているはずなので、それ以上が存在しないからです。
むしろ、「院長の知り合いだ」と言うほうが、逆効果になる可能性があります。
第一に、院長のことを大好きな職員ばかりではないという現実です。
職員同士でランチをとっている時に、「院長ってすごいよね」と言っている病院は結構少ないです。
むしろ愚痴が多いところもあります。
第二に「知り合いなら我慢してくれるよね」と受け取る職員も多いことです。
例えば私も、患者さんの中に友人がいた場合は、ほかの患者さんを優先させたくなります。
一般の患者さんを待たせるのは申し訳ないけれども、友人を待たせる分には「ごめんね、患者さんがいるからちょっと待ってて」と言いやすいからです。
第三に、「院長の知り合いだ」と声高に言うのは、暗に「俺を優遇しろ」と言っているように職員は感じます。
院長のご機嫌取りをするようなごく一部の志の低い職員は優遇してくれますが、一方で志の高い職員は職位で判断するのが嫌いです。
それなのに「院長の知り合いだから優遇しろって、どういうこと? 納得できない」と思う職員もいます。
政治家は待たされるけど、タレントは待たされない!?
ただ自分が医療関係者の場合は、相手に言ったほうがいいです。
そうすると、医者も説明がラクになります。
「この用語は知っていますよね?」と、一般の患者さんと違って、説明する時間が省けるからです。
市議会議員や国会議員など政治家の場合も優遇されませんし、あえて優遇しないように医者は気をつけていたりします。
変に優遇してしまうと「あの議員は優遇されている」と、悪い評判を得ることになってしまうからです。
ただし、テレビに出ているタレントさんなど有名人の場合は、場所によって扱いが違うと思います。
私ももともとは「タレントでも1人の患者さん。
順番を優遇するなんていけないことだ」と思って、実際に待ってもらっていました。
しかし、有名人が待ち時間にサインや握手を求められたり、病院で待っていることが、変にSNSなどで出回ってしまう可能性もありますし、実際に起きています。
このように、実際に接していくうちに有名人には一般の人にない苦労があることを知りました。
そこで私は、あまり目立たない場所で待ってもらったり、場合によっては早めに診たりすることがあります。
でもそれは、決して特別扱いしているのではありません。
普通にしていると、病院がうまくまわらなくなり、結果として周りを含め全員が困ってしまうからです。
とはいえ有名人の方々は「一般の方と同じように待ちますから」と言ってくれることが多いです。
午後の診察開始1時間後が狙い目
医者の時間割は病院の規模よって変わります。
だいたい、次のようになります。
医者が最も心の余裕がある時間帯は14〜15時頃、午後の診察開始から1時間程度経った頃となります。
この時間帯が、お勧めの受診時間となるのです。
話をいつもより丁寧に聞いてくれることも多いです。
患者さんの立場にしてみると、長くかかる病院は午前中に済ませたいし、せめて午後一番には終わらせたいことから、診療開始時刻から午後一番までは割と混みます。
その次に多いのが、診療時間終了間際になって「明日になる前に」と思って受診する患者さん。
このような事情から、午後の診察開始から1時間程度経った頃が狙い目の時間帯となるのです。
ちなみに、終了間際はスタッフのモチベーションがかなり下がります。
疲れていたり、お腹が空いてきたりしているからです。
追加の診察が入って定時に帰れなくなると、口には出しませんが「えーっ、もう帰れると思ったのに……」と思っている職員もいると思います。
経済情報サイト『Sankeibiz』の調べによると、一般職員の過労死予備軍(平均労働時間300日以上・週75時間以上)は1.2%ですが、勤務医ですと14.5%に上るといわれています。
それだけ勤務医は、労働時間が長いのです。